胡桃

23歳、たよりない人生のこと。

胡桃

23歳、たよりない人生のこと。

最近の記事

母の日記

調子の良くない日々が1ヶ月ほど続いていた。 ちょうど月一回の精神科の通院があったので、診察で話をしてみることにする。 家から近くのクリニックに通っているため、いつも知り合いに見つかるのではないかと落ち着かない気持ちになる。 でも、見られたからなんなのだ。とも思う。 今どき精神科にかかることは特別なことではないし、心に問題を抱えていることを恥じる必要もない。 狭いけど明るく綺麗な待合室は10代くらいの若い人からお年寄りまで性別もさまざまで混み合っている。 皆んな普通だ。見た

    • 人間らしい

      5/11 日記 . 8時に起きてバイトに向かう。 到着した電車から人が流れ出てくる。 駅のホームに人の川ができる。 向こう岸へ渡れず立ち尽くす。 土曜日の人間は眩しい。 天気も良くて、お祭りぐらいに浮かれている。 エネルギーに押し負けて道の端の方を歩く。 サービス業で働いている人たちをなるべく多く視界に入れて自分を鼓舞して行く。 今日はバイトのあとに予定があるので、 なるべく定時で上がりたい。 お客さんが多くて仕事が長引く。 焦って普段はしないミスをする。 注意されて

      • 嬉しい日

        朝、起きてまずカーテンを開けると、 予報のとおり、雲ひとつない真っ青な空。 絶好の洗濯日和。 布団やら、ニットやら、お気に入りのパーカーやら、普段の洗濯で洗えないものを次々洗濯機に放り込んでお洒落着洗いで回す。 コーヒーを飲みながら待つ。 柔軟剤の匂いになった洗濯物を干した。 くるりとユーミンの『シャツを洗えば』を歌いながらノリノリで干した。 猫がベランダに出たがるので出してやる。 人間ひとりと猫一匹。 しばらくのびのび日光浴。 猫が危ないことをしないよう目線で追いつ

        • 退屈な旅行

          小2か小3くらいのとき、家族でトルコ旅行に行った。 現地のガイド付きのツアーで、バスに乗っているだけで乗客を色々な観光地まで運んでくれた。 古代の遺跡やら世界遺産の絶景やら、 大人になった今でこそ最高に心が躍りそうな場所を見たけれど、あの頃はまだ幼くて面白さがさっぱり分からなかった。 ほとんどの記憶を、ひたすらに進んでいくバスの長距離移動に飽き飽きしていた思い出が占めている。 たしか私はずっと不機嫌だった。 大人は寝てばかり。 姉は相手にしてくれない。 スマホも音楽も

        母の日記

          勇気をあなたに

          新しい職場でバイトを始めて1ヶ月。 まだ慣れたとは言えない。 むしろ、日に日に増える仕事やプレッシャーにあたふたしている毎日である。 急に訪れた春の陽気のせいか、 明日から新社会人の人たちへの感情移入のせいか、 妙にそわそわと落ち着かず、緊張感のある夜だ。 こんな夜には、部屋の中を見渡す。 今日までの自分が集めてきた大好きなものたちを手に取って確かめる。 本、漫画、映画のDVD、アニメのグッズ、ポストカード、アクセサリー、香水....。 生きてきた証、といえば大袈裟だ

          勇気をあなたに

          そんな気分

          今日はお休み。 母の運転する車に乗ってドライブがてらタイ料理を食べに行った。 千葉県は田舎で、車を少し走らせば田んぼが広がる。 田植えの時期にはまだ早い、人のいない広大な田んぼ。 平らな土地の遠くに続く空白を青空が隙間なく埋めている。 窓を開ければ、春の風が髪を揺らして遊ぶ。 母とドライブする時間が好きだ。 いつも私の好きな歌を流させてくれて、 私はだいたい宇多田ヒカルかBUMPを流す。 そしてだいたい隣で不安をこぼす。 この世界には横並びでいる時にしか打ち明けられな

          そんな気分

          春を待つ

          新しくアルバイトを始めた。 環境が変わることがすごく苦手な私は、 新しい仕事を覚えることにも、 新しい人間関係に馴染むことにも、 膨大なパワーを必要とする。 極度のあがり症で、初出勤の1週間前くらいからソワソワと落ち着かなくなり、前日には心臓がバクバク鳴り始め、家族との会話もままならないぐらいに緊張していた。 そんなふうになる度に、こんなことでどうする、と思う。 お布団の外は怖いことだらけなのだ。 この程度のことで怯えていてはちゃんと生きていけない。 心も、体も、当た

          春を待つ

          巡り巡って

          昔から、空を眺めるのが好きだった。 教室の窓から、駅のホームから、自分の部屋から。 いろんな場所から青空を見た。 自分に酔ったイタイ人間だと言ってしまえば実際にそうだし、 「23にもなってお恥ずかしいのですが、どうにも中二病が止まらなくて…」としか答えようがない。 授業中、いつもいつも空を見つめていた。 窓から離れた廊下側の席であっても、教室のドアの隙間から見える僅かな空に思いを馳せた。 退屈な日常とか、やるせない現実とか、自分の居場所が見つからない感じとか、そういう気

          巡り巡って

          春の輪郭

          季節の匂いをかぐと、 過去の同じ季節の記憶が蘇ってくる。 今日はまだ2月なのにずいぶんと暖かく、外には春の気配が漂っていた。 天気予報によれば明日からはまた寒くなるようだけど、そんなことは全く感じさせない空気感でパーカー1枚で歩いていても少し汗ばむくらいだった。 道端の花とかも、気づけば結構咲いている。 春の匂いは色んな感情を連れてくる。 これから出会う新しい出来事にわくわくするような感覚もあれば、無性に憂鬱で泣きたくなるような気持ちもする。 春はあまり得意ではない。

          春の輪郭

          すり減ってく

          最近、映画やドラマの中に、心を軽くしてくれるような優しくてあったかいセリフが増えたなと思う。 単に今の自分がそういう言葉を敏感にキャッチしているだけかもしれないし、時代的に心の健康とかアイデンティティみたいなものを大切にする文化が発達しているのかもしれない。 理由は分からないけど、心を救ってくれる言葉によく出会うようになって、自分を肯定されたような安心感があった。 幾つも、幾つも、溢したくない言葉を胸いっぱいに抱えて歩いている。 「自分は自分として生きていきたい」みたいな

          すり減ってく

          溺れるもの

          今日は節分なので恵方巻きを食べることにした。 朝起きてから1日自分が何をしていたのか殆ど思い出せず、なんてぼやっとした日を過ごしていたのだろうと、今もぼやっとしている頭で振り返っている。 リビングのソファに溶けながら、姉に 「王様のブランチとか、土曜朝の番組を見ると不安な気持ちになる」と言ったら「分からん」と言われたり(たぶん土日が始まる=土日が終わるというネガティブ思考によるもの)、姉妹そろってmbtiの結果が社会不適合者みたいなタイプであることを嘆いたり、姉が猫ミーム

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          きっと死ぬまで

          『コントが始まる』という3年前に放送されていたドラマを観ている。 10年間コント師として活動したが売れず、解散を決意するトリオ芸人=マクベスと、マクベスのファンをしている元OL=中浜さん、その妹=つむぎの人生の再スタートを描いたドラマで、放送当時は流し見程度に観ていたのだけれど、今ちゃんと観たら救われるような気がしてHuluに入会した。 大手企業を辞め、ファミレスでバイトをしている中浜さんが自分の過去を打ち明ける話で、 「言われたことは一生懸命やるタイプなんです」 「働い

          きっと死ぬまで

          お守りみたいに

          日曜日、大学のゼミで一緒だった友人数名と久しぶりに会った。 タイカレーを食べようと恵比寿駅の前で待ち合わせ、軽く挨拶を済ませたあと予約してくれていたお店へ向かった。 店内には韓国ドラマの盛り上がるシーンで流れてそうな曲がかかっていた。すれ違い続けた男女が雨の中で再会して抱きしめ合う、その瞬間がスローモーションになるシーン。しかし韓国ドラマをほとんど観たことがないので実際そんな展開あるのか分からない。(あと韓国語の曲でもなかった) なんかサラサラした甘めのカレー(チキンが

          お守りみたいに

          友人は今ごろバリで

          中学からの友人がバリ島へ旅立っていった。 彼女とは中1の時に出会って、高校は別々だったけれど大学でまた一緒になった。 芸術系の大学で、私は写真。彼女は映画音響を学んでいた。 地元の友達には芸術系に進む人があまり居なかったから、友達というよりも「同志」という感覚の方が強かったかもしれない。 専門分野が違うため同じ授業を受けることは殆どなかったけれど、キャンパス内で奮闘している姿を見かけては、頑張る力を貰っていた。 よく、夜の道を一緒に歩いた。 カラオケで早口な曲を熱唱し

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          不毛な恋

          芸能人や有名人といった手の届かない存在を、軽率に好きになってしまう癖がある。 推しと恋愛の区別をつけられないことを良く思わない人もいるだろうし、自分でも嫌なので辞めたい。 でも好きになったとしてもSNSで騒ぐわけでもないし、同担拒否もしないし、仲のいい友達を相手にその決して叶うことのない不毛な片思いについて語るだけなので許してくれ…!とも思う。 出来ることなら私だって普通に推しとして、純粋に応援したいのだけれど、惚れっぽい性格のせいなのかすぐに恋愛感情を持ってしまう。 な

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          いつのまにか

          年が明けて数日が経った。 まだ仕事を納めて間もない人々が、早々に仕事始めを迎えている。 夕方と呼ぶにはまだ早い時間。 私だけ世界から取り残されているような気持ちになって家を出る。 ラジオを耳に流しながら川の方へ歩き続けた。 冬の空は澄んでいて、ピンクから水色へ細やかなグラデーションをかけている。 似たような空をこれまで何度見てきただろう。 その度、新鮮に心が動く。 冬の空気は吸って吐くだけでも良さがある。 人の少ない川沿いでキラキラと光る水面を見ていた。 工事のために橋

          いつのまにか