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2020年10月9日という日付

2019年にウチの中二がヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種をしたとき、日本政府はまだHPVワクチンのリスクの説明を全面に打ち出しており推奨はしていませんでした。国内でのHPVウイルスワクチンの課題については村中璃子さんの一連の活動があり、

国際的にもジョン・マドックス賞(Nature誌の元編集長が創設した、科学ジャーナリズムで注目されている賞)の受賞で高い評価を得ています。

実際、WHOは2015年時点で既に日本政府に対して警告を発出しており、長い間ワクチン副反応の誤った報道によって日本の女性たちの子宮頸がん発症リスクは上昇してきていました。

今回のCOVID-19ワクチンに対する国内の反応を見ていて「そういえば厚労省はHPVワクチン対応はどうしたのだろうか?」と思い、改めて調べてみました。

すると、2020年10月9日に厚生労働省健康局長名で都道府県知事宛の通知(健発1009第1号)と、厚生労働省健康局健康課長名で都道府県衛生主管部(局)長宛の通知(健健発1009第1号)が発出されていました。この「ヒトパピローマウイルス感染症に係る定期接種の対象者等への周知について」という文書を読むと「積極的な勧奨を差し控えている状況にあるが」と前置きをした上で、「『ヒトパピ ローマウイルス感染症の定期接種の対応について(勧告)』(平成 25 年6月 14 日健発 0614 第1号厚生労働省健康局長通知)の一部を改正する。」とあります。改正された勧告では「市町村長は、接種の積極的な勧奨とならないよう留意すること。」という前置きは残したまま、「ヒトパピローマウイルス感染症の定期接種を中止するものではないので、 対象者のうち希望者が定期接種を受けることができるよう、市町村長は「予防接種法第5条第1項の規定による予防接種の実施について」(平成25年3 月30日健発0330第2号厚生労働省健康局長通知)の別添「定期接種実施要領」第1の2にあるとおり、予防接種法施行令(昭和23年政令第197号)第 5条の規定による公告及び同令第6条の規定による対象者等への周知等を行うとともに、接種機会の確保を図ること。」という記載に変わりました。もちろん、安全性についての懸念は依然として記載がありますが、要は「自分たちのこれまでの活動は否定しないけれども、それを踏まえた上でHPVワクチンは提供できる体制を整えます」という、ブレーキを踏んだままアクセルを踏み始めたと読めます。翌年2021年1月26日には厚生労働省健康局健康課予防接種室名で再依頼の文書も出ていることから、組織的に動き始めていることも確認できます。

これと関係するかどうかわかりませんが、日本産婦人科学会でも2021年1月にホームページ上でも啓発活動を活発化しています。

そして肝心な報道ですが、最近になってようやく一部ネットメディアでHPVワクチンの課題と、対応について議論が始まっているようです。

昨年2020年10月9日前後の報道を見ても、「厚生労働省、HPVワクチンを推奨へ!」と言ったアクティブな記事は見当たりません。これまで散々ネガティブ報道をしてきたことを考えると、積極的なアクションをしないというネガティブ報道は続いているように感じます。これは当然厚労省側も同じなのでしょう。これまでは医療の課題として取り上げてきたことを撤回すると、そこそこのポジションにいる人達の過去の業績を否定するということにつながる…という忖度が働くのは日本だと当たり前になのかもしれません。ただ、過去の過ちの謝罪をしないまでも、最低限公平な情報の提供はしてほしいものです。たしかにこの厚労省の情報の出し方は難解かつ、誤解を招きやすい表現と、複数の文書にまたがっており、相当な専門性がないと読み解けません。

多くの場合、この手の重大な発表の前後には、その発出を決める会議(今回は第 49 回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会・令和 2年度第6回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)の出席者などから情報が提供されるのだと思うのですが、この部会の資料を見ても「既に平成30年(2018年)からリーフレットを通じて情報提供をしてきたが、十分に周知されていなかったので周知をしっかりする」という内容の議論と、安全性についての型通りの報告しかありません。

ただ、ここで決めたしたことになっている前述の勧告からハッキリと「積極的な勧奨を行っていないことを伝える」という文言が消えていることを新旧対照表で示しています。「積極的な勧奨を差し控えている状況にある」のは変えないけれども、その事実を伝えるのをやめるという決定をしたという… 極めて、極めて難解です。多分私の理解も100%正解でない自信があります。Q&Aでもこの「積極的な推奨をしない」については記載があるので、難解であるという自覚はあるよらしく、私の理解の方向性は間違っていないと思います。今、この流れを変える立場にある官僚や委員の先生方のご苦労がにじみ出ています。

ここで忘れてはいけないのは、すべてのワクチンが万能ではないということです。あまりオモテには出ていませんが、HPV自体も型がいくつかあり、既存のワクチンだけでの対応については議論があるのも事実です。

しかし、それは専門家が議論するレベルであり、かなり詳細な科学的な議論を逆手に取って政策としての今の流れを変えるべきではありません。

何れにせよ、2020年10月9日は日本のHPVに対する戦いの分岐点の一つとして振り返られる日が来るのかもしれません。


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