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【つらい経験があるから書けるものもある】作家になるために不可欠なもの(2014年1月号特集)


公募文学賞が近道

 プロ作家になるには、大手出版社が実施している公募文学賞に応募し、受賞するのが近道です。
 この道を開拓したのは、昭和30年に第1回文學界新人賞を実施した文藝春秋と、その受賞者である石原慎太郎でしょう。
 これ以前にも新人文学賞や懸賞小説はありましたが、作家としてデビューする方法の主流とは言えませんでした。

 さて、受賞者は世間の注目も浴び、受賞作にも「○○賞受賞」と書かれて華々しくデビューします。このようにしてデビューした作家を挙げればきりがありませんが、大手出版社が開催する公募文学賞は一般文芸だけで40件近くありますから、単純に言えば作家は受賞者だけで1年に40人近くデビューしているわけです

 さらに、誉田哲也さん(ホラーサスペンス大賞特別賞)や鈴木光司さん(日本ファンタジーノベル大賞優秀賞)のように、大賞は逃したものの、優秀賞や特別賞を受賞してデビューする人もいます。
また、入選はしなかったものの、応募作が編集者の目に止まり、その後にデビューする人もいます。
たとえば、貫井徳郎さん、小川糸さん、火坂雅志さんがそうですが、こうした例を含めれば、公募文学賞を通じて、年間に100人近くの作家がデビューしていると思われます

公募以外の道は?

 公募文学賞が主流になる以前は、プロになる道は、文芸誌の編集部に持ち込み(売り込み)をすることでした
 比較的最近、この方法でデビューした作家には、今はなき「海燕」編集部に『優しいサヨクのための嬉遊曲』を持ち込んだ島田雅彦がいます。
 これは昭和58年のことですが、戦前はともかく、この頃には、「海燕新人文学賞のほうにご応募ください」と言われるのが普通でしたから、島田氏の場合はかなりレアケースでしょう。

 今現在、持ち込みが可能だとしたら、公募文学賞を持っていない出版社に限ります。ただし、直接出向いて売り込む気合いがあればですが。
 公募文学賞を経ずにデビューする道があるとしたら、編集部のほうでたまたま見出したり、つてがあったりして、原稿を見てもらえたり、依頼がきたりというケースでしょう。
 こうしたことは今もありますが、どうせなら「○○賞受賞」の冠が欲しいということもあり、いったん公募文学賞に応募してもらうケースもあるようです。

作家に不可欠なもの

 プロ作家になるのに必要なものは、文章力、着眼点、構想力――つまり、うまさや巧みさと思いがちです。確かに、それらも必要ですが、それだけでは作家にはなれません。少なくともプロ作家(職業作家)にはなれません。

 職業として成り立つためには、市場に求められる必要があり、うまいけれど、作家○○の二番煎じ、プチ○○というのでは、存在価値がありません。読みたければ、本家の作家○○のほうを読めばいいのですから。

 今回、登場いただく四人の大御所作家の方々にしても、「作家○○と言えば△△」とか、「○○の△△」というものを持っています

 阿刀田高先生はブラック・ユーモア、プロ作家への道と、公募文学賞が近道赤川次郎先生はユーモア・ミステリー、北村薫先生は日常の謎、清水義範先生はパスティーシュです。

 こうした今では大御所の作家の方でも、もしかしたら、「○○の△△」というものがなければ、埋もれていたかもしれません。いや、そうでしょう。
考えてみたら、世に出て、そして今も生き残っている作家を見ると、そのジャンルのパイオニアであったり、第一人者であったりします。
 たとえば、時代小説の池波正太郎、山岳小説の新田次郎、動物文学の戸川幸夫、経済小説の城山三郎、ショート・ショートの星新一などなど。

 ジャンルのパイオニアでなくても、その作家自体が一つのジャンルというくらいの存在感がないと、次から次へと新人作家が出てくる商業出版の世界を生きていくのはつらいと言えます。

正しい修業時代

 作家になるために、やっておかなければならないことを四つ挙げましょう。
まずは、読書経験です……

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※本記事は「公募ガイド2014年1月号」の記事を再掲載したものです。

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