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無意識と会話する

自分の中に意識部分と無意識部分があるのは、なんとなく哲学とか倫理とか社会心理とかその辺をぱやっと学んできて知っている。
足を動かそうと毎秒思って動かしているわけではないのに動くし、息を吸おうと思って吸っているわけではない。
寝ている時になぜか体の痒い部分を掻いてしまったり、言いたくもない寝言を言ったりしている。

これらが意識しなくてもできているのは無意識がやってくれているからであろう。
では、その無意識下の出来事をちょっとでも意識下に置けないだろうか?
わたしは置いてみたい。だから自分の無意識に語りかけてみようと思う。

わたしの無意識さんは白い四角い箱の中にいる。
コンコンコンとドアを3回ノックする。面接の時のマナーだ。これを守らないと即座に面接では「バツ」をつけられてしまうと大手就活サイトには書いてあった。

「無意識さーん。こんにちはー。今日ちょっとお話できる時間ないですかねー?」
「はーい。」
「ちょっとでいいんですけどー、少しだけお話したくて…。」
「今忙しいんですよね、また後でにしてもらえます?」
「いやほんと、1分とかで大丈夫なんですけど…!!」
「……………。」
「1分なら大丈夫ですか?!」
「まぁ…そこまで言うならいいですよ。」

そういうと無意識さんはドアを開けてくれた。白い四角い箱の中は意外と小綺麗で、白を基調とした部屋の真ん中にはサーモンピンクのラグがあって、ラグの上には堂々とガラステーブルが居座っている。部屋の壁にはミモザのドライフラワーなんて飾ったりしていて、キッチンからは作りかけのスパイスカレーの匂いがする。無意識さんはこういう丁寧な暮らしをしていたんだ…とがっかり。わたしの意識は丁寧な暮らしという暮らしをできていないのに。
ガラステーブルの前にある大型テレビでは先週のゴッドタンが流れていて、わたしも「コンビ愛確かめ選手権」のかが屋が好きだよ!と共感。丁寧な暮らしをしているくせにゴッドタンを見ているあたりやはりわたしの無意識さんである。無意識さんの好きなお笑い芸人は誰だろう。聞いてみたいけど、聞いたら意識してしまうのでなんか違う気もする。
無意識さんのTVerのタレント登録欄をこっそり見てみたい。

「それで、話って何ですか?」
無意識さんは1分と言ったのに丁寧にわたしに聞いてきてくれる。優しいなあ。
「いや、あの…わたし、無意識さんともっと仲良くなりたくて…。わたしたちってやっぱり相反する存在じゃないですか、もっとお互い手を取り合えないのかなって思ってて…。無意識さんが活動してる時も、出来るだけわたしも管理していたいっていうか、わかってたいっていうか…。」

慎重に言葉を選んで切り出したが、無意識さんはとたんに暗い表情になる。

「それは、できないです…。申し訳ないですけど今日は帰ってください…。」

無意識さんにあっさりと不可能宣言をされてしまう。どうしてなのだろう。わたしはただ、手を取り合いたかっただけなのに。

「なんでですか?わたしたちって、表裏一体の関係でしょう?!もっと、お互いのこと知って、うまくやりましょうよ…!」
「もう1分過ぎてますんで、本当ごめんなさい。これ以上、話すことはないです。わたしたちは表裏一体で、だからこそ手を取り合うことはできないんです…。」

わたしは無意識さんの言っている意味がわかるようで、わかりたくなかった。根本は同じなのに、手を取り合うことはできないのか。
薄々気づいていたことを改めて真っ向から否定されて、途方に暮れる。また別の方法を考えなければいけない。

わたしはまた意識と無意識を行ったり来たりしなければいけないのか。

これで美味しい詩集を買いますね