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新米旅人の紀行録 004

 ガタン、ガタンと揺れる馬車。
 森と湖との間の道を行く馬車に、朝の陽射しが差し込んで中を明るく照らす。

「お客さんたち、次はアマリエ港町ですよ」

 御者の人の声に目が完全に覚める。
 アマリエ港町。次の目的地に設定してある、大きめの港町だと聞いているところだ。まずはここで、ポーションを売った後、港町を観光しようと思っている。

「まあその前にご飯だよねー」


【新米旅人の紀行録】アマリエ港町【よん】


 今日の朝食は昨日屋台で買ったパンのうち、レタスと分厚い肉が挟まっているパン。分厚さに驚きながらも、恐る恐る口に含む。
 すると、分厚い肉はその厚さにもかかわらず歯で噛み切りやすく、噛めば噛むほど肉汁があふれてきて。若干塩気を感じるのも、素朴なパンにはちょうどいい。
 噛みに噛み締め、最後の一口飲み込み、飲み物も一口。
 一息つき、飲み物を片付けたくらいで馬車が止まる。

「アマリエ港町着きましたよ」

 馬車から降りて御者の人に代金を渡し、離れる。馬車が走り去っていくのを見届けた後、降りた場所が海沿いの道だったので海辺の方を見る。

「こ、これが海!」

 住んでいた田舎は山の中だったので、湖は見たことはあっても海を見るのは初めてだ。
果てしなく遠くに見える水平線に、賑やかな市場。港と思われる場所では、船から大量の魚を降ろしていた。
 港町ならではの風景に感動していると、町の入り口に立っていた兵士さんから「大丈夫かい?」と声をかけられる。振り向けば、若干笑っていた。

「アマリエ港町は初めてかい?なら、先ずは市場に行ってみるといいよ。この時間なら採れたての新鮮な魚介類がお手頃価格で味わえるだろうさ」

 新鮮な、採れたての魚介類が……お手頃価格?
 それはぜひ食べなければ!と、兵士さんにお礼を言いかけて、そういえば。と、止まる。

「この辺に小さな店が建てられそうな場所ってありますか?」
「商人さんだったか。地図はあるかい?」

 道中馬車の中で譲ってもらった地図を、兵士さんに見せる。
 世界地図だが、器用に兵士さんはアマリエ港町を見つけて、指で示した。

「ここら辺がアマリエ港町。こっちの海沿いにある道が市場。でもこの辺は人だかりで今からだと店を広げるのには少し無理があるから――」

 そう言って、指でなぞったのは一番内陸の大きな道だった。

「この辺なら、人は多いけど店は少ない。馬車の乗り合い所もあるから、商いにはお勧めだな」

 ここからなら、この道をまっすぐ行って右に曲がった辺り。という情報を聞いて、早速向かうことに。でもその前に、商品を作らなくては。
 少し広い公園のような空き地に井戸を見つけ、飲み水と共に錬金用の水を貰う。
 前回と同じように薬草をすり潰し、水と混ぜて火にかける。するとどうだろう。本来なら、青色のポーションが出来るはずが、更に濃い青のミドルポーションができたではないか。

「んー……?どういうことだ……?」

 瓶に詰めてみるが、量は前回と同じ。ただ、品質が変わった。
 悩んでも、要因は一つしかない。前回と違う点と言えば――水だ。
 飲み水用に取っておいた分をビーカーに入れて観察する。

「いつもより、澄んでるというかなんというか」

 ビーカーに入った水を飲み干す。たしかに、美味しい気がする。
 やはり、港町。美味しいというか若干しょっぱい気もする。海水混じりなのだろうか。

「ちょっとした成分の差なんだろうなぁ……でもミドルポーションか。値段どうしよう……」

 ポーションを九銀にしたので、ミドルポーションは十五銀くらいだろうか。相場を調べたいが、ここら辺にポーションを扱っている店がなく調べられない。

「まあいいか、この値段で……」

 敷物を取り出し、地面に敷いたらその上に簡易的な棚を並べそこにミドルポーションを並べる。

「ミドルポーション一瓶、十五銀!出来立てですよー」

 声を聞きつけたのか、お客さんがやって来る。数分のうちに用意したニ十本程度が売り切れた。全部で三百銀程。これで当分の活動資金はできた。
 でも、それよりも大事な……ご飯が待っている。

「今日は贅沢かなー!」


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