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ボーカロイドを"読む"~しま氏監修のボーカロイドガイド本をみんなに紹介してみよう、の話⑤

どーも、kthn.です。この連載はStripelessレーベルの旗手、"しま"氏が監修されたボーカロイド本を特集しております。
ナンバリングは⑤と符ってありますが、記事は4冊目の紹介と相成ります。
よろしければ前回の記事なども合わせて一読頂けると幸いです。


今回、冒頭から湿っぽい話で申し訳ないのですが、前回のガイド本(2018)の頒布時期にボーカロイド界隈にとっても、そして自分にとっても不幸な激震が走った。

今回紹介する本(2019)にもその関連トピックが紹介されているのですが、日本中にその衝撃が走る中でもしま氏含めたスタッフは迅速に動き、2018の頒布直前にも関わらずあとがきに急遽文面を追記掲載をしていました。

その文章の初見時、目頭が熱くなったことを今でも覚えています。
急遽あの話題を掲載してくれたスタッフ陣の配慮には本当に敬意の念しかありません。
具体的な文章についてはこの本を直接お手に取ってorDLしていただいて(CM)、そしてその内容については

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この画像で、察して下さい…。

それでも全く何の事を言っているのか判らない…という方は、この紹介記事を読んで行けば自ずと判る!!
という訳で、気を取り直して、2019のご紹介と行きましょう!!


・ボーカロイド音楽の世界 2019

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本誌(2019)の特徴として、書籍のデザイン・組版が

・レギュラー記事
・コラム
・特集1
・特集2

とリスポイルされており、一段と読み易くなった感じ。
一連の流れを見て来た一読者としては、フォーマットの移り変わりを感じられてとても感慨深いものに。
という訳で早速、一つずつピックアップして紹介して行きまっしょう。


★ボーカロイドに関する2019年の重要トピック


一年を総括するレギュラー記事の一角。
こうして並べて貰うと「ボーカロイド界隈」に関連する出来事っていうのは、その矛先が現在~未来に向けられている様な気がするなぁ。
上手く言葉に出来ないけれど、何か「夢」を感じさせる事が多い。
そしてその内容は

・初音ミクNTの発表
・AI美空ひばりやAIりんなの存在
・Vtuberとの共演
・ウィーン少年合唱団舞踏会に結月ゆかり・桜乃そらが出演
・訃報
・「Kiite」一般公開
・「KARENT」配信曲、「TikTok」で利用の許可

と、何ともバラエティ豊かなトピックに(例年通り)。
それぞれの項目に触れて行きましょう。


・初音ミクNTの発表

「初音ミクNT(ニュータイプ)」のモデルチェンジの発表は単なる「初音ミクV4」の後継に止まらない、新たなる進化への大胆な可能性と挑戦が秘められている。


だが、その発表は受け取る側に対して大いなる動揺も残す事となる…。
その発表時のスペック説明と反応、今後の周囲からの視点と予想という内容に。

(※2020.11.27に初音ミクNTは製品版として無事発売。おめでとうございます。)




・AI美空ひばりやAIりんなの存在

「AI美空ひばり」は加藤和也氏と秋元康氏主導の元で進められたプロジェクトで、2019年9月にNHKが特番として放送。

その反響から同年12月にCD・CTを販売。
お茶の間的には同年末の紅白歌合戦が記憶に新しい。

(画像リンク先:YouTube)

だが、大衆の目に入った事から生命倫理のボーダーラインへの議論が活発化されることとなった。

本書にはAI美空ひばりの歌声にYAMAHA謹製「VOCALOID:AI」が採用されたことによりピックアップされた(…と思われる。多分)。

そして記事内では「AIりんな」の件にも触れている。

2015年に人工知能キャラクターの第2弾として発表された「AIりんな」(日本マイクロソフト株式会社謹製)。
合成音声で歌い、大手メジャーレーベルと契約した話題について触れている。

本書企画のの合成音声に対する守備範囲の広さには本当に脱帽。


※完全に余談ですが、自分も森美術館で開催された「未来と芸術展」にて「AI美空ひばり」の実物を確認しています。


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・Vtuberとの共演

Vtuber(又はVライバー。バーチャルユーチューバーの略)がイベント等の外部にアクセスする際に共演する選択肢として選出される様になった事例を挙げている。
ライブへの参戦や企業アンバサダーへの就任の話など。



・ウィーン少年合唱団舞踏会に結月ゆかり・桜乃そらが出演

オーストリアのコーブルク宮殿にて執り行われた「(第4回)ウィーン少年合唱団舞踏会」にて、オーストリアと日本の友好150周年を記念した催事も盛り込まれた。
その際に日本の文化も紹介され、「歌う大使」として、結月ゆかり・桜乃そら・石黒千尋(結月ゆかりCV担当)が出演。「AHSボーカロイドコンサート」としてコンサートが開催された。
ここではそのトピックについて触れられている。

※「AHS」とは何ぞ…?という方はこちらを。



・訃報

NUMBER GIRLやlivetuneの影響を受けて、テレキャスターを相棒に2009年3月から(初音ミクのソフトウェア購入時)ボカロPとしての活動を開始したwowaka(現実逃避P)。
ロックバンド・ヒトリエを立ち上げ、ボーカル&ギターを担当し、今まで生きてきた「孤独」という経験すら作品に投影・昇華し、まるで何かを取り戻すかの様に突き進んでいったwowaka。
その快進撃を続けてきた彼が、2019年4月5日。
急性心不全の為に永眠することになる。
本項目はその悲報について触れている。



・「Kiite」一般公開

クリプトン・フューチャー・メディア株式会社(以下:クリプトン)と国立研究開発法人産業技術総合研究所(産業技術総合研究所・産総研)が共同開発した、音楽推薦機能等を実装した音楽発掘インターフェイス「kiite」が一般公開された。
記事内容はその機能とサービスコンテンツに触れており、解り易く解説してくれている。


※ちなみにKiiteはスマートフォンにも対応したので是非。



・「KARENT」配信曲、「TikTok」で利用の許可

「クリプトン」が「初音ミク」を使用したクリエイター応援企画を実施。
企画内容として「TikTok」内に初音ミク公式アカウントを開設し、投稿や多数の目に触れるチャンスを増やして行く…というもの。
それにより、ボーカロイド楽曲を専門に取り扱うクリプトン運営のレーベル「KARENT」配信中の楽曲をTikTok内利用可能楽曲として公式に提供。
その案件へのポジティブな見解が書かれている。


※ちなみに重要トピックの記事への協力として、「週間ボーカロイド・フロンティア・ニュース」が全面協力していらっしゃるので、そちらのリンクも貼っておきます。


★The 55 Songs of 2019
★The 30 Albums of 2019

レギュラー記事の柱の一柱。大御所から期待の新星まで、様々なアーティストをピックアップ。
このレギュラー記事はただの紹介ではなく、最短で作品に触れられるリンクも記載されているのが嬉しい。

オススメ曲のジャンルが多様化し過ぎて全てを聴くと脳内と耳内が混線してしまうのもご愛嬌。
寧ろそれが「ボカロ」なんだよなぁ。


・interview Chiquewa

The 30 Albums of 2019にてアルバム「君だけの魔法」がピックアップされた、Chiquewa氏。
ソウルやR&B・ファンク等アフロミュージックへの造詣と愛情が深い、本人による作品振り返りも含めて必見である。

巡音ルカ好きの自分…歓喜っス!!(個人的な感想です)。


★column フィクションの権化、VOCALOID。 ─左手

それぞれに独自のキャラクター性を持つVOCALOID。
それに纏わる楽曲作品は従来のアーティスト楽曲作品郡と比べると、視聴側の聴き方・受け入れ方、そして創作側にもある種の「特殊性」が備わる、という特徴がある。
しかしながら、その楽曲を製作する側は人間、かつ
「いちアーティスト・ミュージシャン・クリエイター」である。

ここでは左手氏が「フィクション」・「ノンフィクション」・「壁」というキーワードを用いて、クリエイター側の視点からシーンの特異点や留意点に触れ、イメージの距離感や定着性、展開などについて語る。

VOCALOIDやその楽曲に触れる魅力というのは、実に説明するのが難しい…と思う時がある。
本書の内容に抵触しそうなので言及は避けるが、作品と自己のパブリックイメージが乖離しそう…と危機感を持たれているクリエイターの方には特に一読してほしい良記事。


★column 『しゃべるボカロとボカロP』についてのいくつかの断章 ─平田義久

平田義久氏主宰の元、StripelessよりボカロPそれぞれとボーカロイドの関係性の掛け合いをボイスドラマで収録した『しゃべるボカロとボカロP』がリリースされた。
その企画の発端や制作の動機、そしてそれに纏わる幾つかの断章。

人間とボーカロイドの会話、という一度は想像したであろうファンタジーがいち作品に…!!
製作者側、しかも主宰である本人の口から語られるという貴重な記事は是非とも本文を読んでいただくとして、ここでは作品の道筋に繋がる「断章」のタイトルを記載したい。

・『サマーバケーション E.P.』
・MIKU-HOP
・AI美空ひばり『あれから』
・空気人形について

ちなみに空気人形は業田良家原作で是枝裕和監督でぺ・ドゥナ主演でWEG(world's end girlfriend)が音楽担当した映画です(限界映画オタク気味な早口説明)。

─閑話休題。ええと…

兎に角、この振り幅の広い断章すらも元のテーマに沿った話で面白いので是非読んで!!(ぺ・ドゥナ好きの語彙力崩壊)



★小特集 ボーカロイドとVTuber、文化の共通点と相違点

「Vtuber」が世の中に浸透し始めて、ネット界隈との親和性も高いボーカロイド文化との相互リンクという形式も増えてきた。
それこそ「歌ってみた」や、ボカロPがオリジナル曲の制作・提供する事も珍しくない。
この小特集では関わりに近い人物にスポットを当て「ボーカロイド~Vtuber」の観点から双方の共通点や相違点を仕分けし、現状を垣間見る…といった内容。
小特集の構成は以下の通りです。

・interview VTuber 初音ミクLSタイプ
・interview バーチャルボカロリスナー 御丹宮くるみ
・column キズナアイはなぜ初音ミクを「先輩」と呼ぶのか ─丹治吉順


・interview VTuber 初音ミクLSタイプ

基本、Vtuberは「ガワ」(皮。着ぐるみ等の用語。Vtuberは画面上での演者の外身をグラフィックモジュールやアバター等を使用して配信や放送を行う。所謂キャラクター)と「魂」(演者自身。演者本人の外身が画面上に出て来ないのでこう呼ばれる。中の人とも)で形成されている。
だが、Vtuber「初音ミクLSタイプ」の「魂」は「初音ミク」であり、「中の人」はいない。
この皮肉的とも哲学的とも呼べるジレンマを抱えたチャンネルの仕掛け人達に制作のきっかけや開始当初の反応、今後の展開などを聞く。

開始当時(アイデンティティそのものや概念含め)、非常に面白い立ち位置だなぁ…と思った印象(ファンからすると初音ミクのキャラクターが固定化される、という心配もあったようだが)。
個人的にはVtuber=そのもののキャラクター、というイメージが強かったので、運営に直接インタビューという企画は目からウロコでした。

まぁ既成概念のままに実際にインタビューを試みる、となると
「中の人=初音ミク」
なのでインタビューしようも無いのだが(笑)。



※…と思っていたのだが現在では初音ミクLSタイプに大きな動きがあり、2020年8月に「中の人」を自律型AIに切り替え「自律型初音ミクAI,LSタイプ」として活躍している。

初音ミクLSタイプにインタビューができる未来も、そう遠くないのかも知れない。


・interview バーチャルボカロリスナー 御丹宮くるみ

「バーチャルボカロリスナー 御丹宮(おにく)くるみ」はボカロ楽曲を紹介するVtuber。
その御丹宮くるみのプロデューサー/中の人を担当する「もなか最中」氏に御丹宮くるみの発祥、活動内容や今後の展開、楽曲プラットホームへの見解やVtuberから見たVtuber界隈でのボカロ界隈のスタンス、と伺っていき、話はVRの現状や可能性へと広がっていく。

インタビューのテーマからは多少反れるが、Live2Dの話に入った箇所で、個人的に抱えていた疑問点が解消できてかなり嬉しい。
「バーチャルボカロリスナー」の名称の通り、インタビューの後半に「The 55 VOCALOID Songs of 2019 by 御丹宮くるみ」のコーナーがあるのも見逃せない。



・column キズナアイはなぜ初音ミクを「先輩」と呼ぶのか ─丹治吉順

記者として、そして重度のミク廃として(失礼)。
丹治吉順氏の自らが体験してきた観点から、初音ミクが通って来た足跡を振り返り的確に語る、Vtuberと初音ミクの歩んできた道程の共通点・交差点・相違点。

時にVOCALOIDが世に出てきた当時は、まだまだネット上の盛り上がりと世間の見解のズレや溝、誤解が払拭しにくい時代でもあって。
なので「初音ミク」とそれに関わった「関連事業・会社」、そして「ファン」が切り開いていった道筋と現在の結果は「奇跡」に近いもの、という個人的な思いがある…。

ただ当コラム内ではそういう感傷的な話ではなく、「MMD」や「ディラッドボード」(お馴染みw)などに着目し、「VOCALOID史実」の見地から客観的に説明してくれるので、VOCALOIDファンにもそうでない人々にも「あぁ、すっげーわかりみ」な内容になっている。

それでも「文章のプロ」が愛情と熱量を持って、ガチ勢の進軍宜しく「解らせてやる。絶対。(倒置法)」と心の声が聞こえんばかりの圧倒的文章にガタブル。
やはり「丹治吉順(朝P)」の名前は伊達じゃなかった…。


★小特集 ファンメイドライブの現状

2010年の「ミクの日感謝祭 39's Giving Day」から始まり、現在では「マジカルミライ」「HATSUNE MIKU EXPO(通称:MIKU EXPO)」と、毎年世界のどこかで開催されているボーカロイドのライブ。

こういった企業や公式が主催しているライブの他に、ファンや有志が集って開催される「ファンメイドライブ」というライブもあり、近年その試みが増え始めている現状に着目し、小特集を組んだものと思われる。
小特集の内容・構成はこちら。

・interview 高田夜サクラミクライブ!
・interview 電気通信大学 バーチャルライブ研究会「MIKUEC」
・interview 長岡技術科学大学 NUTソフトウェア「Mikunological」


・interview 高田夜サクラミクライブ!

新潟県上越市高田にて開催されている
「高田夜サクラミクライブ!」
そのイベント発起人でライブの運営をされている
まぐろ氏・COBUCHI氏・DMX氏・t-bros氏・月下のヒロ氏
の5名にインタビュー。
出会いから新潟県上越市高田、という土地で開催をする意図、客層や開催・観覧への思い、運営の工夫や裏話まで余す所なく応えてくれている。

ファンメイドライブ運営・開催の素敵な部分が光る今記事。
色々なドラマが垣間見えて、読んでいるだけでもワクワクするし、参加したくなる。



・interview 電気通信大学 バーチャルライブ研究会「MIKUEC」

「MIKUEC」
とは電気通信大学(電通大)のサークル
「バーチャルライブ研究会」
という大学サークル主催によるファンメイド・バーチャルライブ。創設者の
ゆず氏・ひかる氏
にインタビューし、学内でライブを開催するに至った流れやセットリストへの配慮、ファンメイドならではの可能性や今後の運営の継承について語る。

大学ファンメイドライブ運営の一翼でもあるMIKUEC。
ライブ開催の度に進化と変化を遂げていく流れが語られているのにも注目。


・interview 長岡技術科学大学 NUTソフトウェア「Mikunological」

「Nagaoka Mikunological Live」
は長岡技術科学大学の大学サークル
「NUTソフトウェア」
が手掛けるファンメイドライブ。発起人の
とも氏
のインタビューでは他ライブとの差別化を図る為の企画や弛まぬ創意工夫、Mikunologicalオリジナルソングの裏話へと続き、やはりこちらも世代交代の話へと繋がっていく。

大学ファンメイドライブ運営のもう一翼、Mikunological。
テクノロジーや魅せ方が、運営方針のブレの無さを如実に引き立たせる。


この三者三様のファンメイドライブの運営同士が、それぞれの運営もしっかり意識して、そして時には直接手助けもしているということも見受けられ、しっかりVOCALOIDへの愛情も感じられた素晴らしいインタビュー記事でした!!



…以上が

「ボーカロイド音楽の世界 2019」

の紹介になります。興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、是非とも本誌を手に取ってみて下さい。


Stripelessレーベル公式の詳しい内容説明と商品ページを貼っておきますので、よろしければこちらからどうぞ。
(しま氏も在籍しているStripelessレーベルのBOOTHの商品ページに飛びます。)




・連載の総まとめとして


いや、買って(笑)。マジ良書だから。

全ての本にも言えることですが、パッケージングとしては「一冊」。しかし、その中身は数々の情報と熱意、様々な思いが交錯していて。

それが「号」を重ねる、ということは決して順風満帆とは行かない箇所も沢山あることでしょう。

特にこの本は制作・販売形態から見ても、紆余曲折あったことは容易に想像できて。

されど、世間ではメジャーな雑誌やムック等は休刊・廃刊が目立つ中、自費出版の形態を取っても毎年手に取れる形にしてくれる熱意には感謝しかありません。



ちょっぴりお高めのランチ一回分で手に入る

「データと愛情と大人の本気」

是非ともその目で、この一年間に起きたボーカロイド界隈の出来事を「体感」なさってみても、宜しいかと存じ上げます…!!



以上です。
ここまで読んでくれてありがとうございました!!
(了)

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