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「感覚」から「数字」を根拠にする

介護の仕事に携わるようになって思ったことは、現場における判断や選定基準が「感覚」に頼っていることである。

感覚の問題点は、個々によって異なることである。

例えば、ご飯の量を決めるときに「普通よりやや多め」と言われたらいかがだろう? 

お茶碗の半分を超えてご飯を盛り付けするのか? 
いや、そもそも「普通」の量がわからない。
基準がないのにどうしようもない。

このような個々の感覚によると、結果も個々に異なってしまう。ご飯の量だって大きくは違わなくても、盛りつけする人によって異なってしまう。

――― では、どうすればいいのか?

答えは簡単、計測して「数字」で表現すればいいだけだ。

数字は全世界でほぼ使える、共通言語だ。

例えば、体重であれば「痩せ型」と言われるよりも「体重:50kg」とか「標準体重よりも10kg少ない」とか「BMI:17,5」としたほうが具体的だ。

ご飯の量だって同じだ。計測して「150g=普通量」とかすればいい。
そこから「150g+30g=やや多め」とすれば誰でも同じ盛り付けになる。

お茶椀の形状が異なっても、計量すれば同じご飯の量を準備できる。

このように、数字で表現することにより、誰がやっても同様の結果に近づけることが可能になる。つまり、数字を用いると「再現性」を高めることができるのだ。

しかも、計測することは誰でもできる。
後は、計測という行為を実行するか否かだけの話だ。

――― が、この計量して数字に置き換えるという誰でもできる、かつ介護ならば当たり前にやってそうなことを、意外なことに介護現場で習慣づけされていないことが多い。

もちろん、利用者(高齢者)の健康管理として血圧や体重を測定したり、医療指示として尿量を計測することはある。

しかし、それはルーティン業務として認識されているだけであって、日々の感覚でやっていることを計測して数字化する意識は薄い。

そうして、ベテラン介護職員の感覚がそのまま業務体制になったり、その日出勤している職員たちの感覚で物事が決まってしまうこともある。

次第に自分たちが何を根拠に現在の業務を行っているのか分からなくなったり、ときには職場における人間関係の軋轢を生み出すこともある。

だからこそ、介護現場でも、個々の感覚よりも客観的かつ誰でも共通認識の1つとして「数字」を業務の根拠にすることが重要になる。

このように言うと「介護は人間相手の仕事だから、計測することなんてできない」と言われるかもしれない。

それは一理あると思う。しかし、何も介護現場で起きていること全て計測しろと言っているわけではない。

介護業務を計測するにおいて大切ないことは、まずは現場で起きていることや業務内容をできるだけ文書等で具体化してみて、そこから計測および数字化できそうなことを探すことだ。

例えば、排泄介助というテーマを挙げてみると、オムツや尿取りパッドといった消耗品に焦点を当てたり、移乗やオムツ交換の手技といったスキル的な話も出てくる。

そこで尿取りパッドにおいては、利用者の排尿(失禁)量が関係してくる。これは数字化できる項目である。そこから現在使用している尿取りパッドの大きさ(吸収量)が、はたして適正であるかを検討することができる。

ここでやることは、失禁して尿を吸収した尿取りパッドを測定し、尿取りパッドの重さを差し引けば排尿(失禁)量を計測することである。あとはこれを排泄介助ごとに計測することを一定期間行うことで、1回あたりの失禁量が見えてくる。

そこから現在使用している尿取りパッドの吸収量に対して排尿(失禁)量が見合っていれば継続、過剰または不足しているならば見直す、となる。

ちなみにこれは、私が現在行っている取り組みであり、運営している介護施設で「トイレで排泄もしている利用者なのに、少し大きめ(吸収量が多い)の尿取りパッドを使い過ぎでは?」という疑問から始めたことである。


尿取りパッドの計測に関する結果や考察などは別な記事で紹介するとして、介護という仕事であっても、身の回りを探せば計測および数字化が可能なテーマはたくさんあるのだ。

単純に身の回りの出来事を数字にするという習慣がないうえに、介護は感覚による仕事だと思い込んでいるだけだと思う。

「ウチの現場ではこの業務が大変だ」
「言っていることが人によって違う」
「何を根拠にこの手順なのだろう?」
「誰でも同じような作業ができないか?」

――― こういった疑問が湧いたならば、それは計測して数字化するチャンスであると思う。計測には多少の時間と仕掛けを要するが、それでも感覚ではない根拠を周囲に示すことができるはずだ。

大変かもしれないが、お試しいただければ幸いである。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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