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調理品紀行録 シャクシュカ

 シャクシュカというのは、トマトソースに卵を落とした料理の名称である。
 ゼーメルトマトをベースとしたトマトソースで煮込むのは、高級食材、コウシュウ黒豚肉とドラヴァニアパプリカ。味付けには、ドラゴンペッパーを少々。
 忘れてはいけない卵には、ガガナと呼ばれるギラバニアに生息してる鳥の卵を。
 普段、商店街とかには並ばない食材を使った、高級料理である。

「シャクシュカ、ねぇ」

 新米記者である私は、シャクシュカ、と言う名前の料理を聞いてどんなものか一度食べてみようと思ったのだ。
 そこで、いつも取材でお世話になっているレストランへ行くと、

「作れるけど……」

 材料がない、と言われてしまってはどうすることもできない。
 落ち込んでしまった私に、調理師である女性は閃いたように言った。

「なら、食材集め手伝ってほしいな」

 「元冒険者なんでしょ?」と言われてしまったら、断ることは――

「元冒険者の名に懸けて、シャクシュカのために頑張ります!」

 ――できなかった。
 最初に向かったのは、リムサロミンサにある、ロウェナ商会の出張店みたいなところ。
 そこで女性は、通常の硬貨とは違う見慣れない硬貨を大量に出すと、たくさんの豚肉と交換していく。
 ざっと、その数、50個ほど。
 そのうちの、ひとつを私に見せてくれた。

「これが、コウシュウ黒豚肉。いやぁ、ロウェナ商会はいい商売してるよね」

 次に向かったのは、東ラノシアの西側、ワインポート。
 ここからは、少し歩くということで、私は昔懐かしい冒険用の服に着替えた。

「おねーさん、槍術士だったんだね」

 槍を手にした私とは正反対に、園芸用の斧と鎌をもって、女性はそう言った。

「あなたこそ、その格好でいいの?」
「いいよいいよ、どうせ襲われないってわかってるしねー」

 そういうものなのか。と、自身を納得させて、向かうは川が流れる森のほうへ。
 その間、女性は空を見ながら歩き続けた。

「ゼーメルトマトはね、美味しく取れる時間が限られているの」

 その時間以外に採ったゼーメルトマトは使い物にならない、らしい。
 周囲に気を配りながら、ここで待っててと言われた場所で待つ。
 すると、数分後「とれたよー」との声とともに、女性が帰ってきた。

「これが、ゼーメルトマト。みずみずしいでしょ!」

 ドラヴァニアパプリカ、ドラゴンペッパーを順にとっていき……。
 最後に残ったのは、ガガナの卵、だった。

「さて、出るまでやりますかー!!」

 着替えて出てきた女性の姿を見て、私はいささか驚く。
 幻具、とよばれる杖に白いローブ。
 まさしく、幻術士と呼ばれる人の姿だった。

「ちょっとこの狼さんに乗って、空で待機しててね」

 彼女が笛を吹くとどこからともなく狼が現れ、私を乗せると颯爽と空へと上がっていく。
 その下では、女性が魔法の石をガガナに叩きつけていた。
 数十分後、狼から降ろされた私を連れて、レストランへと戻る。

「では、シャクシュカを作りますー!」

 てきぱきと手際よく料理をしていくその姿を、必死で目で追う。
 包丁のリズミカルな音や、肉が焼ける音。
 そのうちトマトソースのいい香りが漂ってきて私は、そろそろできるのだ、と確信を持って待っていた。

「できたよー。シャクシュカです!」

 とん、と目の前に置かれたのは、グラタン皿のようなものに、たくさんのトマトソースと卵が一つ。
 トマトソースの中には、見せてもらったような、豚肉やパプリカが入っている。

「いただきます」

 一口食べ始めはものすごく熱かったが、段々慣れていくごとにそのトマトの甘みとドラゴンペッパーの辛味。
 それから、豚肉のうまみが絡み合って、思わず、

「おいしい……」

 そう、言葉に出てしまっていた。

「タイムっていうハーブを、豚肉の臭みをとるために使っているから、おいしいでしょう?」

 自慢気に言う女性も、自分の分のシャクシュカを持ってきて一口食べ始めた。

「おいしいねぇ、おいしい」


【調理品紀行録】シャクシュカ


「ほかの人と一緒に食べる料理はおいしいねぇ……」

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