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わたしらしさの正体を突き止めた話

一年前の今ごろ、悶々と悩んでいたのは「わたしらしさとは何か」という問いだった。思春期じゃなくて、仕事の話。

もっとあなたのカラーを出しなさい、あなたらしさを全面に出して。
そんなふうにアドバイスをいただいたのに、わたしはわたしらしさがどんなものか全然わからなくて、せっかくの厚意を無駄にしてしまった。のみならず、反発すらした。
なんだよ自分らしさって、そんなもん幻想じゃないかって。
今のこれがわたしの素で、それ以上でも以下でもないんだよって。

結局「わたしらしさ」が何だかわからないまま時が経って、今自分にできるベストの仕事を日々積み重ねてきた。
それでこの間、不意にビビッときたのだ。
あれ、もしかしてこれじゃないのって。

仕事場のある子と、いつも本の話をしている。その日はちょうど『源氏物語(上)』をもうすぐ読み終えるところで、光君の女たらしな独自のロジックに腹が立つという話でひとしきり盛り上がった。その子はちょうど別の本を読み終えたばかりで、コツメさんも読みなよって勧めてくれた。面白そうだから今度貸してよって応じて、わたしたちはあの時、本でつながっていた。
コンテンツの力は大きい。読書という娯楽を通してわたしたちは壮大なコンテンツを共有して、個人レベルの語彙や表現力の限界を軽々と超えてつながれるのだ。
そして、それはわたしが読書マニアであるがゆえに生まれた奇跡だ。

別のある子には、夜な夜な英語の宿題を教えている。よくわからない課題はとりあえずわたしに相談すればなんとかなると思っている。他力本願とも言えるし、使えるものをしっかり使う要領の良さとも言えよう。
なにはともあれ、わたしはその子と英語でつながっている。英語で困ったらこの人と頭に浮かぶ存在になれている。
それは、中学時代をアメリカで暮らし、日本で大学受験をして英語で点数を稼いだというわたしの経験がわたしに与えた価値だ(全然喋れないけどな)。

さらに別のある子とは、我が家のかわいいウサギの話をする。ウサギにまつわるいろいろなネタを交えて話を広げる。好きなものを聞かれてわたしが真っ先に挙げるのはいつだって決まってウサギで、それをみんなわかっている。学校でSDGsを学んで持ち帰ってきた草ストローはウサギやヤギに食べさせてもいいと聞いて、みんながこぞって我が家のウサギのためにわたしにくれた。
さっきの英語の話とも共通するけれど、「◯◯といえばこの人」と認識されることで、その子のなかでわたしが輪郭をもつのだ。
ワンオブゼムではなくて、輪郭をもった個人になる。
わたしの仕事のいちばんの土台部分は、子どもたちとの「個と個」の関係性である。わたしが村人Aみたいな没個性のモブキャラのままでは、全くもって仕事にならないのだ。

わたしはウサギを偏愛する人。
わたしは英語が得意な人。
わたしは今年本を200冊読む予定の人。
わたしは靴下だけ派手な人。
わたしはお手紙が饒舌な人。
わたしは朝食をワンプレートで出す人。
わたしは明日雨だとテンションがだだ下がる人。
わたしはよく笑っている人。
わたしはB型っぽくないと言われがちだけどB型であることに誇りを持っている人(日本人なんであんなに血液型好きなの)。
わたしはこんな人。

わたしらしいってたぶん、こういうこと。
一つひとつはほんとうにささやかな、だけど寄り集まってわたしが浮かび上がる。わたしらしさがあるからこそ、わたしはあなたとつながれるんだ。

自分らしさなんて幻想だなんて、逆ギレしてごめんね。


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