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ラブコメの条件とは?

1.ラブコメは競艇だ!

 ラブコメが好きです。小さい頃にどっぷりはまった『花より男子』、あの興奮は忘れられませんし、『ローマの休日』の切なさも忘れることはできません。

 さて、一般的に使われるラブコメという言葉は映画や漫画のジャンルを指す言葉です。こういったジャンル名に定義を置くことは非常に難しいとされています。つまり、「これこれの条件を満たした作品はラブコメと分類します」といったような条件設定ができないということです。何かそれらしいことを言うと例外が生まれてしまいますし、かといって条件を緩めてしまうと他のジャンルと今度は区別がつかなくなってしまいます。

◆ジャンルを決めるのは私たちだ

 では、フィクションのジャンルについて何か考えることはできないことなのでしょうか? 私はそうは思いません。

 1970年代、『岸辺のアルバム』というテレビドラマがありました。多摩川で実際に発生した大洪水を背景に崩壊していく家族を描いたホームドラマで、令和になった今も高く評価されている名作です。

 放送当時、このドラマの脚本家である山田太一さんが街でおばちゃんに声をかけられたそうです。「いつもメロドラマ見てるよ」。これを聴いて山田太一さんはびっくりしてしまったそうです。それは『岸辺のアルバム』はかなり硬派なホームドラマとして作られていたのにあろうことか「メロドラマ」と言われてしまったからでした。

 この例から学べる教訓は「それぞれの作品のジャンルが何であるか」を決めるのはひとりひとりの視聴者であるということです。こう考えてみると、「ラブコメの条件とは?」というとても答えられそうにない問題も、「あなたが『この作品はラブコメだと思う』というときの特徴は?」という質問に言い換えることができるのではないでしょうか。これならそれなりに答えが出せそうです。では私にとっての「ラブコメの条件」とは何だったのでしょうか。考えてみます。

◆ラブコメはボートレースだ

 ラブコメ作品について話す時、「誰と誰がくっつくのかを予想しあう」という場面に出くわしたことはありませんか? たとえば『花より男子』であれば「花沢類道明寺司のどっちとくっつくと思う?」といった具合です。これは一見するとミステリー作品における犯人考察・犯人当てのように見えます。

 しかしこの二つには決定的な差があります。それはラブコメの場合は「その人とくっつくことを心から期待している」のに対して、犯人考察については別に「その人が犯人であってくれ」と心から期待しているわけではないという点です。『花より男子』を見て「絶対、花沢類さんとくっつくと思う!」という人は、牧野つくし(主人公)と花沢類がくっつくことをある程度は期待しています。一方で、『テセウスの船』を見ている人が「絶対小藪が怪しい!!」と言っていたとしても別に小藪が犯人であってくれと願っているわけではないのです。

 何が言いたいかというと、ラブコメには「期待」が必要不可欠だということです。私たちはフィクションを見ているとき、ふとしたきっかけで任意の二人に対し恋愛的な期待を抱くという体験をすることがあります。例えば『おかえりモネ』を見ていると、ある段階で主人公の百音と菅波先生に「早くくっついてくれないかな~」と願わずにいられなくなります。ラブコメにはこの体験が必須なのです。この体験を経てこそ、ラブコメ作品に対して期待にワクワクしながら「はやくしろよ~」とヤキモキすることができるのです。

 これはまさに競艇で賭けてたボートレーサー1位争いに食い込んでくれないとなかなか楽しめないということと似ています。賭けたボートレーサーが1位争いに参加しているのをこの目で確かに見ることで、期待による果てしない高揚感とカーブで順位を抜かれてしまうのではないかと言うヤキモキを楽しむことが出来るのです。しかし、賭けてたボートレーサーがぶっちぎりで1位になってしまうと、賭けに勝った喜びは得られますが、ドラマチックな面白さは失われてしまいます。ラブコメも同様、決して視聴者を安心させてはいけないのです。

 そのように考えれば、まずは次の二点がラブコメの条件といえるでしょう。

・見ているうちに任意の登場人物に対して恋愛関係を強く期待してしまう
・なかなか安心させてくれない作品であること

 しかし、それでは単なるラブストーリーになってしまいます。当然、ラブコメである以上コメの要素も必須ですね。そのため上記二点に加え「笑える」ことも条件として挙げなければいけません。では、この三つの条件を満たしている作品とはどのような作品なのでしょうか。もっと詳しく見ていきましょう。

2.ラブコメ作品の二つ特徴「矛盾」と「萌え」

 先ほどラブコメには三つの条件を上げましたが、これはどのような作品であれば満たすことができるでしょうか。まずは「見ているうちに任意の登場人物に対して恋愛関係を強く期待してしまう」という条件から考えていきたいと思います。

◆安定してる関係として描かれていない

 恋愛関係を強く期待してしまうための条件として、まずひとつは「出てくる登場人物同士の関係性が不安定に描かれている」をあげることができそうです。出てくる登場人物同士が安心してみていられる友人同士のように描かれていれば「恋愛関係が生まれるのでは?」と期待することは私たちにはできません。いつもの上司と部下。いつもの同居人。いつもの幼馴染。そう見えてしまったらラブコメはいつまでたっても始まらないのです。ではどのようにすれば「不安定」に描くことが出来るのでしょうか。

 まず考えられるのは「一言で説明不可能な奇妙な関係」のパターンです。たとえば『ロングバケーション』の瀬名と南。あの二人の当初の関係性を言葉で説明することが出来るでしょうか? 結婚を直前で婚約者にドタキャンされた山口智子と、その婚約者と同居してた木村拓哉の二人。この二人がひょうなきっかけから同居生活を始めることになるのですが、この「ひょうんなきっかけ」をいざ説明するとなると少し大変です。

 一方、「矛盾をはらんだ二項対立」というパターンもあります。たとえば『逃げるは恥だが役に立つ』の新垣結衣と星野源の関係性では、「結婚をしていながら、決して恋人同士ではない」という矛盾を抱えた関係として描かれています。このパターンはほかにも「友達同士なんだけど、最近喧嘩ばっかり」「幼馴染なのに、なんだか気まずい」なども考えられます。どれも恋が始まりそうな予感がしますね。

◆少しだけ好感を持てるように描かれている

 「不安定さ」とは別に、もう一つラブコメの特徴として挙げられるのは、登場人物が「好感が持てるように描かれている」という点です。当たり前ですが、「この登場人物すごく嫌いだな」と判定してしまったらもうラブコメが始まる機会は訪れてきません。かといってただのいい人っていうのも考えものです。なぜならただのいい人ならあっという間に関係性は安定してしまうからです。なんだか嫌な感じだけど、たまに弱いところを見せたり、時折ふと何気ない優しさを見せたりする。これがたまらんのです。つまり「不安定さ」を維持しながら好感を持ってもらうのが肝要なのです。

 『婚姻届けに判を押しただけですが』の坂口健太郎くんが完璧な例です。彼は一緒に住みたいとは微塵も思えない細かい性格をしています。仕事もできるようです。しかし、寝相はすごく悪い。そこが可愛かったりします。また、散々文句を言って喧嘩をしたかと思えば、大福を用意してくれたりする。こういうところにキュンとくるのです。そうなればもうラブコメのジェットコースターは走り出したも同じなのです。このようなギャップ萌えは不安定さを維持しながら好感を持ってもらえるためラブコメ作品では重宝されます。

◆触媒としての「キャスティング」「萌え要素」

 一方、それ自体はラブコメの条件にはあたらないものの、恋愛関係への期待を高めるうえで効果的に働く要素があります。それは「キャスティング」と「萌え要素」です。これら二つの要素はラブコメ作品において恋愛関係の期待を引き起こすとき時に触媒のような働きをします。

 まずキャスティングから見ていきます。『恋はDeepに』がまさにその典型例です。主演が石原さとみ綾野剛。二人がどんな恋愛関係を繰り広げるか、ドラマが放送される前から期待していた人は多かったのではないでしょうか。しかし、あくまでキャスティングは触媒。それだけでは不十分です。ストーリーや人物描写がうまく機能しなければ「期待外れだった」と思われてしまいます。

 一方の「萌え要素」はアニメ作品で多く登場します。メガネや眼帯などの着用物や体形的な特徴などすでに「萌え要素」と認知されている要素を強調しながら人物描写を行うことで、視聴者に魅力的なキャラクターであることを認識させるのです。たとえば『境界の彼方』の栗山未来のメガネや、『とらドラ!』の低身長などがそうでしょう。

 さて、このようにどんな作品に期待を持ってしまうのかを考えてみました。もちろんこれは別に性別は関係ありません。『響け!ユーフォニアム』を見て黄前久美子ちゃんと高坂麗奈ちゃんとの間に恋を期待してしまったとしてもそれを咎めるものはいません。

3.ラブコメが最初から始まるとは限らない

◆ラブコメから始まるパターン

 ちなみにこのラブコメ(厳密に言うと期待ですね)、作品の冒頭から始まるとは限りません。もちろん最初から始まるパターンもあります。典型的なのだと『たまこラブストーリー』なんかはそうです。冒頭からずっと大好きな幼馴染に告白したいけどできない男の子の話が出てきます。なかなか素直になれない二人の甘いラブストーリー。このような作品はそもそも主人公が「恋を成就させたい」とストレートに願っていて(明確に自覚しているかはともかく)、その思いが原動力で進む物語が多いでしょう。『君に届け』もそうですし、『男はつらいよ』なんかもそうですね。

◆ラブコメで始まらないラブコメたち

 しかし、ラブストーリーとしてはじまらない作品もあります。そんなのあるのか?と思う方もいると思いますが代表的なのだと、『お熱いのがお好き』という昔のハリウッド映画です。この物語は「主人公男性二人組がギャングの殺しの場面をうっかり見てしまい命を狙われる」ところから始まります。『刑事ジョンブック/目撃』と同じパターンで、ストーリーの本質は逃亡劇なのです。

 ではこの物語はどのようにラブコメになるのか? 彼らはマフィアたちからバレず逃げるために女装して女性しか入れない楽団に入ります。そこでマリリン・モンローというとっても魅力的な女性に出会い恋に落ちてしまうのです。

 ※ちなみにこの作品のマリリン・モンローには「サックスを吹く男性に必ず恋に落ちてしまう」という珍妙な設定があります。そして主人公はなんとサックス吹きでした。この設定が強い期待を私たちに掻き立ててくれます。

 そこで一生懸命アプローチをしようとするのですが、女装をしたままの状態でこれがなかなか難しい。どうすればいいのか試行錯誤するという展開になります。ここまで来てやっとラブコメになるのですが、本質的なストーリーは逃亡劇。そのため、物語の終盤でマフィアに見つかってしまい逃げるところで物語は終了します。

 こういった作品は他にもあります。『ローマの休日』もそうだと言えますし、『アパートの鍵貸します』『ゴースト/ニューヨークの灯』。

 さて、これまでに、さまざま見てきましたがまだ検討していない条件がありました。それは「なかなか安心させてくれない」と「笑える」という条件です。次の章で見ていきましょう。

4.笑いを生み出す「嘘」「罪悪感」「勘違い」

 いかに「笑える」作品にしていくか。これは散々恋愛を期待させたうえで、「なかなか安心させてくれない」二人の恋愛模様をおもしろおかしく見せつければいいのです。ではその笑える面白い「なかなか安心させてくれない」二人の恋愛模様というのはどういったものなのでしょうか。これにはいくつかパッケージ化されたパターンがあるように思えます。次に紹介する三つのパターンです。

◆嘘をつけ

 最初の一つは、片っ方が片っ方にをついている、あるいは二人で一緒に周囲にをついているというパターンです。たとえば先ほどの『お熱いのがお好き』という作品では女装がこの嘘に該当します。男性であるということを隠しながら、一方でマリリン・モンローにアプローチをしなくてはいけない。そのための試行錯誤がおかしくって笑えるのです。

 ほかにも『やまとなでしこ』のような本当はお金持ちじゃないのにお金持ちだと偽って女性にアプローチをした男性のパターンもここにあたるでしょう。これらはバレると恋愛的に都合の悪い嘘のパターンです。必死で嘘がばれないように振る舞うさまを面白おかしく描くのです。

 一方、これとは逆のパターンでバレたほうが恋愛的には都合の良い嘘のパターンもあります。この場合、社会的な要請でバレてはいけない秘密を抱えているんだけど、恋愛的には都合がいいので恋している異性に対し、気付いてくれ!と奮闘する登場人物を描くことでおかしさを演出します。『スパイダーマン』のパターンです。

◆してはいけない恋をさせろ

 主人公が「この恋はしてはいけない恋なんだ」と思っている場合、つまり恋することに罪悪感を感じているのであれば、それも面白おかしく描くことができます。たとえば、『山田太郎ものがたり』の主人公は大金持ちの御曹司に恋をしたいと思っていました。しかし、とんでもないド貧乏の男の子山田太郎を好きになってしまいます。これは彼女にとってあってはならないことです。そのためなんとか恋を回避しようとします。そのことが引き起こす動揺や珍妙な行動・言動が面白いのです。

 ほかにも、主人公が「ただの人間には興味ありません」と豪語しているようなタイプの人間なのに「ただの人間」に恋をしてしまったということもあるでしょう。その場合、主人公は悟られると恥ずかしいため態度がツンデレになってしまうということもあります。『涼宮ハルヒの憂鬱』はそういう作品でした。

 ほかにも「私なんかが恋をしていいのかしら」と思っている自信のない女の子がクラスの人気者に恋をしてしまうパターンも入ります。『君に届け』です。このパターンが用いられる場合は主人公の抱えているコンプレックスも同時に描かれることが多いです。コンプレックスは萌え要素としても機能してくれます。

 ほかにも

・友人の恋を応援してたら、その友人に恋してしまっていた!
(とらドラ!)
・男なのに男に恋をしてしまった!
(おっさんずラブ)
・出世に邁進してた主人公がついにいいところまでいったのに、上司の愛人を好きになってしまった!
(アパートの鍵貸します)

など数多くのパターンをここに入れることができます。

◆勘違いで暴走させろ

 最後に紹介するのが「勘違いをしたまんま暴走している主人公を描く」という面白パターンです。たとえば『花ざかりの君たちへ~イケメンパラダイス~』の生田斗真は堀北真希に恋をしてしまうのですが、堀北真希が男性であると勘違いしてしまいます。そのため自分がゲイなんじゃないかと苦悩したり、とんでもない突飛な行動をしたりするのです。

 ほかにも『プロポーズ大作戦』で描かれたコーヒー牛乳の回なんかも典型と言えるでしょう。大好きな幼馴染の不機嫌を直そうと奮闘するのですが、不機嫌の理由を主人公は「コーヒー牛乳が飲めなかったからでは」と勘違いしています。そのため一生懸命コーヒー牛乳を探すのですが、どこにもありません。その奮闘ぶりを面白おかしく描くことでラブコメにしているのです。

 主人公がとんでもない変人で何度アプローチしても、勘違いしてスルーしてしまうというパターンもここかもしれないです。逆に主人公がとんでもない変人で、ズレたアプローチをしてしまうパターンもここに入れていいかもしれません。ほかにも片思いしてる人に誰か好きな人がいるんじゃないかと勘繰って暴走してしまうとか、、、(アニメ『日常』ですね)いくらでも例があげられます。

まとめ

 ここまでラブコメの条件について考えてきました。まず、私がラブコメだと思う条件として下の三つの特徴を挙げました。

・見ているうちに任意の登場人物に対して恋愛関係を強く期待してしまう
・なかなか安心させてくれない作品であること
・笑える作品であること


 登場人物同士の関係性が不安定でかつ、魅力的に描かれている場合、私は登場人物に対して恋愛関係の期待を抱きやすいこともわかりました。

 また、恋愛関係の期待を抱いた後、どのように安心させずに笑わせ続けていくかについては「嘘をつく(必死に取り繕う)」「してはいけない恋をしてしまう(あわあわ・ツンデレ)」「勘違いでの暴走(バカ丸出し・変人)」の3つの戦略があるということについても最後紹介いたしました。

 この記事で紹介した内容は、私が今までいろんなラブコメ作品を見てきて気づいた些末な特徴でしかありません。そのため、きっとこの特徴に忠実に作られた作品はベタで古めかしい作品に見えるのではないか思います。それでも私はベタが大好きです。今後も安心して見られるラブコメが量産されることを願います。



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