見出し画像

【短編小説】遠い想いを繋ぐ:病みの彼への彼女の嗚咽 前編

久しぶりの #特殊設定恋愛小説  です。
タイトルは、AIアシスタント機能を使って、作成。私がつけないようなタイトルになりました。
思っていたより長くなり、前編・後編に分割しました。

私達が出会ったきっかけは、病院の通院バスの中で、隣の席同士になったことだった。

私は、命に係わるものではなかったが、体内に良性の腫瘍ができていて、そのままにしておくと、生活に支障が出るというので、手術で取り除くことが決まっていた。手術までの間、定期的に病院で診察を受けなくてはならなかった。一方、彼は持病を抱えていて、私と同様、定期的に病院に通っていた。

同じ病院に通うもの同士、そして、年齢が近いこと、また平日は仕事があり、通うのは土曜日の午前中と同じ時間帯。共通点も多く、私達はすぐに仲良くなった。病院に行って、その後近くの図書館で過ごしてから、帰りの通院バスで一緒に帰るところまでがルーティンだ。通院バスで最寄りの駅まで行き、そこで反対方向の電車に乗る。

別れがたくて、最寄り駅のカフェで過ごしたり、ホームで話し込むことも増えた。たぶんどちらかが何か行動に起こせば、私達は恋人同士になっていただろう。だが、その前に、彼は別の病院に転院することが決まったと、私に対して切り出した。ショックを受けて黙り込んだ私に、彼は何かをてのひらに載せて差し出してきた。

「綺麗・・。」

思わずそう呟いてしまうほど、綺麗なハート形の結晶が付いたペンダントだった。結晶の色は深い青で、見ていると吸い込まれそうな美しさだった。ただ、その結晶にはチェーンが2つ、ついていた。

「これは、こうやって使うんだ。」

彼はそう言って、そのハート形の結晶の両端を持ち、指先を外側に動かす。結晶はその動きに合わせて、中央で割れた。つまり、ハートの半分の形の結晶が付いた、2つのペンダントになった。

「こっちは、亜依あいが持っていて。そして、夜寝る時に身に着ける。」
「なぜ?」
「これは、身に着けた2人の夢をつなげる。」
「そんなこと・・。」
あるわけがない。

「僕も信じてはない。でも試してみる価値はあると思う。」
彼はそう言って笑った。
「何で、試そうと思ったの?」
「それは・・僕が亜依とは別れたくないと思っているから。」
「でも、また会えるでしょう?」
「それは・・どうだろう。」

彼は、私の言葉に軽く首を傾げてみせた。
「次の転院先では、持病を治癒ちゆさせるまで、外出ができない。」
「それって・・。」
「今みたいに、仕事しながらでは回復は見込めないらしい。だから、病院に長期入院する。」
「じゃあ、もう会えないかもしれないってこと?」
「治れば、会えるけど。いつかは分からない。」

私は視線を下に落とした。そのまま彼の顔を見ていたら、泣いてしまうような気がした。
「・・それは嫌。」
「大丈夫。だからこれを渡すんだ。これがあれば、夢の中で、僕たちは会えるから。」
「でも、所詮しょせん、夢の中でしょう?」
「いつか、僕が治って、君に会いに戻ってくるまでの繋ぎだと思ってくれればいい。」

私は、彼の言葉に素直に頷くことができなかった。頷いてしまったら、二度と会えないような気がしたから。
「・・じゃあ、一度これを使ってみよう。そうすれば、亜依も分かる。」
「・・・。」
「今夜、これを身に着けて寝てみて。僕も同じようにする。そうしたら、夢で会える。」
「・・分かった。」

どちらにせよ、彼が転院して、しばらく会えなくなることは決まっている。それをくつがえすことはできないだろう。私も、彼には持病を治して元気になってほしいから。
彼は、私に安心させるかのように、優しい笑みを見せた。


「亜依。」
彼に名前を呼ばれて、私は夕飯を作っていた手を止めて振り返る。

「凄いいい匂いがする。お腹空いた。」
「もうすぐできるから。」
「手伝うよ。何かできることある?」
「ご飯よそって、箸とか出してくれる?」
「はぁい。」

彼は私の言葉の通りに、夕飯の準備をし始める。その様子を見て、私は軽く口の端をあげる。火を止めて、フライパンから生姜しょうが焼きを皿に移す。いり卵とキクラゲの炒め物も既にできているので、それらをテーブルの上に並べる。どちらも、彼、翔太しょうたの大好物だ。

「いつも、うまそう。いただきます。」
「いただきます。たくさん食べてね。」

目の前で、美味しそうに夕飯を頬張る彼を見て、私は嬉しくて思わず笑ってしまう。彼は、私を見て、「どうしたの?」と言って、夕飯を食べる手を止めた。

「いや、そんなに美味しそうに食べてくれると嬉しいなって。」
「亜依の料理はどれも美味しいから。」

私は彼に手料理を作ったことなんてあったっけ?

一瞬、自分の脳裏のうりに?が浮かぶ。彼の顔が私の考えを読み取ったのか、軽く歪んだような気がした。

「亜依、夕飯食べ終わったら、一緒にお風呂入らない?」
「それは、ちょっと恥ずかしいかも?」
「何言ってるの?しょっちゅう一緒に入ってるじゃん。」
「・・・そういえば、そうだったね。」
「何か、亜依、様子が変。疲れてる?」
「・・・そうかも。」
「じゃあ、今日は早めに寝ようか。」

そう言って優しく微笑む翔太の顔を、私は茫然ぼうぜんと眺めてしまう。
数年前に結婚した愛する夫の顔を。


私の手術は無事成功し、手術後の経過診察でも問題はなく、「次は1年後に来てください。」と担当医に告げられた。私は行き帰りの通院バスに揺られながら、目を閉じてしまわないように我慢する。病院後に図書館に寄ることも無くなったし、バスから降りたら、直ぐに電車に乗り、誰もいない家に帰る。

転院した彼とは、もう1年近く会えていない。
病院内には通信機器の持ち込みは禁止されているそうで、連絡すら取れていない。私に何も連絡がないということは、彼はまだ回復できていないのだろう。病院に通うことも無くなってしまった私と、彼とを繋いでいるのは、夢だけだ。

夢の中では、私と彼は結婚していて、2人でマンション暮らしをしている。彼の持病は治癒しており、2人とも新しい土地で、新しく職を見つけ、毎日幸せに暮らしていた。子どもはいないようだった。それは、私が今回の手術を受けたことに関係しているのかもしれなかった。彼がそれを知っているわけはなかったが。

私は常にあのペンダントを身に着けている。だから、ほんの少しうたた寝をしただけでも、彼の夢を見る。それも今過ごしてきたかのような鮮明せんめいな夢を。彼もあのペンダントを常に身に着けていて、私と同じように夢を見ているのだろうか?私は夢を見れば見るほど、彼本人に会いたくてたまらなくなる。ペンダントを外してしまえばいいのだけど、それができない。

徐々に、自分が今いるのは、夢なのか、うつつなのか。その境界がぼやけてきている。


とうとう、夢の中で私は、彼に会いたいと告げた。その言葉を聞いて、相手は不思議そうな顔をする。

「何を言ってるの?今、ここで会ってるじゃない。」
「これは、夢でしょう?そうじゃなくて、私は貴方に会いたいの。現実で。」

彼も同じ夢を見ているはずなのに、夢の中の彼は、夢が現実だと思っているかのように振る舞う。私も、それでも彼の側にいられるならいいと思っていた。だけど、ここ最近は夢の中で幸せであればあるほど、目が覚めた時に、自分が結局一人であることに、夢と現実の落差に途方に暮れてしまう。人知れず泣くことも多くなった。

多分、夢では、私の心は満たされない。

「亜依。夢ってどういうこと?」
「だから!私と貴方の夢は繋がっているのでしょう?あのペンダントで。」
「ペンダント?」

彼はよく分からないという顔を終始崩さない。困ったような笑みを浮かべて、私を見つめている。私は彼に自分の身に着けているペンダントを見せようと、胸元を服の上から探ったが、結晶の膨らみに手が触れない。夢の中には、あのペンダントは現れないのか。今の今まで気づかなかった。

彼は私の体を抱きしめると、背中を優しく撫で始める。

「よく分からないけど、君は何か不満があるの?この世界に。」

私がハッとして、彼の顔を見上げると、彼はいつもの優しい笑みを浮かべて言った。

「僕はずっと亜依と一緒にいたかった。だから、持病を治して、その上で、君を迎えに来た。そして、結婚して幸せに暮らしている。何が不満なの?」
「これは夢なの。現実の貴方は、今でも持病を治そうと、頑張っているのでしょう?私はそれを応援したいの。こんな夢の中ではなく、本当の貴方の側にいたいの。」
「もう、待てないと言いたいの?」
「違う。ただ、現実で貴方に会いたいだけ。」

彼は、私の体を離した。その表情は、何か痛みを堪えるような、今まで夢の中では見たことのないものだった。

「どうしても、現実の僕に会うことを望むなら、別れた時に伝えた住所に行けばいい。」
「・・いいの?行っても。」

彼と別れる時、転院した病院とは別に、あちらで住むことを想定して、マンションの一室を借りたと言っていた。でも、必ず迎えに来るから、連絡をするまでは来ないでほしいとも言われていた。

「自分でも、君をいつまでも待たせるのはどうかと思っていたから。」
「本当に行くよ。私。」
「・・でも、きっと亜依はそれを後悔すると思うけど。」
「翔太?」
「後で分かる。」

彼は、もう一度私の体を名残惜しそうに抱きしめると、優しくキスをしてからこう言った。

「僕はいつまでも君を愛している。亜依。」

つづく

◆後編(バットエンド) 2月27日投稿

◆後編(ハッピーエンド) 3月5日投稿

私の創作物を読んでくださったり、スキやコメントをくだされば嬉しいです。