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現実とフィクションはわけられない

「表現の自由」の話が出るとそのたびに現実とフィクションの区別が話題になります。はたして、それは可能なのでしょうか?

涼宮ハルヒの憂鬱』というアニメから考えていきたいと思います。

あらすじ
非日常を求め現実に退屈している涼宮ハルヒという謎の美少女と、彼女になぜか気に入られてしまった主人公キョンがSOS団という同好会を作ることになる。しかし、なんとその同好会に集まったメンバーはみんな超能力者や未来人など奇怪な人々ばかりだったのである。


日常と非日常じゃなく現実とフィクション

 こちらの作品、今までは日常と非日常という二項対立で語られることの多い作品でした。たとえば、こちら「幸福の擁護——『小林さんちのメイドラゴン』感想」。

 「日常/非日常」あるいは「特別さ」。それは京都アニメーションの仕事の中で、学校という空間と密接な共犯関係をもって語られてきた主題でもあった。涼宮ハルヒがなんの非日常的なこともないものとして眺めてきた日常は、キョンないし我々にとっては非日常にあふれたものだった。非日常と日常の曖昧な縁。

こういった具合です。

この「日常ー非日常」の関係を、「現実ーフィクション」に置き換えて考えることはできないでしょうか?そうすればまた別の読み解きができようになります。

 まず、涼宮ハルヒの求める非日常とはどのようなものだったでしょうか? それは、超能力・萌え・クローズドサークルであったり、全て小説やアニメなどフィクションの世界のなかにあるものでしたよね。実際に涼宮ハルヒもそのような発言をしています。

そのように考えてみると、この作品に描かれる「非日常を欲する」という涼宮ハルヒの気持ちは、フィクションの世界に入りたいという気持ちであると読み替えることもできそうです。つまり、

「非日常を欲する=フィクションの世界に入りたい」

このように言い換えてみてもあまり問題がないように思います。

また、涼宮ハルヒの持つ「強く欲したことがすべて現実になってしまう」という神のような能力にしても「フィクション」を「現実」にすることができる人類普遍の能力を極端な形で捉えたもののように思えます。

人が生み出すあらゆるものは、現実化する前は虚構であって、それらを生み出した私たちの祖先はみな、虚構の中を生きていたのです。
                      (樋口恭介さんの本より)


虚構と現実は入り混じる

 しかし、ご存じの通り涼宮ハルヒの生きる世界は本当は「現実」と「フィクション」両者が入り混じった世界でした。実際に、超能力も未来人も宇宙人も涼宮ハルヒの周りに存在していたのです。

 これも、わたしたちが生きているこの世界を極端なかたちで捉えたもののように見えます。そもそもこの世界も「現実」と「フィクション」が入り混じっているのですから。

 多くの人は、現実と虚構を異なるものとして弁別しようとしますが、人は原理的に、それらを厳密に切り分けることが出来ません。現実の中で生きるわたしたちが虚構を生み出すのと、虚構を生きるわたしたちが現実を創出するのはほとんどの同義のことがらであって、わたしたちは、虚構を通してしか現実に触れられないのです。                (同上)

 しかし、涼宮ハルヒはそのことに気づきません。誰よりも強く非日常を欲しているのにも関わらず、周囲に未来人や宇宙人がいることに気づかないのです。劇中でそれは涼宮ハルヒが「常識的なものの考えをするからである」と説明されています。つまり、涼宮ハルヒは「現実」と「フィクション」は違うものだと常識的に区別しようとしていたのです。そのため、涼宮ハルヒは本当は「現実」と「フィクション」が入り混じっている世界にすでにいるにも関わらずそのことを理解できず、何度も憂鬱な気持ちになってしまうのです。

涼宮ハルヒとわたしたちは重なる

 これは私たちも同様です。私たちも涼宮ハルヒと同じように「現実」と「フィクション」の間に厳密に線を引こうとしてきました。そうやって、大切なフィクションの世界を守ろうとしてきたのです。

 しかし、涼宮ハルヒの世界ではその努力が逆効果となります。涼宮ハルヒが憂鬱になることにより、なんとフィクションの世界(超能力者や宇宙の世界)すらも破壊されようとしていたのです。

 また、現実の世界にも悪影響がでてしまいます。ハルヒは仲間に酷い態度や行動をとってしまったりしてしまうのです。『涼宮ハルヒの溜息』がその究極でしょう。涼宮ハルヒは映画を製作しようとする過程で仲間であるはずの朝比奈ミクルに対して度を過ぎたセクハラをしてしまうのです。

さいごに

 このように考えてみると『涼宮ハルヒの憂鬱』という作品は、現実とフィクションの区別に苦慮する私たちにとってとても示唆に富んだ作品に思えてきます。これを機に改めて考えてみるのもいいかもしれません。

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