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もっと深く!吉田博と山旅

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洋画家で木版画家の吉田博に関する展覧会コラムと資料集です。公式の解説とは一線を画し、吉田博自身の視点を大切に、そして山岳を中心に、吉田博の画家魂を掘り下げています。図録に見られな… もっと読む
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日曜美術館「吉田博」を見た

2016年7月10日に放送された日曜美術館に関する感想をまとめました。一連の吉田博に関する記事の最初期のものです。放送内容については、Web上により具体的な記事がいくつか見つかりますので参考になさってください。吉田博がブレークするきっかけになったテレビ番組といっていいでしょう。 (1)『劔山の朝』と実映像 比較があればNHKの日曜美術館で「木版画 未踏の頂へ~吉田博の挑戦~」が放送された。ようやくである。2016年春にカラバッジョ展・若冲展・黒田清輝展に対抗するかのように、

吉田博論2022

吉田博を見る3つのポイント木版画を中心にした没後70年記念展のあと、木版画展が相次いだ。 興行としてはその方がいいからなのか、それともキュレーターの趣味の偏りなのか。 木版画ばかりに注目が集まるという状況に、私はいささかげんなりする。 吉田博の画業には3つのターニングポイントがある。 1つ目は「デトロイトの奇跡1899年」、2つ目は「立山・剱の奇縁1909年」、3つ目は「木版画驚異の1926年」である。 3つめは年間40作を超える木版画を作り出した年で、いまそればか

吉田博 木版画の道を選んだ理由

(1)高階氏評論は言葉足らず西洋美術史界の重鎮、高階秀爾氏が没後70年吉田博展が東京都美術館で始まってしばらくして新聞に評論記事を書いていた。さすがは毎日新聞と言いたいところだが、率直に言って新鮮味は乏しかった。もっと焦点を絞って書いてほしかった。 1400字余りという紙面の制約もあるから、そう細かいことは書けないのは分かる。しかし、肝心かなめの部分がずいぶん粗っぽい。それは吉田博が木版画を本格的に手掛けるようになった理由だ。これについては惜しまずに書いてほしかった。ダイ

【資料】吉田博「越中立山御来光の美観」1914年

越中立山御来光の美観 文部省展覧会審査員 吉田博

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丸山晩霞_飛騨の旅(日本アルプス写生旅行)1898年

【編注】明治31年6~7月に行った31日間の写生旅行を8年後に振り返った回想記。文章の味わいをなくさないように注意しつつできるだけ現代語表記に改め、読みやすさを最優先としました。日付を付し、推定ルートを示した地図も追加しました。 文章はやや硬い表現が目立ちますが、丸山晩霞(1867-1942)渾身の漫遊記とみて愉しむことをおすすめします。序章に配置した恩師の書簡は後回しにして、第1章から読んでも差し支えありません。挿絵は、当時の素描と8年後に描き足したと思われる絵が、前後編

吉田博と丸山晩霞「飛騨の旅」再論2023

丸山晩霞の「飛騨の旅」を深読みしてみました。原文は丸山晩霞_飛騨の旅(日本アルプス写生旅行)1898年をぜひ読んでみてください。 (1)まえがき「飛騨の旅」に関する最新の研究報告と展覧会図録を、最近ようやく手にして読んだ。 図録「郷愁の画家 丸山晩霞 -師友とその時代」(2022年発行) 林誠「吉田博《写生帖No.17》「日本アルプス写生旅行」再考」『長野県立歴史館研究紀要』29号(2023年3月31日発行) 「丸山晩霞没後80年展」が開かれたのは2022年1月から2

『高山の美を語る』復刻に寄せて

2021年夏、吉田博『高山の美を語る』が復刻されたのを機に、吉田博と山について考察しました。後半で《劔山の朝》の深層に迫りました。大変恐縮ですが、今後の資料収集費に充てるため、一部は有料記事とさせてください。 (1)吉田博山岳史研究の入り口吉田博の『高山の美を語る』の復刻版が2021年8月、ヤマケイ文庫から出版された。実業之日本社の初版発行(1931年6月24日)以来90年ぶりである。新書から文庫へ判型はやや小さくなったものの、印刷技術の進歩によって比較にならないほど美しい

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吉田博 講義録「動物画法」「ペン画毛筆画」1932-1934年

風景画家でありながら動物の描写に強いこだわりを持っていたのが吉田博の個性といえましょう。動物描写への関心は明治39年ごろの欧州遊学のあたりに萌芽があります。明治42年の油彩《精華》は動物描写への挑戦でもあったわけです。吉田博は、木版よりも油彩、油彩よりも水彩、水彩よりも素描にその力量を如実に見ることができます。 動物画法 吉田博動物写生の特殊性 動物を写生するについての心得をお話するのは、主として水彩を中心としてのことであるが、もとより水彩でやるのと油絵でやるのと、写生の

吉田博 講義録「油絵 風景の描法」1934年

吉田博の画家魂に迫るには、作品を鑑賞するだけでは足りません。いくつか残された講義録のうち『油絵 風景の描法』はよくまとまっていて『高山の美を語る』と同様に、本来もっと注目されるべきものです。制作実務にあたるかた、例えばアニメ背景のクリエーターなどには一読されることをおすすめします。流動する水の描写[奔流・渓流]の研究は特に興味深いものです。なお表記は読みやすいよう現代語に改めてあります。 風景画について風景画の描法を述べるに先立って、まず風景画に入るについての心得を明確にし

吉田博_関連重要文献資料〔その2〕

『吉田博資料集』や図録には出てきませんが、注目すべき重要文献を集めました。《精華》《千古の雪》《雲表》を描いた明治42年、吉田博は洋画や画壇や美術展をどう考えていたか。第三者の批評でなく、本人の文章から読み取ってみてください。また吉田博に特化した明治42年の文展批評も掲載します。本記事は今後の資料収集費を賄うため有料とさせてください。

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没後70年 吉田博展 周辺批評

2020年から2021年にかけて没後70年展は木版画を中心に据えて開かれました。展覧会の周辺の話題を集めて書いた感想集です。生誕140周年展の感想集も参考になさってください。 (1)《渓谷》か《峡谷》か図録『没後70年展』の装丁はなかなか美しい。表紙《劔山の朝》と裏表紙《フワテプールシクリ》は、国内と国外、自然風景と室内人工物、青と黄色、対照的で順当な選択だ。扉《光る海》モノクロはやはり《帆船》のほうが文字と帆船のバランスが良かったのではないか。図録『生誕140年展』は色や

吉田博『高山の美を語る』(デジタル復刻増補版)日本篇

吉田博の著書を現代語表記に改めより読みやすくそしてカラー図版を大幅に補充しました。2017年12月公開。増補すべき図版が見つかり次第、さらに追加します。この書に関する批評・解説は別途記事「吉田博画文集を評す」や「『高山の美を語る』復刻に寄せて」を参照してください。外国篇は準備中です、しばらくお待ちください。 序登山と絵とは、今では私の生活から切り離すことのできないものとなっている。絵は私の本業であるが、その題材として、山のさまざまな風景ほど、私の心を惹きつけるものはない。

没後70年 吉田博展PR動画批評

吉田博ファンになる入り口ともいえる木版画《劔山の朝》と《帆船》。展覧会PR動画を手掛かりに徹底解説します。PR動画自体はたいへんよくできていますが、繰り返し鑑賞することでこの2つの版画の深さに気づくことでしょう。 (1)《劔山の朝》と瀬戸内海集《帆船》を動かすあの世の吉田博がもしこのアニメを見たらどう言うだろうか。たぶん苦笑することだろう。 生誕140年展から4年がたち、2019年10月から没後70年展が始まった。同じ毎日新聞がまた全国巡回展を開いている。河口湖、川越、日

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《劔山の朝》を深読みする

2016年の生誕140年展で注目された《劔山の朝》の話題を取り上げました。このあとさらに没後70年展に合わせて深い考察をしています。 (1)中日新聞「吉田博 水彩画の剣岳あった」をどう読む「洋画家・吉田博 水彩画の剣岳あった/長野・大町の旅館 傑作版画と同じ構図」という記事が『中日新聞』2016年7月7日付夕刊に掲載された。大町通信局の林啓太記者による独自ダネである。 郡山市立美術館の「生誕140周年 吉田博展」の会期中で、NHK日曜美術館の放送が7月10日にあると告知さ