スクリーンショット_2018-08-13_9

『解体屋ゲン』 #10 大きな力

前回、労働者の側に立つ!権力者なんかぶっ飛ばす!と偉そうな事を書きましたが、その内実はブレブレです。それはゲンの会社の看板に現れています。

ゲンの表情がまったく冴えません。それは三友爆破株式会社という爆破解体の会社を新たに作り、三友グループというゼネコンの傘下に入ったからです(大きな爆破解体の仕事を請けるため)。でも、ゲンは元々の自分の会社、朝倉工務店も残して二枚看板とします。大手に入りたくないけど、爆破解体の仕事はしたい。ゲンの葛藤はそのまま私の悩みでもありました。

そんなんどっちでもええやん!という声が聞こえてきそうです。でも、大企業と一人親方は別の論理で動いています。それを描きたかったのがこの回です。


この回、ゲンは犬を助けるために大きな現場をストップします。それは飼い主である少年の願いを聞き入れてのことですが、ゼネコンにはゼネコンの立場と責任があり、犬一匹のために現場を止める訳には行きません。どちらかが正しい、どちらかが間違っている、ではなくて立場が違うのです。もしも穴に落ちたのが少年だったら、ゼネコンは全社を挙げて少年を助けようとするでしょうし、その場合は個人での救出よりもはるかに大掛かりなことが出来ると思います(ただし意志決定に時間が掛かりすぎて手遅れになるかも知れませんが、それはまた別の話)。

ゼネコンだから、大手だから悪、みたいな単純な話ではありません。現場で働くのは下請けの人間ですし、現場の作業員に情がない訳じゃない。現にゲンに責任を押し付けようとしていた現場監督は、最後にはゲンを助けます。

どちらか一方を悪者にしないこと、ステレオタイプの善悪での決めつけは行わないこと、この辺りが少年誌とは違うところでしょうか。

ゲンの仕事の立ち位置(ゼネコンとは一線を引くが敵対ではなく協力する)は、この回でほぼ決まりました。ここからは、いよいよゲンが自分のチームを作ってゆきます。                              <続く>

ここでいただいたサポートは、海外向けの漫画を作る制作費に充てさせていただきます。早くみなさんにご報告できるようにがんばります!