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この社会の未来のために、どうやって分配や協力を生み出すか?

初対面の人同士さえ結びつけ、共創を生み出す。

「ゲーム」と「ファシリテーション」にそのような力があるのではないか。

その力は、必要な知見は出揃っているのに、協力関係を築くのが上手くいっていないという人類の問題を一気に解決するほどの威力があるのではないか?

富山県滑川市であった「SDGs de 地方創生」という体験型のゲーム&ワークショップに参加して感じたことです。

この時の熱い経験や発想は前回のnoteにまとめました。


今回、その「SDGs de 地方創生」を生み出した会社 ---富山県に本社のある株式会社プロジェクトデザイン---の取締役 竹田法信さんにお話を伺うことができました。

竹田さんは、元市役所職員の方で、そのとき「SDGs未来都市」担当を経験しており、その知見を生かして株式会社プロジェクトデザインでは「SDGs de 地方創生」のプロジェクト拡大や最新のカードゲーム「2050カーボンニュートラル」の開発に携わってきました。

というわけで、インタビューテーマは「社会変革の始め方」です。

最初の2章までは僕の問題意識について共有して、そのあと竹田さんの登場となります。

〜プロフィール 竹田法信〜
筑波大学卒業後、自動車メーカーに入社。企画、販促、マーケティング、営業を行う。その後海外留学を経て、富山市役所に勤務。福祉、法務、内閣府派遣、人事、フィリピン駐在、SDGs未来都市担当を経て、2019年退職。現在は、株式会社プロジェクトデザインで取締役を務める。

<余ってるのに足りないという笑い話>

足ることを知らば貧といへども富と名づくべし、財ありとも欲多ければこれを貧と名づく   by源信 

「絶対的貧困」「飢餓」「資源のための紛争」といった、僕らの世界にまだギリギリ残っている、人類共通で生存のため満たされるべき物が満たされていないという課題。

それから人類全体の基本的な生活が豊かになることで生まれた「環境問題」。

このどちらの問題も、分配したり、協力したりすることさえ上手くできれば新たな技術的イノベーションを待つまでもなく解決しそうです。

だって、世界を全体として見れば、明らかに、衣食住はすでに人口に対して過剰なまでに生産されているでしょう。

なのに、衣食住がなくて死ぬ人がいたり、衣食住を確保するために自分を殺して働いている人がいたり、ましてや作りすぎて生きるための環境そのものが壊れかけてるなんて、ちゃんちゃらおかしい話です(ちゃんちゃらって言ってみたかった)。

こんなよくできたギャグはそうない。

この話も前々回の記事で詳しく書いています。

ここで書いたように、ゴミ屋敷にいる人が決して健全でも幸せでもないように、自分だけの物や情報やお金を「いつか役立つかもしれないから」と過剰に取っておくのは、適切に味わうための時間的・空間的・心理的スペースを失っている点で愚かとは言えないかと僕は考えています。

僕には、人を招けない家、使う先のないお金、会って意味もなく話す相手のいない思い出なんて、いくらあっても何の意味があるかわかりません。

だから、そういう意味で僕らに必要なのは、より上手く協力したり分配したりするための思想や社会システムの転換であって、何かをさらに過剰に生産することではないと思うのです。

<分配と協力に夢中になり、喜びを得られる世界>

前章で述べたような考えがあったので、「SDGs de 地方創生」に参加した経験は一つの大きな感動がありました。

他のプレイヤーに積極的に話しかけ、自ら協力や分配を申し出ると、その動きが広がっていく。そうして、みんなの力で、徐々に架空の街が豊かになっていく。

ゲーム最終盤には、ほぼ全員の個人的な目標も達成していました。

その喜びは、自分ひとりの目的が達成されるより遥かに大きかった。

誰かより足りないことを知るためにではなく、自分がどんな貢献をするスペースが世界にあるのか知るために情報を集める。

それがどんなに夢中になって楽しめることか。

このことを体感的に理解できたことは、間違いなく僕の人生にとって大きな収穫でした。

もしも、このゲームのように、参加する人が分配と協力に夢中になり、全体として豊かになることに喜びを感じられる世界になったら・・・と妄想せずにはいられません。

じゃあね、一体こんなすごいゲームを作って、世に広げようとしている竹田法信さんとはどんな人物なのか。どんな未来を描いているのか。

やっと本題です。竹田さんのお知り合いの方、だいぶ引っ張ってすみません。

<誰にしわ寄せが行くのかという視点>

久高:竹田さんは、カーボンニュートラルやSDGsといった世界規模で協力が必要になる大きな課題に貢献するという視点で動いておられます。いつからそういう意識が芽生えたんでしょうか?

竹田:原体験は小学生の頃、親と買い物に行ったときのことです。服のバーゲンセールを見かけてこんな会話をしたんです。

まず僕が「どうしてこんなに安く売れるの?お店潰れない?」と聞いた。そしたら、「在庫を抱えたり、処分にお金をかけたりするよりは、大安売りしてでも売り捌いたほうがいい。お客さんにとっても安く手に入るのなら喜ばしいことでしょ」と返されました。

そのとき、違和感があったんです。

久高:僕ならそこで納得しそうです。

竹田:素直じゃなかったのかな(笑)。とにかく、そんな都合のいい話があるのかと思ったんですよね。どこかしらにしわ寄せが行っているだろう、と思った。それは地球環境じゃないかとも。

久高:それはすごい。理屈は分かりますが、早熟ですね。

竹田:安くしてでも、毎年流行を作り出してでも、次から次へと消費させる。このサイクルにはキリがなさそうだぞと気づいて、危機感を持ったのかもしれません。今もそのときのような感覚で、環境問題に取り組んでいます。

とはいえ、実際アクションするときは、趣味的に楽しんでいるというほうが近いかもしれません。仕事以外でも、我が家の暖房は薪ストーブを使ったり、ガソリン車をなるべく使わないようにしていますが、仕方なくやっているみたいな感じは全くありません。

最近電気自動車を購入したのですが、家に届くのが楽しみです。

久高:なるほど、竹田さんの雰囲気や伝え方に強制的な感じがしないのは、きっと楽しんでいるからなんですね。

竹田:ありがとうございます。いろんな主義主張の方がいますが、違いを認め、それぞれ尊重するのが大事だと思っています。

<3ヶ月で1000人がプレイした背景にある焦り>

久高:昨年新たなカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を発表されていますね。

竹田:はい。ずっと取り組みたかったカーボンニュートラルをテーマにしたカードゲームをついに世に出すことができました。現在、カードができてから3ヶ月ほどが経ち、体験者が全国で1000人ほどになっています。

久高:すごいスピード感!「SDGs de 地方創生」のようにファシリテーターの方がいて、20名くらいの規模感で取り組むものという認識であっていますか?(竹田さん「はい」)

「SDGs de 地方創生」で感じたのですが、ゲーム内で協力を生み、狙って気づきを与えるためには、ゲームの力はもちろんですが、おそらくファシリテーターの方の力も欠かせないですよね。

竹田:そうですね。市販されているボードゲームだと、体験者がルールを理解できてさえいればツール制作者の意図した価値が提供される可能性が高いです。

しかし、カードゲーム「SDGs de 地方創生」や今力を入れている最新の「2050カーボンニュートラル」では、ファシリテーターの意図やスキルによって、異なるゲーム展開になったり、またゲーム自体が成立しなくなったりする可能性もあります。

ですので、「2050カーボンニュートラル」については、参加者が学びや気づきを得られるゲーム運営の方法を仕組み化し、その内容をファシリテーター養成講座でお伝えしています。

久高:どんな方がファシリテーターになっているんでしょうか?切迫した事情を抱える方もいるんですか?

竹田:今、世界の投資機関家や行政がESG経営に取り組まない企業に対しての風当たりを強めています。日本でも、多くの大企業がカーボンニュートラルに取り組んでおり、そういった企業は膨大な下請け企業に対してもカーボンニュートラルの推進を促しています。

久高:それは急いで対応しないとまずい事態ですね。

竹田:そうなんです。ですが、同じ企業内でも環境に対する意識の高さにはムラがある。全社的に取り組まないといけないのに、担当部署がひたすら「なんとかしろ」と言われるようなこともあるのでしょう。一体どうやって環境意識を高めたらいいのかと苦労している方は多いんです。

久高:なるほど、だから、公認のファシリテーターになって、ゲームを通した研修で社内変革を起こしていこうと。

竹田:そういうことです。

<ファシリテーターが一番成長できる>

久高:竹田さんは、「ゲーム」と「公認ファシリテーター」による啓蒙によって、SDGsや環境問題といった世界規模の課題に挑もうとされています。

竹田さんは、こうした大きな社会変革はどのようにして起こっていくものだと考えていますか?

竹田:それは明確にあって、最初は孤独な1人の勇気ある行動、小さな鳥が大規模な山火事に対し一滴の水を運ぶような行動がすべてです。そこから波紋が広がる。

そして、1人目の無力にも思える勇気に、呼応する2人目が現れたとき、ドミノのように活動が広がっていきます。波紋はやがてうねりとなり、津波となる。

久高:その社会変革の流れのどの部分に、プロジェクトデザインのゲームが貢献しているのだと思いますか?

竹田:社会課題に取り組むため、自分の属する組織や地域を変えたいと思っている人はたくさんいます。でも、多くがどうしていいかわからず途方に暮れている。

僕らは、変革を起こす1人目となりうる人たちです。そして、僕らは、熱意があればどんな人でもファシリテーターになれる仕組みと、参加者に社会課題の理解と解決に向けた取り組みを促進できるゲームを持っている。1人目となる人が自分のコミュニティで仲間を見つけ、周囲の意識を変容させる後押しができます。

だから、簡潔に言えば、社会変革に対するプロジェクトデザインの役割は、私たちの理念である“志ある行動者たちを結び付け、高めあい、社会を取り巻く問題を解決する”ですね。

久高:かっこいい。最高ですね。僕が協力できることがあったらいつでも呼んでください。

竹田:ありがとうございます。

<世界にファシリテーターを増やす>

久高:最後に、今後の展望を教えていただきたいです。

竹田:カーボンニュートラルは、人類一人ひとりにとって急を要する課題です。全員で挑むくらいのことが必要になる。だから、単純に、意識が変わり環境問題に取り組む人の数を増やしていかないといけないと考えています。

今、ファシリテーターは全国に60人ほどですが、来年度には150名まで増やしたい。

もっと言えば、日本だけでなく、世界中でファシリテーターを増やしたい。現在中東地域の企業と研修をするプロジェクトが動いていますが、こうした動きをもっと広げていきたいです。

久高:全世界の名もなきファシリテーターの方たちが起点となって、うねりとなり、大波となるわけですね。

竹田:ファシリテーターの方はゲームを通して周囲の意識を変えていきますが、一番変容するのは他ならぬファシリテーター自身だなと感じています。

久高:あぁ。確かに。ゲームそのものをコーディネートする側の気づきは大きそうですね。

竹田:ですです。自分が起点となって、ひとつの集団の意識を変容させるという経験によって、ファシリテーター自身が自分の使命や理念に気づき、より力強く活動するようになることが多い。だから、ゲームの参加者が増えることも重要ですが、それと同じくらいファシリテーターが増えることも重視しています。

久高:なるほど。あっという間に時間になりましたね。本日はありがとうございました!!ほんと、何か役立てることがあったらいつでも声かけてください。学生を集めたり、企画したり、文献を調べまくったり、文章を書いたりするのは得意です!

竹田:よろしくお願いします!

<インタビュー後記>

竹田さん、インタビューに応じていただき、ありがとうございました。富山から世界を股にかけ、人類にとっての課題に取り組む姿、とても刺激的でした。今後ともよろしくお願いします。

と書いたものの、書きながら、次から次へと話したいこと、聞きたいことが浮かんでくる。なんであれ聞かなかったんだろうと思うことが山盛りです。

たとえば・・・

・人が直接的に利害を感じにくい環境問題や地方創生など、公共的な問題に意識を向けるには、時間的ゆとりが大事だと思います。

日々の仕事の外に目を向けられないような社会では、社会の隅々まで意識の変革が行き渡るのは難しいのではないでしょうか?

・国内・海外の公共意識やコミュニティ意識を育むための取り組みで、竹田さんが注目しているものはありますか?

・ライター育成にもゲームの力を使えるでしょうか?

などなど。最後は私欲です笑。

よろしければ、またお話を聞かせてください。


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