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小鳥書房文学賞 お客さんとのエピソード編

第1回小鳥書房文学賞の受賞作品を発表してから、今日でちょうど1か月が経った。

こうしてweb上で発表をしたのだけど、じつは後日談がある。作品を応募くださった方々が、発表の直後から、思いがけず続々と小鳥書房の本屋を訪れてくれたのだ。

小鳥書房の本屋ができた2年前から、お客さんとして通ってくださっているREIさんは、「はじめて小説を書いたよ。楽しかった」と、私に伝えに訪れてくれた。REIさんの作品は瑞々しい優しさにあふれていて、店主の名前でもある「かよちゃん」という少女も登場する小説だった。

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以前からのお客さんで、鳥好きのまちはらさんには、「大切に読んでくださってうれしかったです」という言葉とともに、メッセージつきの素敵な本をいただいた。まちはらさんの作品は、単純ではない母と娘の愛を、一羽のインコを通して描いていた。

学生のころから訪れてくださるgakuさんは、先日お母さんと一緒に店に寄ってくださった。お母さんも小鳥書房にご興味をもってくださったようで、「小鳥書房のTwitter投稿をさかのぼって読みました」と明るく声をかけてくださった。gakuさんには、ご自身の体験をもとに綴った、病と命にまつわる難しいテーマを見事にまとめた小説をご応募いただいた。

小鳥書房のお向かいにあるシェアハウス「コトナハウス」の住人じぇしちゃんは、「応募がきかっけで文章を書くようになって、いまでは自分の考えをnoteに書くのが楽しい」と。じぇしちゃんは作品のなかで、朝の電車のホームで女性に声をかけたいのにかけられない、気弱な男性の心情をユーモラスに描写していた。

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「書肆 海と夕焼」の店主・柳沼さんは、ただでさえ多忙な会社勤務の退勤後、会社のそばの喫茶店で日々綴ってくれたそう。シャツの袖を捲ってPCに向かって綴る姿が目に浮かぶ。柳沼さんの作品は、これまで味わったことのない質感を伴う、実験的な仕掛けのある小説だった。柳沼さんが小鳥書房のことを最初に知ったのは、文学賞の告知ツイートだったとのこと。それから縁もあって、書肆 海と夕焼の実店舗が、今月29日(木・祝)に小鳥書房のお隣で開業する。

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近くに住む中学1年生のナツキちゃんは、目に涙を溜めて受賞の喜びを表してくれた。ナツキちゃんは小学校5年生のころから、友人のトーコちゃんと一緒にリレー小説を書いていて、続きを書くたびに「読んでください」と作品を持って本屋に来てくれていた。当時から彼女たちの書く小説を読んできたので、私も言葉にならない喜びがあふれる。トーコちゃんも応募してくれていたけれど、今回は受賞作品に選ぶことができなくて、そのことに私はとても心を痛めていた。そんな私に彼女は「次は詩で応募するから!」と、早くも次回の意気込みを力強く語ってくれた(これは第2回もかならずやらなきゃ…!)。ふたりがこれからどんな文章を書いていくのか、そしてどんな人生を歩んでいくのか、読者として友人として長く見守っていきたい。

みなさん「ありがとう」と言ってくださるのだけど、心からの感謝をお伝えしたいのは私のほう。文学賞の取り組みを通して、お客さんと店主という立場に、作者と読み手という新たな関係性が加わった。実際にお会いできないみなさんともSNSやメールを通してつながり、お話しすることができた。

人になにかを伝えるときは、いつも緊張する。しかも受賞作品として選ぶことができなかった作品を思うと…。なんと声をかけてよいか悩み、いつになくもじもじしてしまった私に、「小説を書くきっかけになった」という言葉をかけていただいて涙が出そうなほどうれしかった。応募して終わりではなく、そのあとに会話や出会いが生まれてしまう小鳥書房文学賞は、「世界一身近な文学賞」と言えるかもしれない。いや、言いたい。

時間をかけて作品を拝読するうちに、おひとりおひとりの人間味まで見えてきたような気がした。だから、できることなら応募してくださった全員と実際にお会いして、「この作品のこの部分が好きだったんです!」「ここはこんな思いで書いたんですよ」などとカウンター越しにお話ししてみたい。いつか小鳥書房の本屋に来てくださいね。

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現在は、スタッフあみちゃんとともに受賞作品をまとめたアンソロジーを編集中だ。小鳥書房は小さくても出版社。いちばんよい形で、より多くの人に作品のよさを伝えられる一冊にしたいと悩みに悩み、小鳥書房の本屋で起きたエピソードなども含めたボリューム感のある本を目指すことにした。また、今回の文学賞への応募を通してみなさんが「読者から作者」への垣根を越えてくださったように、新人編集者であるあみちゃんが「読者から編集者」への垣根を越える編集ノンフィクションも収録予定。ときどきfacebookページで綴っていますので、よかったらアンソロジーの進捗とともに、あみちゃんの成長も見守ってください。


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