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介護記録や利用者情報は、活用するよりも保管だけの場合が多い

■ 「ただ保管しているだけ」で活用されない介護記録


定期的に介護記録や利用者情報を整理をすると、その量の多さに驚く。

記録や書類の電子化は可能であるとは言え、介護業界ではまだまだ紙媒体が主流である。そのため、介護記録1つでも月間だけでも結構な量になる。

事業所間での情報交換や行政への申請や提出物も頻繁に発生するため、分類して保管すると棚があっという間に埋まる。
そこに運営や経営に関する書類も当然加わることになるので、職場内は未だ紙だらけである。

各事業所・施設で年1回程度は整理する機会があれば良いが、現場の忙しさもあるし、そもそも書類を整理するという習慣がないことが多いので気が付くと「ただ保管しているだけ」という状態が多い。

記録とは本来「サービスを提供した証拠」「情報共有」「分析のための情報」などの意義がある。

しかし、実際のところはその日・そのときの介護業務を終えたときだけしか日の目を見ないことが多い。

記録とは適切に活用すれば質の高い介護サービスを提供できる素材になるのに、そこまで活用しきれていないのが実情だろう。

月間あるいは年間を通して膨大な情報が蓄積されているはずなのに、そのほとんどは保管されているだけで現在ほぼ活用していない。


■ 情報の活かし方が分からないまま放置


その理由として考えられることは、まず「情報の活かし方が分からない」ということが挙げられる。

介護はどうしても客観よりも主観によって物事を検討する傾向にある。

カンファレンスにおいては、介護スタッフの色々な視点からの意見が出てくるが、介護記録や外部の統計をもとにした意見が出ることは少ない。

だからこそ”科学的介護” といった客観的かつ様々な知見による介護支援が提唱されていると思われる。

しかし、そもそも貴重な情報や知見が得られたところで、情報の受け取り手が「じゃあ、これをどうケアに活用すればいいの?」となってしまう。
そうして貴重な情報であっても保管したまま放置となってしまうわけだ。

それは高給な食材が手に入ったのに、調理方法が分からないまま食材を腐らせてしまうことに似ている。


■ 「量が多いことに価値がある」という誤解


このように活用の仕方が分からないままた介護記録などの貴重な情報は、ファイルされたままになったり倉庫の段ボールで埃をかぶるだけになる。

しかし、驚くべきことにこのような状態で満足しているスタッフもいる。

それは過去の運営指導(旧 実地指導)の準備をしていて気づいたことなのだが、私が「〇〇についての書類はありますか?」と聞いたところ、そこの管理者が得意げに膨大な量の記録や利用者情報を出してきた。

しかし、その中身を見ると書類のページ数や文章量が無闇に多いだけで、運営基準として問われている内容が欠落しているものばかりだった。

さらに、それぞれの記録や利用者情報を比較してみると、内容が重複しているものも多く、何なら記録作成システムを導入している記録を、別な用紙で改めて手書きで作成していることも分かり、正直呆れてしまった。

だが、その事業所の管理者もスタッフも「これだけの量の情報を扱っている自分たちは凄い」「ここまでやっている事業所はないろう」と言わんばかりの態度であった。

もはや記録や書類体制を改善する以前に、情報というものへのマインドを変える必要があると思った。


――― 情報とは、活用することで初めて価値が生まれる。

量がたくさんあるだけ、ただ保管されているだけでは意味がない。


身の回りの記録や書類を見てみよう。「教わったとおりに書いている」「これまでこのように保管してきたから」という根拠も思考もない記録体制や保管体制になっていないだろうか?

もちろん、運営基準も含めて行政が求めてくる記録や書類体制にも課題はある。特に「Aという記録が必要です」「Bという書類を出してさい」「Cという情報はWeb更新してください」といった感じだから、同じ情報を幾度も幾度も入力する羽目になる。

正直言って、このあたりは本当に勘弁してほしい。特に法人名や事業所名、事業所番号などは一度登録したら継承または連動するようなシステム設計にしてほしい。

また、高齢者介護という仕事における保管書類において言えば、その情報の中には亡くなった方の情報もある。果たして亡くなった利用者情報も法令通りの期間(内容により2~5年)保管しておく必要はあるのだろうか?
確かにサービス実績は残しておくべきだのだろうが、利用者情報は亡くなってせいぜい1年後には処分して良いとしても良いのではないだろうか?
(もしかしたら今は問題ないのかもしれない)

こう言っては何だが、サービスが終了したり退所した利用者の情報は、それ以降に活用するどころか閲覧は一切しない。

それどころか、高齢者の状態は年々確実に変化するため、正直言って過去の情報なんてあってもケアにはほぼ役に立たない。それは「今」の利用者の状態をもとに話が進むから仕方ない。ケアに関する情報としては、せいぜい半年くらいのものだ。それ以前となると、もはや思い出の域になる。


――― 最後は脱線してしまったが、何はともあれ、せっかくの介護記録や利用者情報なのだから、なるべく活用するための思考をもった書類整備につなげたほうが良いのではないだろうか?

・・・というような話を現場スタッフに話したものの、「いや、どこかで使うから印刷しているです」「見る人は見るから、大変だけれども別枠でも記録しているのです」と言われて、当事業所のデジタル化もまだまだ先の話だと思った。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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