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南大沢にて

ミュージシャンなどで、映画マニアの人がいるが、あれは映画から“構成”の勉強をしているんだと思う。構成とはなにか?と、あなたは聞くかもしれない。テレビ番組を例とすると、いいところでCMになったりして後を見たくなるだろう。まさにあれが構成のなす技だ。”ストーリーの切り貼りのこと”
とも言えるかもしれない。どこで盛り上げて、どこで抑えて、より話をひきたてるか考えて組み立てる。それは、ミュージシャンにとっての曲や歌詞も同じなのだ。
構成の勉強を、恋愛ものから取り入れようとすると自分の価値観が書き換えられてしまう恐れがあると僕は思う。作った作品が、OOOの影響を受けているとすぐ分かったら、恥ずかしいし面白くない。パクリとされるかも。つまり、価値観が書き換えられると、作品に如実に現れてしまうので、書き換えられることが嫌な人は何か上手い方法を考えて構成を勉強するしかない。その方法として、無害かつ、緻密に練り上げられたストーリーで、フィクションで、、、このように絞り込んで行くと、怪談話やホラーものが浮かび上がってくる。

怪談専門誌「怪と幽」はご存知だろうか?これは、怖い話しか載っていないという、とてもマニアックな雑誌のことである。だから僕も、構成の勉強と、ちょっとした興味がてら購入して読んでみた。しかしながら、あまり中身は面白いと感じず、ほとんど読まなかった。もったいなかったけど、収穫は一応あった。それは、雑誌内の広告で、色々な書籍をおすすめしていたのだが、ふと気になって、その中から一冊エッセイを購入してみた。
タイトルは、「私は幽霊を見ない」
これは、幽霊を見たことがない作者が、頑張って幽霊を見ようと試行錯誤する実話で、作者は知り合いを辿って幽霊を見たことがあるか聞き周り、あれば同じ場所に行って同じことをしてみるというものである。作者がどうなったのかは、実際に皆さんも興味があれば読んでみるといいのではなかろうか。多くの人が子供の頃、霊感に憧れたと思うので。

「私は幽霊を見ない」の中で、幽霊を見ようと奔走する作者を見ながら、霊感なんてものは、望んで手に入れられるものではないよなーと思った。だって、存在自体も怪しいし、知り合いに幽霊見たことあるかと聞いても具体的な話が返ってきた試しがない。僕も例に漏れず、幽霊なんて見たことないよなーと思った。そーいうのは嘘っぱちか、本当にそういう星の下に生まれた人だけが遭遇しうるものなんだと。
でも、なんか違和感がした。何かが頭の片隅の暗闇の中で、おーいおーいと手を振っている気がしたのだ。まさかと思って、頑張って声が聞こえる方を探し、ライトを照らした。最初はよく見えなかったが、徐々に暗闇に目が慣れてきた。誰かが確かにこっちに向かって自分に呼びかけていた。聞き間違いではなかった。つまり、こんなエッセイを書くくらいだから、皆さんも、うすうす勘付いてると思うが、よくよく思い出してみると、あったのだ。
何が?「僕は幽霊に遭遇したことがあったのだ」と思い出した。こんなインパクトの強い話を、なぜ忘れてしまっていたのか。こんな超確率の低い珍しい体験を、例えるなら鳥のフンが頭に落ちてくるくらい珍しい確率を(僕は二回あります)

それは、僕が二十歳だったときのことだ。
僕は関東で学生をやっていた。そして、同じ地元の友達も、別の都内の大学に進学し、一人暮らしをしていた。
なので、僕は夏休みにその友達の家へ泊まりで遊びに行った。でも、友達の大学は夏休みに入るタイミングが僕の大学よりワンテンポ遅く、僕が友達の家に着いてから数日後に夏休みが始まるのであった。だから僕は、昼は友達の部屋で一人で過ごし、夕方頃、友達が帰ってきてから一緒にゲームをしたり、酒を飲んで話したりしていた。
その友達は、南大沢(みなみおおさわ)に住んでいた。新宿から京王線に乗って、多摩センター駅なども過ぎた都心から離れた場所である。南大沢駅周辺は、近年土地開発された歴史の新しい場所で、あるものは住宅街と複合商業施設だけとなり、お金の無い若者が好き好んで行きたい場所はほとんどなかった。
とはいえ、友達の家に着いて、最初の2日間ほどは、朝早く起きて友達を見送ったあとに、周辺を散策していた。しかしながらその努力も虚しく、3日後には昼過ぎまで寝ているようになった。起きてからも、うだうだと漫画を読んでいたら夕方になって、友達が帰ってくるといったありさまだった。凄く贅沢な時間の使い方をしていたと思う。
そして滞在何日目かの朝も、同じように僕は寝たまま彼を見送った。電気は消したままにしておいてくれた。僕は硬いカーペットで寝ていたから、背中も首も痛くて熟睡出来てなかったので、しめしめと彼のいなくなったベッドに這い上がり、再び眠りをこくことにした。二度寝と、ベッドの柔らかさゆえか、すぐに意識を失うことができた。

それからどれだけだっただろうか、ふと目が覚めると、誰かが部屋の入り口に立っている気がした。
部屋の入り口に、何か空気を発するものがあり、想像するにそれは人で、そこから別のゆっくりした空気が、集中的に僕に向けて流れてきているような感触だった。川に杭が打ちこんであると、その周囲は水の流れが変わるかのように。
僕は、入り口には背後を向けるように、横向きに寝ていたので、背後の気配に確証を得るために、寝返りを打ってみた。しかし誰もいなかった。人の気配も消えた。だから、まあ気のせいかと思って、特に疑いもせず、再び眠りに入った。
それからいくばくかして、眼がさめると、また誰かが部屋の入り口に立っている気がした。先程と同じ空気の流れの感触があった。僕はさっきと同じように部屋の入り口に背中を向けるようにしていたため、再度寝返りを打った。
誰もいなかった。
さすがに何だろうなと、寝ぼけてはいたが少しはおかしいと思い始めてきたので、今度は先程とは逆向きに、部屋の入り口を向くように横向きになって眠ることにした。そうすれば気のせいなのか、何が原因なのか分かると思ったからだ。しかしそれは無理だった。何か寝にくい。ベッドが傾いていたのか、入り口を見ながら横向きに寝るとどうしても寝辛く、こちらもまだ眠気があったから、水は低きに流れかのごとく、早く眠りたいと思い、また同じように入り口に背中をむけて寝てしまった。

すぐに眠ってしまったのか、ふと気がつくと、、、ちゃんとまたやって来るんですね。入り口に誰かが立ってこっちを見ている気配がした。うーんやっぱり誰かいるのかな?と思い始めるや否や、フローリングを軽く踏む“とっ……とっ……とっ……”という足音と共に、気配もゆっくりこっちに近づいてきた。僕はさすがにぱっと起きて電気をつけ、「〇〇?(友達の名前)」と声をかけたが、もちろん誰もいなかった。
ベッドの横に座り込み、うわあ〜怖え〜と震えがして、しばらく部屋の入り口を見たまま動けなかった。しばらく耳をすませ、どこかから工事現場の音などがしてきていないかなど確認し、それが足音に聞こえたから、そういう気配がしたのではないか?とも考えてみたが、部屋は静まり返るばかりであった。
そしてそこから20分もしないうちに、友達が帰ってきた。
緊張の糸がほどけるように、肩の力が抜けた。でも友達にさっきあったことは話さなかった。なぜなら、お前の家に幽霊いるよな、なんて言ったら怖いだろうし、お前幽霊にビビってんのかっていう目でも見られたくなかった。

そして次の日の朝も同じように、そいつは出た。昨日と全く同じシチュエーションだ。友達は学校に行って、僕は部屋に残って寝ていた。寝ていた僕は、背後の気配に気付き、あ、また出た、と思った。しばらく様子を伺っていると、前日と同じく、そいつが近づいてくるのが分かった。そして、すぐそばの近くに立って見下ろしているのが分かった。さらに、腰をかがめて僕の顔を覗きこんできた。何かしらの物体が、ましてや生物が、自分の顔の近くにあったら、空気の流れかなにかが止まってなんとなく分かりますよね?あの感じがした。しかもそれが顔だったから、顔特有の気配を感じた。一方僕は、寝ぼけも入っていたから、あー覗きこんでるわー、やべーなーと、冷静に考えていた。なんとなく、髪が肩まである女の人かなと想像がついた。そして、そのまま黙ってたら居なくなってくれるんじゃないか、狸寝入りをし、気付いてないふりをした。しかしさらなる恐ろしい追撃が来た。そいつは、僕の肩に手を置いたのだ。柔らかい手で、そっと添えるように。
さすがに僕はびっくりして、手で払い除けた。払い退けた手に触れた感触がしっかりあった。その手の感触は、柔らかい手で、やはり女の人だったんじゃないかと思う。
払い退けた勢いで、ばっと起き上がり振り返ったが、誰もいなかった。太陽の光が締め切ったカーテンの少しの隙間からちょっとだけ漏れていた。薄暗い友達の一人暮らしワンルームのみが、静まりかえっていた。動揺のせいか、僕は乱れた呼吸を自分で聞けるくらいだった。

さすがに友達が帰ってきてからこの二日間のことを話した。お前の家、幽霊いない?、しかも、入り口に背を向けている時だけ出ないか?と、すると友達も全く同じ目に会っていたことが発覚した。よくよく思い出してみると、確かに友達はいつも入り口を向いて横向きで寝ていた。頑張って体勢を維持していたのだという。加えて、覗き込まれて肩に触れられたんだけど、とも話したら、それは無いとのことだった。何か出るのは分かるんだけど、触られたことはないとのことだった。僕はほんの少しの場違いな優越感と、多大なる恐怖感の入り混じった気持ちになった。

あの後、友達はその幽霊とどういう関係を続けていたのかは知らない。なぜなら、僕の方は自転車旅行にハマりはじめて連絡を取ることも遊びに行くこともなくなり(第6回の「摩周湖の呪い」参照)、友達もすぐに校舎移転の関係で1年でアパートを引っ越したとのことだった。思えば、友達の家で遭遇したからまだマシだったものの、例えば、出張先のビジネスホテルかなんかで幽霊は絶対に会いたくないものだ。ビジネスホテルは無機質だし、地方という心細さもあるから。友達の家でまだマシだったのだ。
ついこの間、アパートがまだ存在しているか確かめてみた。グーグルマップのストリートビューという、現地の生写真が閲覧できるWEBサービスによると、まだあのアパートは建っているらしかった。更に、事故物件ではないかどうかを調べてみた。”大島てる”と検索エンジンで調べると、日本中の事故物件が確認できるのだ。しかし、その場所では何も事故は起きていなかった。
なぜ、あの女の人はあのアパートで人を脅かし続けていたのだろうか?
顔を覗き込んでいたから誰かを探していたのだろうか。僕はその探している誰かに似ていたのだろうか。そして顔が結構似ていたか、体格が似ていたから、もっとよく見ようとして肩に手をかけて顔を覗きこもうとしたのだろうか。それとも、狸寝入りがバレていたから起こして脅かすために、肩に手を置いたのだろうか。僕の感触としては、愛おしい人にそっと手を置くような力加減だった。憎しみがあれば、力強さを感じたり、物凄い力で引っ張られたりしたのではないかなと思う。
引っ張られ、振り返った先には、鬼のような形相が待ち構えているのがオチだろう。でも、何か寂しげな気持ちが感じ取れた。

この体験談は、構成を付けることが難しそうだ。なぜなら遭遇した理由も分からないし、あの後僕と友達は不慮の事故を、、、なんてオチもない。ただただ怖い体験だった。そして、なぜこの話を忘れてしまっていたのかという点においても不思議だと思った。別に忘れなければならなそうな体験ではないと思う。だから忘れないように、ここに書き記しておく。


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