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ちくたくちくたく

夏生まれのわたしは空気が冷たくなってくると
少しづつ元気になります。
吐く息と吸う息の温度差を感じられることは
冬が好きな理由のひとつです。
些細なことですが。

小春のある日、てくてくとことこ、歩きます。
公園は色々なものがはらはらほろほろしています。
子どもが漕いだあとのブランコは
ゆっくりと静止に近づいていました。
巨大な石の滑り台ではたくさんの子どもたちが
楽しそうに滑っています。
下にはお母さんたちがおしゃべりをしながら
我が子の安全を見守っています。

「眠くなってきたんだぁ」
冬の眠りの準備をしていた花水木が言いました。
眠りにつく前の姿は植物も動物も同じ、
こぢんまりと丸まって、うとうとうと、うとうと。
落葉前の冬支度、春に花をつけた姿と比較し難い程に
なんてまろやかなことでしょう。

そばには毅然とたたずむすてきな時計塔がありました。
必要とする誰かを待っているかのように。
途切れることなく時を刻み夜を脱ぎ、昼をまとい
何をしたがっているのかいつまでも時計は立ったままで
時が来たようだとは思わないのでしょうか。
などと想像していると秋絵巻の世界でわたしだけ
時が止まったようでした。

家にはわたしを待っている子どもがいます。
疲れてひとりになることが必要なときもありますが
子どもを育てることは覚悟を持って育てること、
その覚悟がのちに、しあわせなその後になれば
じゅうぶんに満たされた実を結ぶのではないかと
時計塔を見上げながら思いを確認しました。

遠き時間も近き時間も、いずれどこかで
こつんとぶつかって
わたしが母であったのか、母がわたしであったのか
隔てることはできないのだと、時は止まらないのだと
感じる瞬間はかなしくも愛おしくもあるのでした。



秋はともすれば春より艶やかで
あらゆる色であふれる日々に思えます。
赤や黄、橙に染まる風景を求め、長い旅をするように
過去が今になり今が過去になって
やがて未来は
きみの日々>わたし。 ただ一途なときを。
そんなことを思うときが、今持てていることが
ありがたいなと思います。
些細なことですが。

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