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新米旅人の紀行録 005 

 港町、大通りを海方向に進んですぐ。海沿いの道に出ると、そこは熱気で満ち溢れていた。
 店員さんの掛け声や、客が注文する声。それらが道沿いの店のあちらこちらから聞こえる。

「お祭り、みたいだ」

 漂ってくるご飯の匂いに、お腹が鳴る。
 先ほど売ってきたお金で今日はご馳走を食べようと決意した。


【新米旅人の紀行録】港町ご飯【ご】


 それにしても、人が多い。
 一般客はもちろん、近隣で売ったり飲食店で使ったりするのであろう商人やそれを支える御者の姿も見える。
 中には、荷馬車数台で来ている人もいるらしい。

「まあ、こちらとしてはいい商売だけどね」

 そう言うのは、トゥーナの缶詰を売ってくれた港町の店員さん。缶詰を袋に詰めながら、そうそう。と色々なことを教えてくれた。

「お客さん、いつまでここにいるんだい?」
「決めてないですけど……今日はここで泊まろうかと」

 そう話すと「宿とれるといいな」と、背中を押して励ましてくれる。そして「ここだけの話なんだが」と耳打ちしてくれた。

「明日明後日は、この港町で祭りがあるんだ。今日は前夜祭みたいなもんだな。だから旅人や商人がいつもより多い」

 その言葉に、なるほど。と納得する。つまり今日は――、

「宿が満室の可能性が……」

 顔を青ざめさせていると、肩を軽く叩かれる。相手は目の前の店員さんだった。

「海沿いから離れるが、いい場所に部屋がある。そこならこの時間はまだ空室があるだろう。……チャレンジするか?」

 それに対して大きく頷くと、地図を書いてくれた。確かに、海沿いから離れているし、道も若干分かりづらい。だからこそ、穴場なのだという。
 それを手にして来た道を戻り、教えてもらった地図の場所へと着くと、確かにそこには宿があった。少し趣きがある外観だが、内装はリフォームされており、過ごしやすそうだ。

「この時期ちょうどお祭りだからね。少し値が高くなるけどいいかい?」

 そう宿屋の店主は言うが、まだまだ安い部類の値段だ。むしろ前の街――ダンデミオンに泊まったときの方が高かった気がする。
 即座に宿に二泊注文して、また道を――と思ったが、買っていた缶詰に目が行った。

「店主さんー。火をお借りしてもいいですか?」

 許可を得て、厨房で缶詰の蓋を開け火にかける。缶詰がスキレットの代わりに、トゥーナの油もあって少しずついい香りが厨房に広がっていく。
 そこに、続いて持ってきたのは卵と油を混ぜたマヨネーズなるもの。これも、先ほど缶詰を買った店で一緒に買ってみた。保存ができるとは聞いたが一回使えば早めに食べたほうがいいということで、半分ほど使う。
 熱したトゥーナの上に、マヨネーズをかけ、更に火で焼く。熱されたマヨネーズがふつふつと泡を吐き始めたら、缶詰を気を付けて火から降ろす。中身を混ぜたら、パンにつけて食べるのだ。

「んー!トゥーナとマヨネーズの油がしみて美味しい!」

 匂いにつられてやってきた宿屋の料理人さんにも提供する。口々に「明日の朝のメニューが出来た」と大喜びで日が暮れていった。

「やっぱり、田舎でも地元の料理を喜ばれると嬉しいね」

 海沿いの喧騒がやわらぐこの宿で、どこか遠くの声を聴きながら私は眠りについた。
 明日は――祭りだ!


素敵なトップ画像を描いていただきました!
飴都さん、ありがとうございます!!

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