見出し画像

【小5:文章題・速さの問題】”速さのなぜ?”を分かりやすく解説します(小5シリーズ④)

※この記事は、深澤英雄先生(神戸市の小・中学校で38年間教壇に立ち、教職大学院の特任教授を4年半務める。現在は和歌山大学教育学部の非常勤講師として学生の指導にあたる。久保田学園の第一号の生徒でもある。)をお招きして、久保田学園グループ代表久保田勤とグループ講師宮後のお話をベースに記事にしています。

前回の記事はこちら


子どもの”速さ”理解の実態

宮後:前回は三角形でしたが、今回は”速さ”についてお話いただけるということで、よろしくお願いします。

深澤:はい、よろしくお願いします。早速ですが、令和3年度全国学力・学習状況調査の算数で出された”速さ”の問題を見ていただきたいです。

令和4年全国学力検査算数

代表:速さの基礎を確認する問題ですね。答えは当然1⃣になりますが深澤さん、この問題の正解率はどれくらいなんですか?

深澤:驚かれる方も多いと思いますが、正答率はなんと、56.0%です。大人のとっては、”なんでこんな問題間違えるの?”と思われることも子どもにとっては意外に難しいのです。

実はややこしい:速さを表す数字の大小関係

宮後:確かに、私たち目線では難しいとは感じませんが、子どもたちがつまずきやすい”速さ”の問題であるだけでなく、文章題でもあるので躓く子どもは多いのかもしれませんね。”速さ”の問題はなぜ躓きやすいのでしょうか?

深澤:数字の大小と速さの関係が子どもにとっては複雑だからかもしれません。例えば、駅まで車で移動するのに、”時速50キロで進む”のとと”時速100キロで進む”のだと、当然”100キロで進む”のが速いわけですよね。ですが、駅まで車で”50分かかる”のと、”100分かかる”のでは”50分かかる”ほうが速いわけです。速さ大きいのに、数字が大きかったり、小さかったりするんです。実はこれが子どもにとっては難しいと感じる原因になるんです。

久保田:単位が表している意味や、速さと距離と時間の関係を理解しているかどうか、本当にそれに尽きると思います。速さは文章題の中で割り算を使ったり、掛け算を使ったりする問題なのでただ数字だけを追うのではなく、きちんとその数字が”速さ””距離””時間”のどれを表しているのかを理解して、それに合わせた計算をしていなければなりません。

深澤:しっかり理解している子は大丈夫なのですが、ちょっと言い方を変えて”1分間あたりの道のりは?”とか”500m進むのにかかった時間は?”となると、出てきた数字が大きいほうが速いのか、小さいほうが速いのか、意味を理解していない子どもは混乱してしまうんです。その見方で先ほどの問題を確認すると、

1⃣ 1分間あたりに進む道のりは(ア)80mと(イ)約71mなので(ア)の方が速い。
2⃣ 1分間あたりに進む道のりは(ア)80mと(イ)約71mなので(イ)の方が速い。

深澤:この問題で2⃣を選んでしまうのは、出てきた数字が小さい方が速いのだと勘違いしている可能性が高いということなのです。子どもたちの日常経験で速さを感じる場面は50 m走です。同じ距離を短い時間で走った方が速いという経験を思い出します。解答2と答えた子は、この経験で判断しているのかもしれません。

久保田:1分間(時間)当たりに進む道のりを表している場合は、その長さが長い方が速い。1m(道のり)当たりにかかる時間を表している場合は、その時間が短い方が速い。出てきている数字が何を表しているのかをしっかり確認していくことがこのような誤解をしている子どもの助けになるかもしれませんね。

速さって何かな?を聞く

宮後:では3⃣や4⃣のような間違いをするのはどのような理由があるのでしょうか?

深澤:これも驚かれる方が多いかと思いますが、3⃣・4⃣を選んだ子どもは実は16.2%もいます。

3⃣ 1mあたりにかかる時間は(ア)80分と(イ)約71分なので(ア)の方が速い。
4⃣ 1mあたりにかかる時間は(ア)80分と(イ)約71分なので(イ)の方が速い。

 深澤:この2つの選択肢を選んでしまう理由は、速さを求める式が”1分間当たりに進む道のりを求めるための式”であることを理解していないと考えられます。

久保田:これは、割り算の意味そのものを理解しているかどうか大事ですね。割り算には”1あたりを求める”という意味があります。今回速さを求める割り算の式をよく見ていると

割り算の式   1600(m) ÷ 20(分) = 80(m/分)

久保田:1600を20に分けてその1つにどれだけあるかという考え方ですね。この”1あたり”を求めるという考えで式を見直すと、20(分)で割ったうちの1つ、つまり1分あたりを計算しているのだということがわかるようにできています。

深澤:そうですね。そのように速さは”1分(時間・秒)あたりに進むみちのり”だとわかっていると、3⃣・4⃣がどちらも”1mあたりに”となっているのでおかしいというのがすぐにわかるんです。

対策:日常のシーンでの問いかけが効果的

宮後:”速さ”を正しく理解するには、どのようにするのがよいのでしょうか?

深澤:子どもたちが日常の中で速さを感じる体験のシーンで問いかけしてみるのが一番だと思います。一番体感しやすいのは車に乗っている時です。スピードメーターの数字が大きいほど、スピードが速いというのが体感でわかります。さらに車だと、いつもより短時間で目的地に到着することも実感できます。速度感と時間の感覚が体でわかると思います。

久保田:算数のワークで速さの問題を解いた時に、車に乗った体験を思い出すような問いかけをして、ワークで解いた答えの意味を考えてもらうのが効果的だと思いますね。そして、自分の出した答えの意味を見直すことができるようにすることも大切です。自転車などでも良いでしょうね。

深澤:体験を思い出しながら、「どちらが速い?。」や「どうして速いと分かるの?。」などと子どもに問いかけ,速さを比べることの意味を理解できるようにすることがとても大切ですね。

まとめ

▸”速さ”をあらわす数字の大小は不慣れな子どもには勘違いを起こしやすい
 速度が大きいと、進む距離が長いく、かかる時間は短い
▸”
速さ”の意味を理解しよう。
 速さとは1(時間・分・秒)あたりにどれだけの道のりをすすむか
▸”速い”と時間がどうなって、進む距離がどうなっているかを体感できる場面で問いかけるのが最も効果的