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小鳥書房のこと

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小鳥書房の本屋と出版社のことを、店主が綴っています。
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記事一覧

「物語を語りあう本屋」と生きる4年目

「物語を語りあう本屋」と生きる4年目

今年に入ってから谷崎潤一郎『文章読本』を読んだ。「言葉と云うものは案外不自由なものでもあります」「言葉や文字で表現出来ることと出来ないこととの限界を知り、その限界内に止まることが第一」と言う。ほんとうにそう。口で話しても文章で書いても雄弁とは程遠いわたしは、仲間やお客さんに伝えようとしても、声に出そうとしてはつっかえて飲み込み、そのうち飲み込んだことすら忘れたことにしてあきらめてしまう。言葉が感情

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「町とともにある出版社」と店主の問い

「町とともにある出版社」と店主の問い

思えばずっと旅をしていたようなものだった。日常という過酷な旅。幼稚園を泣きながら登園拒否したことを皮切りに、とにかく学校が嫌いで、中学高校では女子校の制服のスカートをたくし上げて塀を乗り越え脱走し、大学では授業に行かずアルバイトと写真を撮ることに明け暮れた。家庭も穏やかではなかった私は、「生きるって狭いなぁ」と葛藤していた。でも、学校と家以外にも世界は続いていて、人の暮らしの営みがある。そのことを

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理想と現実と本屋讃歌

理想と現実と本屋讃歌

「本屋なんていう儲からない商売、大変でしょう、続けるのは」

小鳥書房の本屋を開店してからしばらくの間、私はこの言葉に滝行のごとく打たれ続けることになる。滝行と違って心身が浄められるどころか、不安が掻き立てられるだけなのだけど。“本屋=儲からない”の方程式を追究して答えあわせしようとするより、1日でも長くこの店が続くように1冊でも本を買ってくれたらいいのに…。そう思いながら、「たしかにそうですね。

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小鳥書房文学賞 お客さんとのエピソード編

小鳥書房文学賞 お客さんとのエピソード編

第1回小鳥書房文学賞の受賞作品を発表してから、今日でちょうど1か月が経った。

こうしてweb上で発表をしたのだけど、じつは後日談がある。作品を応募くださった方々が、発表の直後から、思いがけず続々と小鳥書房の本屋を訪れてくれたのだ。

小鳥書房の本屋ができた2年前から、お客さんとして通ってくださっているREIさんは、「はじめて小説を書いたよ。楽しかった」と、私に伝えに訪れてくれた。REIさんの作品

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第1回小鳥書房文学賞 受賞作品のご報告

第1回小鳥書房文学賞の受賞作品(全12作品)が決定いたしましたので、お知らせいたします。審査員3名によるコメントもあわせてご覧ください。

募集期間:2020年5月〜11月 応募作品:全167作品

●受賞作品●
大石早州王『とりとめのない話』
小石創樹『ヒトリノハオト』
鞠子まりこ『鳴いて、そして香れば』
そーちゃん(福岡少年院)『元不良ヒヨコが大空へ』
多田長次郎『茶鳥のチャドリー、ヒ

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場を編集することは「出会いなおす」こと。本屋の50年を縁でつくれたら

場を編集することは「出会いなおす」こと。本屋の50年を縁でつくれたら

つい先日、かつて勤めていた出版社の先輩から、「落合さんは本をつくる人じゃなくて、場をつくる人だよね」と言われた。絶妙に真意を探りかねて「編集者として未熟ってこと…?」と落ち込んだけれど、そのひとことで「“場を編集する”って、どういうことだろう」と考えはじめ、最近ようやく答えが見つかりつつある。

場を編集するということは、人と人の関係をつくりなおすことだと思う。「出会いなおす」きっかけをつくること

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1階は本屋、2階は「まちライブラリー」。言葉と人が交差する語りの場

1階は本屋、2階は「まちライブラリー」。言葉と人が交差する語りの場

小鳥書房を訪れる人たちは、本を買わない。買わないどころか「悩みごと」を持ってきては置いていく。家庭の悩み、恋愛の悩み、仕事の悩み、人生の悩み、企画やアイデアの悩み…。本屋としてどうなの!とツッこみたくもなるけれど、新たな悩みごとが持ち込まれる瞬間が、店主である私も嫌いではないのだ。というかむしろ、そういう無遠慮な関係性をカウンター越しに築けることに微笑ましさすら感じているのだから、店として儲かるわ

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出版社の「インターン」からはじまる仲間との協創

出版社の「インターン」からはじまる仲間との協創

小鳥書房は、ひとり出版社であり、ひとり本屋。のはずだった。なのに気づけばひとりではなくなっていた。これは自然なことなのか奇跡だったのか、いまもわからずにいる。

客からスタッフへ。カウンターを越える本屋が開店して数日後、印象的なお客さんが店に来てくれた。笑顔が眩しく明るい女性で、「ここが開店するのを、商店街の買いものついでに毎日覗いて心待ちにしていたんです」と声をかけてくれた。うちのお客さんたちは

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3 「スナック萌」から小鳥書房へと引き継いだもの

3 「スナック萌」から小鳥書房へと引き継いだもの

前回まではこちら↓

これまで綴ったように、本と本屋と旅は私の人生に欠かせない。それらがつないでくれたいくつもの縁に気づかされたのは、「誰と生きたいのか」という問いだった。国立市谷保のダイヤ街商店街に本屋を構えたのは、私なりのその答えなのだろう。

「本を売る」という特別な仕事大学卒業後の2010年、私は童話作家を目指して地元の名古屋から上京した。最初に住んだアパートは、西武新宿線の花小金井駅から

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2 「本」で距離を越えていく

2 「本」で距離を越えていく

前回まではこちら↓ 

広島の「ばっちゃん」と少年たち2週間を過ごし、圧倒的存在感の独立書店さんに脳内をもみくちゃにされ、すっかり「ホーム感」の出てきた高松を発つ。愛媛県の松山、大洲、徳島県の神山町などを経由し、次なる目的地は広島県。非行にはしる少年たち400人以上に、40余年にわたってごはんをつくり続けてきた、広島のマザーテレサこと中本忠子さん(当時83歳)に会うためである。少年たちは中本さんを

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1 地域への恩返しで「まちの小さな本屋」を開くまで

1 地域への恩返しで「まちの小さな本屋」を開くまで

先月、1月26日。小鳥書房の本屋は2周年を迎えることができた。

「50年は続く店にしたい!」と口ぐせのように言っているので、実現させるにはあと48年…。途方もなく長い道程に感じるけれど、今日1日を積み重ねればかならず届くことを知っている。そして、48年後もこのまちにこの店が存在するであろうことを、笑うことなく信じてくれている人たちがいることも知っている。

これまで私(店主=落合加依子)は、小鳥

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