どうなるデジタル空間?!総務省の有識者会議が再開【10/10追記あり】
総務省の有識者会議「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」が9月に突如として解散。仕切り直しのような形で、10月10日に「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」がスタートします。
第一回の会合が開催される前に、ちょっと予習をしておこうと思う。新旧の検討会を比較しつつ、今までの振り返りをしてみます。
突然の解散と再開
人数:18人→9人に半減。旧検討会から引き続き参加するのは、9人中6人です(ワーキンググループも含めると7人になる)。
人選:9人中7人が法律関係者。他はメディア研究者1人と消費者団体関係者1人。法制化を目指す会とはいえ、特定領域に人選が偏っている。法律家が多すぎじゃないでしょうか。※新・検討会の構成員一覧▶https://www.soumu.go.jp/main_content/000971092.pdf
旧検討会もその傾向があったけど、メディア出身者やサイバーセキュリティの専門家など、もう少しバラエティに富んでいた。左派の先生もいて、議論に風穴を開けていた。※旧・検討会の構成員一覧▶https://www.soumu.go.jp/main_content/000909371.pdf
でも、新・検討会にはそういう幅がない。旧・検討会の議論が拡散ぎみだったことの反動?反省?だろうか。
法律関係のコアメンバーで固めて再起動ということは、法整備含めた規制強化に向けて突き進むのでしょう。「早ければ来年の通常国会で」とは以前から言われていたことで、最近出た報道記事にも、法整備を急ぐ旨が書かれています。
国会の会期に合わせてスケジュールが組まれているのでしょうが、それにしたって「急ピッチ」ですよねぇ…
パブコメ後に旧・検討会が突然終了したときには、分科会みたいにジャンルごとに分けて出直すのかな、と思ってたんですよ。広告チーム、偽・誤情報チーム、AIチームみたいに。
総務省の検討会の中には、そういう形をとっているところがあります。例えば「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」とか。
「デジタル空間における情報流通の諸課題」と一口に言ったって、かなり範囲が広い。課題ごとに性質も対処法も異なっています。限られた専門領域の限られたメンバーで、それらの課題をひとまとめに ”検討” するのは、無理がある。
課題ごとに切り分けて、各分野の専門家を招いて、部会ごとにじっくり議論することはできないものか。新たに法律を作って規制するというのなら、もっと時間をかけて慎重に進めてほしいです。
当事者の不在と”いつメン”問題
一般ユーザーを代弁する組織・団体として、消費者団体の理事長が旧・検討会から引き続き正規メンバー(構成員)として参加していますが、存在感はいまひとつ。検討会の体裁を整えるために、とりあえず参加させられてるのかな、と思ってしまう。
それに、メディア関係者が新・検討会の構成員に入ってません(※ワーキンググループの構成員になったり、オブザーバー参加したりする可能性はある)。NHKはじめどこのマスメディアも、生き残りをかけてネットの世界に打って出ているのだから、「デジタル空間における情報流通の課題」はひとごとではないはず。表現の自由との兼ね合いもありますし。法学者にお任せはよくないです。
そんなわけで、「マルチステークホルダーによる取り組み」を提唱しているにも関わらず、肝心の当事者はあいかわらず不在のまま。中心メンバーの法学者、憲法学者、弁護士などがそのまま残って、取り仕切ることになったみたい。
これらの中心メンバーは、総務省の他の検討会にも関わっていたりするのです。BPOの委員をしている先生もいる。公的な会合はどこも「いつメン」状態なんですよね。
それはそうと、プラットフォーム規制について検討する監督省庁の有識者会議のメンバーが、規制対象であるPF業界団体の理事を務めていたり、ファクトチェック団体の委員だったりするのって、おかしいですよね。
ネットメディア「SlowNews」の以下の記事では、検討会の座長にインタビューをして、メンバーの重複について疑問をぶつけています。
旧検討会の座長いわく、「情報通信分野の制度に関して研究者らが少ないので、官民の研究会などの委員を頼む人が、いつも同じになってしまうんです」とのこと。さらに、「事情が分かっている人、しかも表現の自由や社会的な必要性も分かっている人」がいいんだとか。注文が多いなぁ…。
憲法学者でメディア法や表現の自由に明るい人って、他にもいるはずなんですが、派閥?の問題でしょうか。よく知らない人に入ってほしくないのが本音では?と思います。政治的なスタンスの違いも関係ありそう(憲法学は特に)。
総務省としても、「いつものメンバー」の方がやりやすいんでしょうね。意見の異なる人たちが検討会に入って来て議論が紛糾すると、スケジュール通りに進まないですから……。それで結局、いつも同じ顔触れになってしまう。
他の分野でも似たようなものでしょうが、行政や私企業の会合で要職を占める有識者って、すごく限られている。日本の当該分野の政策立案は、5人くらいの先生方で回してるように見受けられます。人手不足は事実なのでしょうが、これでは「牛耳っている」印象を与えかねない。いいのか、それで?!
震災デマから情報工作へ
検討会の名称が少しだけ変わりました。
メンバーの絞り込みもそうだけど、会の名称を見ても、今後は法制化含めた具体的な話に入りますよ、という意向が感じられる。
以下は去年の11月に旧・検討会がスタートした時の報道資料です。
「実空間に影響を及ぼす新たな課題」とありますが、旧・検討会でのメインテーマは、SNS上のデマや詐欺広告などでした。その中でも特に焦点が当たったのは、災害時にSNSで流れる偽情報・誤情報です。
旧・検討会は昨年11月に始まりましたが、今年に入ってそれらの災害デマが着目されるようになった理由には、主に二つあるようです。一つは今年の元日に能登半島地震が発生したこと、二つ目は、Twitterの仕様が変更になり、収益稼ぎのデマや「インプレゾンビ」が発生しやすくなったことです。
最近では、ネット上の偽情報といえば、災害時のデマや詐欺広告よりも「認知戦」「他国による情報工作」の方が、メディアで取り上げられるようになりました。ちょっと謎めいていて、人気が出そうなテーマですね。これらは安全保障上の問題であって、災害時のデマや詐欺広告といっしょくたに扱うことはできないでしょうけど。
”社会的に有害な”情報とファクトチェック
いっぽう、新検討会発足を知らせる報道資料はどうかというと……
「違法・有害情報」は法律にのっとって速やかに削除すべし、取締りを強化すべし、と読めます。法律家が集まって議論したら「法律で規制しよう」という話になるのは当然の成り行き。とはいえ、”有害情報”って何?と思うわけですよ。
違法ではなく、特定の個人・法人の権利を直接的に侵害するわけでもないが、社会全体に影響力を及ぼす情報を、検討会では「有害な情報」と位置づけています。具体的にはデマやヘイトや陰謀論などが含まれます。パロディや風刺を含めるかどうかも議論されました。
規制をするにあたっては、どこまでを有害情報と見なすか線引きをしなければなりません。その線引きが難しい。「社会的影響力」は物差しにするには曖昧すぎます。そもそも、違法ではないものに規制をかけるのって、ありなんだろうか……。
パロディや風刺まで規制対象にするのはやりすぎだと思いますが、今後はそれらも含めて規制していく流れになりそう。というのも、検討会とつながりの深い某ファクトチェック団体では、これらのカテゴリに分類されるSNS投稿を「誤り」「不正確」などと判定しているからです。
投稿者本人が「これはフェイクですよ」とバラしているものや、コミュニティノートがついているものまで、ファクトチェックの対象にしている。実は目的は真偽判定ではなく、萎縮効果をもたらすことが狙いなのかもしれません。プラットフォーム事業者から巨額の資金提供を受けていること、検討会の構成員が運営に関わっていることなども、そのような印象を強める要因となっています。
健全性のゆくえ
旧・検討会の正式名称は、「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」でした。パブコメを経て先月出された「とりまとめ」の冒頭には、”健全性” について次のように書かれています。
なんだか禅問答みたいですね。お役所の文書は一文が長くて、主語がないし、読みにくい。どうやら、”情報そのもの” でも ”情報空間" でもなく、”情報の流通の在り方”の「健全性」を確保したいようです。
では、情報の流通のあり方に問題があって、「健全性」が損なわれている状況とはいかに?
SNSで誰かの投稿が反響を呼んで広く拡散され、誹謗中傷が起こるなど、何かしら実害が出るといったケースが想定されているようです。情報の内容がどうであれ、流通・拡散の仕方が”不健全”で、権利侵害や社会的混乱を引き起こすのであれば、それは規制すべきということになる。
健全性確保のための手段として期待されているのが、「ファクトチェック」です。そして、先に挙げたファクトチェック団体のファクトチェックには、検討会の方針が忠実に反映されています。
SNS上の個人ユーザーのパロディ動画や行政批判の投稿など、真偽判定の必要性があまりなさそうなものについても、広く拡散していることを理由にファクトチェックの対象とし、注意喚起の形で牽制しているのです。
これらの注意喚起に共通するのが、「悪意なく行った投稿が」「意図せず拡散して」「思いがけない結果を生む」というストーリーです。でも、それらの情報の拡散によって、実際にどのような社会的な影響がどの程度もたらされたのか、という具体的な検証はされていない。
にもかかわらず、ファクトチェック団体が「注意しましょう」とまで言うのは、立ち入りすぎではないかと思うのです。
このようにファクトチェックという形で個人の表現活動に介入することによって、情報空間の”健全性”を確保しようするのが、総務省の検討会の方針なんでしょう。むしろその方が不健全に見えますけどね。
しかも、中立性、独立性を重んじるはずのファクトチェック団体が、総務省の有識者会議のメンバーを運営に関与させている。さらには、伝統メディアを検証の対象外としていますが、これは検証記事作成の責任者である編集長ではなく、運営委員会の意向によるものらしいです※。”有識者”を通じて間接的に国に支配されているに等しい。健全なあり方とは言えません。
※「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」第20回の議事概要 p.46を参照
透明性を高める
健全性の確保を説く側が健全ではない、という矛盾。これをどう解消するかをぜひ”検討”してほしいです。その矛盾を乗り越えなければ社会のコンセンサスは得られず、「健全性の確保」は単なる押し付けに終わってしまう。
そのためにはやはり透明性を高めることが重要なのです。検討会が公開されているのは、その点で大いにプラスですね。傍聴できるし、資料も見られる。
そういえば議事録も毎回公開されているのですが、9月4日の最終回(第26回)の分が一か月以上経っているのにまだ出ていない。この回では重要な質問が提出されたのに。
以前から指摘されていたことですが、総務省による「インターネット上の偽・誤情報対策技術の開発・実証事業」について、情報開示が不十分ではないかという質問が出たのです。受託業者の選定方法や予算の使われ方などについて、詳細を公開すべきというわけです。
この事業についてはすでに業者の選定は終わっていて、それらの業者に無償協力する形で、複数のファクトチェック団体が関わっているようです。
先ほど例に挙げた最大手のFC団体も同様に、無償で協力をするとのことですが、当初は有償で引き受けるつもりだったらしい。そのいきさつが同団体の公式サイトに掲載されています。
”政府からの資金提供は場合によっては受けるよ、でも現時点では世間の理解が得られないからやめておくね” ということです。基本方針としては政府からの資金提供を受けるにやぶさかではなく、個別に判断するとのこと。政府からおカネをもらって「編集権の独立」を保つのは、至難の業でしょうけどね。
このような方針にも、当該団体の運営に関わっている総務省検討会の有識者からの意向が透けて見えるのですが……一時期、問題になった”官製ファクトチェック”の懸念は、いまだ払しょくされていません。
おわりに
プラットフォーム規制、SNS規制をめぐる総務省の検討会は、異例のスピードで進められましたが、先述したように、不透明感を残したまま終わっています。
議論を尽くさないままいきなり解散してリセットし、新しい検討会を作って法制化に向けて動くというのは、都合がよすぎます。”旧・検討会で十分に検討したし、パブコメも募ったからこれでいいでしょう” では、納得感がありません。
旧・検討会の座長がインタビューで話していたように、「とりまとめ」で問題提起をして特段の批判が出なければ、そのまま進んでしまう。世間一般の関心も低いようです。メディア報道は継続的になされていますが、もう少し深く切り込んだクリティカルなものがほしい。
法案が通ってからでは遅いので、その前にもっと世論が喚起され、議論が深まるとよいのですが。
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【2024/10/10追記】新・検討会に二つのWGを設置することが決定されました。広告とそれ以外に分けて検討するようです。より深く精緻な議論を期待したいですね。メンバーがどうなるかが気になる。
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