プロローグ(声劇台本)
【登場人物】
マミ♀(20)
ユカ♀(20)
※括弧内のシチュエーションは、状況をイメージしやすくするために付加したもので、効果音等を指示するものではありません。もちろん効果音を入れてくださっても構いません。
※語尾、相槌などは、演じやすいように変更していただいて構いません。
【本編】
(羽田空港到着ロビー)
ユカ:あ、いたいた! ごめんね。電車、遅れちゃってさ。待った?
マミ:ううん。やっと出てきたとこ。手荷物もあったし。
ユカ:じゃ、いこっか。荷物、持つよ。
マミ:え、いいよいいよ。
ユカ:遠慮しないで。
マミ:じゃあ、これだけ。
ユカ:え、これって、まさか……
マミ:うん、バターサンド。おみやげ。
ユカ:うわ、ありがとう。いいのに、気使わなくて。
マミ:ま、何かと世話になってるし、きっとこれからも頼りにしちゃうからさ。……ね、どっち行くんだっけ。
ユカ:あっち。モノレールから山手線ね。
マミ:了解。
(山手線に乗ったところ)
マミ:はあ。東京、人多過ぎ。
ユカ:何よ今更。受験もあったし、何度も来たでしょ。
マミ:そうだけどさ。三年も住んでるユカとは違うってば。
ユカ:三年。もうそんなになるのね。
マミ:そ。もう高校にも、知ってる後輩いないよ。
ユカ:そっか。アリナもナポリンも、もう、えっと……この春で二年生?
マミ:うん。ノッコもリエちゃんも。
ユカ:うわー。みんな幼く見えてたのになー。
マミ:足踏みしてたのはさ、あたしくらいのもんよ。
ユカ:足踏み、ってことないでしょ。
マミ:だってさ、短大行って就職までしてさ、やっぱり諦められなくて、今更、なんて。
ユカ:立派じゃん。夢諦めないのはさ、素敵なことじゃん。
マミ:だったらあの時浪人しとくべきだったのよ。
ユカ:それは……
マミ:ユカが三年頑張ってる間に、あたしがしてきたことってさ、気の乗らない勉強、すぐに辞める仕事の就活、ものにならないうちにやめることになる仕事。全部捨てちゃうためにやってきたようなもんだよ。
ユカ:マミ……
マミ:嫌になるんだよね。この数年の無意味さにさ。親にだって、散々迷惑かけて。
ユカ:マミ、あのさ。
マミ:ん?
ユカ:次、降りよ。
マミ:え? でも、寮ってもう一つ先じゃあ……
ユカ:いいから。ちょっと歩こ。カート、あたしが引くから。
マミ:いや、それはいいけど。
ユカ:ほら、降りるよ。
マミ:え、あっ、ちょっと、待ってよ
(上野公園、入り口)
ユカ:こっち
マミ:公園、通るの?
ユカ:うん。えっと……こっちがいいかな。
マミ:どこいくつもりよ。
ユカ:いいから。きて。
マミ:なんなのよ、もう……
ユカ:……ほら、見えてきた。
マミ:え? なにが……あ。
ユカ:わかる?
マミ:え……え、え、え? あれ、桜? 全部?
ユカ:そ。
マミ:うわあ……だってまだ、3月なのに。
ユカ:こっちじゃ普通よ。今年、あったかいしね。
マミ:そりゃ、向こうが遅いのは知ってたけど。入学式とか、それくらいに咲くんだとばっかり。
ユカ:今年くらい早いと、入学式には散っちゃってるかもね。
マミ:ていうか……すご……
ユカ:でしょ?
マミ:だって、あっちはまだ雪残ってたんだよ?
ユカ:うん、知ってる。
マミ:いや、それにしても、なんていうか……
ユカ:マミはさ。
マミ:え?
ユカ:知ってたわけでしょ、3月とは思ってなかったにしろ、こっちの方がずっと早く桜が咲くって。
マミ:うん。
ユカ:で、実際に見て、どう? こんなにすごいって、思ってた?
マミ:ううん、全然。なんか今、感動してる。泣きそう。
ユカ:そういうことじゃないかな。
マミ:え?
ユカ:経験しなきゃ、わかんないことがあるって話。
マミ:それは。
ユカ:マミが短大行って、就職したのだってさ、最初からやめようとしてたわけじゃないでしょ。
マミ:そうだけど……でも、ずっと、燻ってたのもほんとだし。
ユカ:それでも。それでも、「やっぱりもう一度」って思うためにさ、マミにとっては、その時間が必要だったってことじゃないの?
マミ:……ユカにはわかんないよ。
ユカ:マミ……
マミ:最初っから思った通りのとこにいけて、思った通りの勉強や経験重ねてきたユカにさ、わかるわけないじゃん。
ユカ:……そう、かもね。
マミ:あたしが、ユカからのメッセージ見るたびに、どんな気持ちだったか、わかる? わかんないよね? わかってたら、いついもいつもあんな能天気に、学校であったこととか書いてこないよね?
ユカ:マミ、あたしは
マミ:自分だけ落ちた時、あたしがどんなに惨めだったか、想像してみたことある?
マミ:あの時あたしがユカをどうんな気持ちで見送ったか、この三年、どんなに歯痒くて、悔しくて、苦しかったか、考えてみたこともないんでしょ! それを今さら上から「全部無駄じゃなかった」なんて……やめてよね、吐き気がする。
ユカ:マミ……
マミ:ごめん……たくさん、世話になったし、感謝してる。会うの、楽しみにしてたのもほんと。だけど……だけどさ、お願いだから、そんなこと言うのやめて。惨めになるから。三年も遅れてるの、思い知らされるばっかりだから。
ユカ:マミ、あのね。
マミ:……うん。
ユカ:こんなこと言うと、もっと怒られるかもしれないけどさ。マミも、あたしの三年、全然わかってないと思う。
マミ:え?
ユカ:マミならわかるでしょ。ここまで来るのがどんなに大変か。でさ、大学には、その同じ試練を乗り越えてきた人たちがたくさんいる。そして、入学してからは、その全員が、競争相手なんだよ。
マミ:そう……か。
ユカ:入ってしまえばなんとでもなると思った? 全然。これまでに何度、才能の違いに打ちのめされたと思う? 何度、全部投げ出したいって思ったと思う? そういうの、想像したことある?
マミ:それは……でも
ユカ:うん、今はね、こんなこと言っても、先に辿り着いたやつが上から言ってるようにしか聞こ
えないかもしれない。でも、マミもわかるよ。これからいやって言うほど、経験することになるん
だから。
マミ:……うん。
ユカ:傷ついて、心折れそうになってさ、そんな時、ついマミを頼っちゃったんだ。残酷なのはわかってた。でも、マミしか、あたしには……
マミ:ユカ……
ユカ:あたしね、マミが本当はまだ夢を無くしてないって、信じたかったんだ。
マミ:あたしが?
ユカ:うん。そんな姿を見れば、あたしも思い出せそうな気がして。初めてここにきた時の気持ちを。だから、嬉しかったんだよ、あたし。マミがまた受験するって決めた時も、もちろん合格した時だって。
マミ:うん……ごめん。
ユカ:あたしのほうこそ。ずっと、ごめんね。
マミ:うん。
ユカ:あのね、マミ。
マミ:なあに?
ユカ:あたし、桜が好き。
マミ:うん。
ユカ:この、関東のソメイヨシノもいいけど、むこうの桜ってもっと白っぽかったじゃん? あれも好きだったんだよね。
マミ:わかる。
ユカ:ね。だからさ……それぞれ咲く時期が違って、色も違って、だからってどっちが上ってこともないのかなって。
マミ:……うん。
ユカ:あのね、マミ。いっとくけど、入学してみたら、三年くらいでうだうだ言ってたのがアホらしくなるよ。四浪してきた人もいれば、浪人して四大まででて就職してからきた人だっているんだから。
マミ:ほんとに?
ユカ:ほんと。その上そういう人があっさりいい結果だしたりするし。かと思えば、最初すごいと思われてた人が何年かで全然パッとしなくなったり。下の学年の子が大きな舞台に抜擢されたり。怖い世界だよ、ほんと。
マミ:そっかあ……
ユカ:順風満帆に見えたのに仕事に繋げられなくて諦めて地元に帰る、なんてざら。覚悟だけは、しときな。
マミ:えー。怖いことばっか言わないでよ。
ユカ:ま、だからさ、マミは先越されたって思ってるかもしれないけど、あたしだって、すぐ抜かれるかもよって。
マミ:そっか。……うん、わかった。すぐ追い抜いてやる。
ユカ:そうはいくか!
(二人、笑う)
ユカ:ま、何はともあれ、ようこそ。またマミの歌聞けるの、楽しみにしてるよ。
マミ:あたしも! 三年の成果、聞かせてよね。
(二人、笑いながら歩いて行く)
ー了ー
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?