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2024年春、タカラジェンヌは今どんな環境でお稽古しているんだろう

何を言いたいがためにこのタイトルにしたのかと言えば、宝塚歌劇団に制作現場の透明性を求めたいからだ。これからも見たい、という盲目的とも捉えられる考えにドン引きする人もいるだろうけど、公演が続いているからこそ思った。透明性が高まらなければ、劇団が変化しなければ、いずれ観ないという選択をするかもと思いも持ちつつ。きっかけは趣味で聞いているポッドキャストのトークテーマだった。

気づきをくれたポッドキャストはこちら。『聞くCINRA』第42回。

ゲストはドラマプロデューサーの坂部康二さん。NHKドラマ『作りたい女と食べたい女』や『デフ・ヴォイス』などマイノリティが登場するドラマの制作に携わられた方。『つくたべ』にはジェンダー・セクシュアリティ考証者、『デフ・ヴォイス』には手話・ろう者監修者、コーダ考証・手話指導者、手話指導者などの専門家が関わっている。そして『デフ・ヴォイス』ではろう者や難聴者の役は当事者が演じている。こうした背景を持つドラマに関わった坂部さんがこう仰っていた。

「安心って大事ですよね。いろんなことが、今透けて見えてしまう分、『あれ、この作品はどうやらハラスメントのもとに成り立っているらしいよ』って時点で、オーディエンスが安心して見られなくなるって部分はありますよね」

21:33ごろから話題スタート

『つくたべ』も『デフ・ヴォイス』もめっちゃ楽しく見た。専門家が関わっていることや、当事者が出演していることはクレジットや作品そのものを見ていれば分かる(伝わる)。放送当時は、両作品の制作環境を深く考えてはいなかったけれど、「あ~、専門家が関わっているんだな、いいね」とは思った。

ちなみに『聞くCINRA』第53回でも制作現場の安全性について、語られている。

こちらは映画ライターのISOいそさんがゲスト。ISOいそさんはインティマーシーコーディネーターの浅田さんにインタービューを行ったり、映画『52ヘルツのクジラたち』制作陣による鼎談ていだんの記事も書かれた方。

そのISOいそさんもこう仰っていた。

「健全な場所で安心して作られているんだろうか、とか。自分自身も気になるし、気になる視聴者も増えてきているんじゃないか。」

5:08ごろから話題スタート

この2つの回を聞いた時、「これからは制作現場の安全性や現場の様子が分かるかどうかも、視聴者(あるいは観客)が作品を選ぶ時の一つの基準になるんだな」と思った。と同時にこの数年、熱心に見てきた制作現場に思いを馳せずにはいられなかった。

宝塚の制作環境の問題は、最も起きてはならない形で発露した。

劇団は対策として、宝塚大劇場公演と東京劇場公演との期間の間隔を長くしたり、1日の公演回数を減らすことを掲げた。昨年の12月の雪組公演から既に実施されている。これは長時間労働対策に当たるだろう。そして、パワハラ対策・組織風土改善策としてNetflixが開発した「リスペクト・トレーニング」を導入することが報道で明らかになっている。

制作現場の透明性という観点から見れば、1日2回公演を減らした効果よりも、「リスペクト・トレーニング」導入効果のほうが気になる。というかそもそも「リスペクト・トレーニング」って何するの!?

「リスペクト・トレーニング」について調べてみた。

いくつか人材サービス会社が「リスペクト・トレーニング」を紹介していた。どうやらNetflixからの委託という形で提供されている模様。提供先も映像作品の制作現場だけでなく、コンサル会社や製造業など様々だ。

アデコは「リスペクト・トレーニング」は導入効果にまつわるQ&Aが豊富。

ピースマインドは実際に「リスペクト・トレーニング」を取り入れた企業へのインタービューが充実していて興味深かった。

対話型学習、ワークショップ型トレーニングなど、言葉は異なれど、講師の話を一方的に聞くのではなく参加者全員で行動を考えたり、日頃の振り返りをしたりするものらしい。(ぜひ、サイト内の説明読んでください~!とても興味深かったです。私の一文では情報が少なすぎる。)

(これまで知らなかったことを知った、という意味で)面白かったのは、これは中長期的な変化を見据えたトレーニングであること。「人の行為を変容させるということには、どうしても時間がかかります。」というアデコサイト内の一文からも、組織風土を改善するということはそう簡単ではないことがうかがえる。

宝塚ならなおさらではないか?「伝統」という言葉で雁字搦めになってた組織が、昨日今日で変われるだろうか?制作現場が課題に感じていることは2024年の幕開け公演となった星組大劇場公演のプログラムに掲載された演出家挨拶からも伝わる。1幕のお芝居の演出家、2幕のショー演出家、両者がそれぞれの言葉で「変化」の必要性に触れている。一方で、理事の挨拶文はただの作品紹介じゃん…とも思ってしまう。コロナが5類に引き下がるまでの公演パンフでは作品紹介だけじゃなくて、「対策へのご理解とご協力に感謝~」等々載せてるのに。(あ、理事と演出家挨拶は全ての公演パンフレットに記載されます。)すぐに変わることは大変な困難であるに違いないけど、こういうところから上層部と現場の隔たり、とかを感じ取ってしまわなくもない。(勝手に感じているだけで実相は分からない。)

宝塚は5組で構成されている。専用劇場は宝塚に2つと東京に1つ、計3つあり、外部の劇場での公演も合わせれば、365日ほぼいつでも、日本のどこかで宝塚歌劇団による舞台が上演されているといった具合だ。今日も公演があったから、感想がXのTLに流れてきた。宙組再開がアナウンスされた後なので、全組動いているのは過言ではないはずだ。本当に本当に現在進行形の話。今日も舞台に立っているタカラジェンヌがいる。お稽古しているタカラジェンヌがいる。公演を支える演出家、演出助手、スタッフがいる。

だからこそ、私は観客からでも制作現場の安全性が担保されていることが分かることーーーつまり劇団に「透明性」を求めたい。

厳密に言えば、従来のままであってもお稽古場の様子を伺うことはできる。月に一度発売される雑誌『歌劇』や『宝塚GRAPH』、CSのチャンネル『タカラヅカ・スカイ・ステージ』。雑誌ではタカラジェンヌが舞台の裏話を寄稿していたり、CSではリハーサル(稽古場)の風景も放送される。

しかし、知りたいのは裏話でも、リハの風景でもない。心理的安全性が保たれた環境で公演準備ができているかどうかだ。その環境作りに取り組んでいることを組織として伝える場があってしかるべきではないかと思う。

全く同じ方法が通用するワケではないけど、『52ヘルツのクジラたち』の鼎談ていだんに少しヒントがあった気がした。クレジットという形で示される現場と表現者の安全。

浅田:じつは本作のポスターにはミヤタさんと私もクレジットされているんです。そこにIDやICの名前があるだけで安心感を持つ人がいると思うので、その意味は大きいと思います。

https://www.cinra.net/article/202403-52hz_iktay


今すぐ、は難しいかもしれない。組織風土が変わるには長い時間がかかるようだから。今は変化の途中で、変化も成し遂げられると信じているから、離れていない。ちょっと時間がかかっても、少し先になったとしても、何か報告があることを願う。だって私が応援する人たちは今日も舞台に立ち、稽古に励んでいるから。生身の、人間の話なのだから。


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