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【O'Keefe】(1972) Danny O'Keefe 郷愁こみ上げる米国シンガーソングライター

ダニー・オキーフの"Good Time Charlie's Got the Blues"という曲が私は好きです。素朴なアコースティックギターの音色と少し鼻にかかった歌声、郷愁を誘うメロディがいつも耳を惹きつけます。ついアメリカの田舎風景を思い浮かべてしまうんですよね。 

私がダニーの名前を知ったのは90年代のこと。MUSIC MAGAZINE増刊『シンガー・ソングライター』という本で紹介された彼の代表作【Breezy Stories (邦題:そよ風の伝説……)】(73年)をどうしても聴きたくなり、既に廃盤だったCDを都内探し回ってどうにかゲット。このCDの巻末にボーナストラックとして収録された1曲が "Good Time Charlie's Got the Blues" でした。
もう1曲が "The Road"。聴き覚えがあるぞ⁉と思ったら、ジャクソン・ブラウンがカバーした曲でした。ジャクソンがカバーするほどの人物? うむ…シンガーソングライターの世界って奥深いなぁと思ったものです。

【O'Keefe】裏ジャケ

ダニー・オキーフは1943年の生まれ。所謂、70年代に活躍したシンガーソングライターと比べると少し上の世代なんですね。何でも、バッファロー・スプリングフィールドのマネージャーが彼をスカウトして、アトランティック・レコードのアーメット・アーティガンに紹介した事がデビューのきっかけだったそうです。
本作は彼の唯一のヒット曲(全米9位)となった "Good Time Charlie's〜" を収録した作品。カントリー系の楽曲だけでなく、R&R、R&B、ジャズなどダニーの幅広い音楽要素がまぶされた好盤です。


(アナログレコード探訪)

〜3つのバージョンが存在する "Good Time Charlie's Got the Blues"〜


私は本作がダニー・オキーフのデビュー作だと思い込んでいたのですが、2ndアルバムだと後になって知りました。デビュー作はこちらでした。

【Danny O'Keefe】(70年)
コティリオン・レコードの米国初期盤

米国アトランティック傘下のコティリオンから発売された1st。
マッスル・ショールズを中心にした録音で、スワンプ風な一面も見せながら、全体的にストリングス、女声コーラス、フルート、ハモンドオルガンなど装飾が目立つ1枚でした。プロデュースはアーメット・アーティガン。若干ポップス歌手のような売り方もあったのかもしれません。今聴くとやや時代を感じます。
但しこの1stには後に再演される曲も入っており、"Good Time Charlie's Got the Blues"の初演バージョンも収録されているんです。

飄々としたアレンジと歌い方ですね。私は肩透かしでした(笑)。やっぱり聴き慣れたバージョンがイイですね。

【O'Keefe】(72年) 全米87位
サインポスト・レコードの米国初期盤
配給はアトランティック。内周部にジョージ・ピロスのAT/GP刻印があり、音質は1stより優秀。

そして2ndアルバムとなる本作。サインポストというレーベルからの発売です。プロデュースはアリフ・マーディン。録音はメンフィスで行われ、ハウスバンドのThe Memphis Boysを中心とした精鋭がバックを固めています。ここで収録された"Good Time Charlie's〜" がよく知られる再演バージョンとなります。

ん〜、やっぱりこのバージョンがシックリきますね。

ところが今回初めて知りましたが、当時シングルとして発売されたものは、また別バージョンだったんです。それがこちら。


曲の長さは同じですが、ハーモニカが大きくフューチャーされるミックスとなってます。きっとこれこそ当時、全米のラジオから流れてヒットしたバージョンなのでしょう。

調べてみるとこの曲、エルビス・プレスリーをはじめ新旧様々な歌手が取り上げていることに驚きます。米国人にとって"Good Time Charlie's〜"は時代を超えたエバーグリーンなのでしょうね。



Side-A
⑤"The Road"

こちらもダニーの素晴らしい作品。ジャクソン・ブラウンが【孤独のランナー】(77年)でカバーしたナンバーです。ギターの美しいアルペジオを聴いていると胸を締め付けられます。やはり彼の歌には不思議な懐かしさがこみ上げますね。


⑥"Grease It"

ダニーはロックンロールも大好きで、アルバムには必ず収録されます。こちらは転がるピアノ、コーラスからして如何にも50'sらしいノリ。若い頃に聴いた外せないルーツなのでしょう。


Side-B
①"An American Dream"

本作では一際ダイナミックなスケールで迫る一曲。展開もなかなかドラマティックです。シリアスなメロディ、サビの歌詞を聴いているとベトナム戦争絡みを歌っている??気がします。プロテストな面もあったのかもしれません。

④"I'm Sober Now"

本作にはハンク・ウィリアムスのカバーもありますが、こちらは自作のカントリーナンバー。スティールギターやフィドルをバックにダニーの朴訥とした歌い口が実にピッタリ。のどかな風情がやっぱりどこか懐かしい。


⑤"Roseland Taxi Dancer"

こちらはまた一転、オールドジャズの雰囲気を醸す洒落たナンバー。古びたバーで演奏されそうです。抑揚のあるアレンジも楽しい。

⑥"I Know You Really Love Me"

最後はラグタイム風のピアノで歌われる1分ばかりの小品。粋な幕引きです。

【Danny O'Keefe】見開きジャケ内側

ダニー・オキーフって歌詞は分からなくても、きっと古き良きアメリカを歌っているんだろうと私は想像しています。アメリカに古くから根付く音楽を掬い上げ、今を憂い、かつてを懐かしむ……そんなノスタルジックなイメージが伝わってくるんですよね。ちょっとモノクロ映画を観ているような気分です。

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