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【山田太郎問題】LGBT/難民/共同親権で暴かれるこどもまんなかの虚構

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 なお、シリーズの記事一覧は『
【山田太郎問題】序文と記事まとめ』から。


まんなか?

 【山田太郎問題】シリーズは、山田太郎の問題点を表現の自由から論じている。山田太郎の (虚構の) 売りは表現の自由を守ることだけではないが、私の限界もあって1つのイシューに絞った議論をしている。

 だが、領分を超えていると思いつつも、どうしても無視できない論点もある。そのひとつが、子供を中心とした福祉行政である。

 山田太郎は「こどもまんなか」のキャッチコピーを弄し、子供関連政策も売りとしている。2023年4月に発足したこども家庭庁の立役者が自分だとアピールし、『こども庁』なる書籍まで出版している。

 (もっとも、当該書籍の問題点は過去の記事 [1] で指摘した。代表的な指摘は、「こども庁」なる省庁などどこにも存在せず、タイトルから既に虚構にまみれているという点であろうか)

 しかし、彼の「こどもまんなか」という号令は本物だろうか? DV被害者が不安を抱える、いわゆる共同親権の法制化を前に、山田太郎の虚構を別の角度から暴きたい。

こどもまんなかの実情

山田太郎も賛成したLGBT理解増進法と改正入管法

 結論から言えば、山田太郎の「こどもまんなか」は虚構に過ぎない。そもそも自民党にいて子供の権利を保障する政策などできるはずがないなど、証拠は枚挙に暇がないが、ここでは代表的な事例を2つ取り上げたい。

 1つは、いわゆるLGBT理解増進法である。これはセクシャルマイノリティの多様性を擁護するための基本理念を定めたものだが、いくつもの問題が指摘されている (朝日新聞, 2023a [2])。

 その中でも特に悪質なのは、理解増進と銘打ちながら、条文 (12条) にバックラッシュを肯定するかのような文言を加えたことである。

(目的)
第一条 この法律は、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解が必ずしも十分でない現状に鑑み、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の推進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の役割等を明らかにするとともに、基本計画の策定その他の必要な事項を定めることにより、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性を受け入れる精神を涵かん養し、もって性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に寛容な社会の実現に資することを目的とする。
(中略)
(措置の実施等に当たっての留意)
第十二条 この法律に定める措置の実施等に当たっては、性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする。この場合において、政府は、その運用に必要な指針を策定するものとする。

令和五年法律第六十八号
性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律

 セクシャルマイノリティへの理解を増進するとしている法律において、『全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意する』などと書き込むことは、言い換えればセクシャルマイノリティへの理解を増進することが誰かしらの安全を脅かす可能性があるのだと言っているようなものである。

 こうした留意は、自民党とその支持者、とりわけトランスジェンダーに対する憎悪や差別意識を有する人々の要請によって作り出された。彼らは「女子トイレに女装した男が入る」などという、それ自体はトランスジェンダーと何ら関係のない犯罪行為や、「手術していないトランス女性が女湯に入ろうとする」といった非現実的な懸念を主張し続けている (週刊金曜日, 2023 [3]; 朝日新聞, 2023b [4])。

 そもそも、LGBT理解増進法は差別禁止法としてその成立を望まれていたものだ。にもかかわらず、党内の都合で差別を禁止しない条文へ後退させたこと自体、考えられないことである。

 LGBT理解増進法は子供を念頭に置いたものではないかもしれないが、セクシャルマイノリティの子供は思春期に様々な悩みや困難に直面することから、特に影響は大きいと言えよう。セクシャルマイノリティの子供は制服の規定や集団での活動、第二次性徴期や恋愛に関する悩みなど様々な面で自身のジェンダーを否応なく意識し、外的に表現しなければならない場面も多い。

 彼らのような子供を守るためにも、セクシャルマイノリティの権利は最大限に擁護されなければならない。ましてや、潜在的な犯罪者であるかのように扱われてよいはずがない。が、山田太郎はこの法案について特に言及が確認されておらず、何の葛藤もなくそのまま賛成したようである。「内心不満があるが、党議拘束で……」などという言い訳すら聞かなかった。

 もう1つの事例は改正入管法である。こちらも大きな抗議が巻き起こった悪法であるから、ご存じの方も多いだろう。改正入管法は、難民審査が杜撰に行われていたという批判を一切無視し、収容者の死亡事例 (いや殺人事件と呼んでよいか) の仔細も明らかにしないまま、難民申請中でも強制送還できるようにするなどの内容を含んで成立した (東京新聞, 2023 [5]; 移住連, 2023 [6])。

 難民申請者個人の水準で見ても、疑いようのない人権侵犯法である。が、子供という補助線を引くと別の問題も見えてくる。

 難民申請者の子供の中には、人生の大半を日本で暮らしてきたという者も少なくない。母国とされる土地には縁もゆかりもなく、あっても忘却のかなたであり、しかも政変や弾圧で身の安全も保障されない。そうした土地へ、杜撰な審査で強制送還されること、あるいはされかねない状況で暮らすことの影響は、子供に対してはより大きいことは想像に難くない。しかも、非正規滞在者は県外へ出ることも出来ず働くこともできない。このような状況で、子供たちが将来に希望をもって育つことができるだろうか。

 加えて、家族間の断絶も問題となる。政府は入管法改正に合わせ、場当たり的に非正規滞在の子供に在留特別許可を与えた (朝日新聞, 2023c [7])。しかし、子供にだけ在留許可があったところで意味がない。親が強制送還されれば生活の拠り所を失ってしまうからだ。そうなれば、結局は子供も親についていかざるを得ない。常識で考えればわかることだが、政府にはわからなかった。あるいはどうでもよかったのか。

 この件についても、山田太郎の言及は特に確認できない。参議院本会議では、共産党の仁比聡平議員が熱のこもった反対討論をしていた [8]。討論のなかでは入管庁の子供に対する非道もはっきり批判されていたが、山田太郎は寝ていたのだろうか。

無視されるマイノリティの子供たち

 2つのケースで共通しているのは、それぞれの法律によって被害を受ける子供はマイノリティだという点である。

 確かに、山田太郎は子供政策に熱心な風に振る舞っている。北海道でいじめの末に亡くなった子供の件では、わざわざ現地に赴いて花を手向けている (まぁ、その写真を著者に使うあたりわかりやすいが)。少なくとも、その子供のことは可哀想だと思ったのだろう。

 問題は、どうやらマイノリティの子供のことは特に可哀想だと思っていないようだということだ。犯罪者予備軍かのように扱われるトランスジェンダーの子供も、家族と引き離され自身の立場も危うい難民の子供も、どうでもいいと思っているのだろう。そうでなければ、法案に賛成し、何も言わないでおけるはずがない。

 言い換えれば、山田太郎が「こどもまんなか」と言ったとき、その「こども」に含まれるのはマジョリティの子供に限られるということだ。シスジェンダーで日本国籍の子供だけがまんなかにされるべきだと言われ、そうではないセクシャルマイノリティの子供や非正規滞在の子供は周縁へと追いやられる。子供ですら、属性でその扱いを変えて恥もせず葛藤もしないというのが「こどもまんなか」の正体である。

 山田太郎に限らず、こうした態度――「こども」はマジョリティの子供だけを指すという態度――は自民党の常套手段であった。朝鮮学校を高校無償化から排除して10年以上放置しているのも (毎日新聞, 2023 [9])、婚外子の相続に対する差別を違憲とした判決になお抵抗したのも彼らである (四国新聞, 2013 [10])。

 山田太郎の支持者以外は、みな自民党が「こどもまんなか」などできるはずがないことをとっくに知っていた。彼の妄言を信じ込んだのは、彼が何をやっても肯定する愚かな支持者と、マイノリティの子供を排除しても「こどもまんなか」になると思い込んでいる差別主義者だけだった。

全ては家父長制に通じる

共同親権で破壊される子供の権利

 そして、この「こどもまんなか」の虚構に共同親権が加わることとなる。

 共同親権の問題は既に語り尽くされていることと、現状ではどのような法律になるか不透明であるためここで詳しく語ることはしない。だが、わかりやすく整理すれば、DVや虐待などを原因として離婚に至った配偶者に親権を認める可能性を開くものであると言える。

 共同親権はDVや虐待の加害者に認められるものではないと主張されており、法案の修正というかたちで抵抗している立憲などの野党もそのような制度を目指しているだろう。しかし、DVや虐待が常に証明できるとは限らない (岐阜県弁護士会, 2024 [11])。離婚事例の中には、速やかな手続きのために被害の証明を諦めたものも多い。その場合、加害者が共同親権を得るリスクは否定できない。

 仮に、最終的に加害者を共同親権から排除できたとしても、共同親権を要求するという法手続きそのものが被害者への嫌がらせに使用されることは防げない。そしてひとたび共同親権となってしまえば、子供の進学や治療など様々な決定を盾に加害者は更なる加害に及ぶことが可能である。合法的にだ。

 こうした問題から、仮に共同親権を支持するとしても、現状のあまりにも稚拙な議論で制度を成立させることは明らかに子供の権利に適わない。が、やっぱり山田太郎はこの件について何も言及していない。少なくともこの記事を書いている現在は (そして十中八九このあともずっと)。動画配信のコメントには、珍しく支持者と思われるユーザーから共同親権に発言するように求めるものもあったが、放置されているようだ。

 先ほど、「こどもまんなか」には「マジョリティの子供」しか含まないと書いた。だが、これにはもう1つの意味がある。単に子供の属性がマジョリティだというだけの意味ではない。マジョリティの、つまり、マジョリティのもの、家長になる日本人男性の所有物である子供しか守られない、というより、家長の所有物としての立場から逃れられないようにするのが、共同親権の本当の意味である。

いくらイキっても自民党の本質には触れられない山田太郎

 以前の記事 [1]、山田太郎の『こども庁』本を批判する中で、私は彼が自民党の宿痾たる家父長制への執着を批判できていないと論じた。

 自民党という保守(ないしは極右)勢力において、家父長制がある種のドグマとなっていることは明白である。本書においても、「こども庁」という名称が強く反発を受けたことが書かれているが、これは子どもが「家庭」から解き放たれることが、家という牢獄に家族を家長(父や夫)の奴隷として縛り付けることで成立する家父長制にとって甚大なダメージとなるからに他ならない。縛るための道具がなければ奴隷制は成立しえないのである。
 同様に、こども基本法への反発からは、権利を家長の権限を阻害するものとみなし、家長の統制を外れることを「わがまま」と見なす極右家父長制的世界観を見て取ることが出来る。また、こどもコミッショナー制度への反発からは、日本社会の家長たる行政(あるいは自分たち政治勢力)の決定に逆らい子どもの権利を代弁する「こどもコミッショナー」への嫌悪感を読み取ることが可能である。

【山田太郎問題】『こども庁』本が無視し続ける自民党の本質

 今回も同じである。セクシャルマイノリティの存在は、男女が結婚して家庭を持つという旧来的なイエ制度への挑戦に他ならない。外国人が日本にやってきて家庭を持つことは、リソース (特に配偶者、日本人女性というリソース) を「外人ごとき」に奪われかねない家長の危機である。そして、離婚して自分の手を離れる妻と子供の存在は、家長の権威に対する真正面からの反抗である。

 家父長制を前提とする限り、これらの問題は人権の問題ではない。自身の権威を揺るがす挑戦であり、到底容認することができない天変地異である。そのため、山田太郎をはじめとする自民党議員は、様々な手を弄して制度を骨抜きにし、権利を否定するのである。

 「こどもまんなか」などと耳ざわりのよい言葉を使ったところで、自身に根付いた差別が変わるわけではない。真に子供の権利を擁護するには、家長を中心とし子供を所有物のように扱う家父長制それ自体を破壊しなければならない。

参考文献

[1]新橋九段 (2023). 【山田太郎問題】『こども庁』本が無視し続ける自民党の本質
[2]朝日新聞 (2023a). 「LGBT理解増進法」施行 当事者・支援団体からは内容に批判も 企業への影響は?
[3]週刊金曜日 (2023). 強まるトランスジェンダー女性への攻撃 「女湯に侵入」というデマ
[4]朝日新聞 (2023b). 「欧米で使い古されたデマ、トランスジェンダー標的に」神谷悠一さん
[5]東京新聞 (2023). 疑念だらけなのに議論打ち切り 入管難民法改正案の残された問題とは 「外国人の命が危機」の声上がる
[6]移住連 (2023). 【抗議声明】人の命を危うくする入管法改悪を、やめさせよう!
[7]朝日新聞 (2023c). 在留資格ない子ども、7割超に特別許可付与へ 法相発表「今回限り」
[8]共生の未来 あきらめぬ「入管法改悪案」断固反対の討論 2023.6.9
[9]毎日新聞 (2023). 朝鮮学校への高校無償化適用求め、生徒ら「金曜行動」500回
[10]四国新聞 (2013). 婚外子規定「拙速手続き」に反対/自民保守派
[11]岐阜県弁護士会 (2024). 離婚後共同親権の拙速な導入に反対する会長声明
[12] 角田由紀子 (2013). 性と法律 変わったこと,変えたいこと 岩波書店
[13]所一彦 (1965). 強姦罪 団藤重光 (編) 注釈刑法 (4) 各則 (2) 有斐閣
[14]新橋九段 (2024). 【レイプ神話解説】女性の証言は無条件で信用される、わけない

些細な暴行・脅迫の前にたやすく屈する貞操の如きは (有料部分)

 先ほど、私は山田太郎について、『北海道でいじめの末に亡くなった子供の件では、わざわざ現地に赴いて花を手向けている。少なくとも、その子供のことは可哀想だと思ったのだろう』と書いた。最後に、その幻想すら叩き伏せて終わりたい。

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