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『解体屋ゲン』 #6 曵き家のロク

いよいよ連載再開第2回、家を曳いて移動させる曳き家のロクさんの登場です。ロクさんが登場すると話が引き締まると同時に安定します。でも当時の内情というか私の内面はガッタガタでした。



というのも、自分で決めた約束事「毎回読み切りで読者にスカッとしてもらう」に自分の首を締められていたのです。毎回読み切りということは、主要登場人物以外はほぼ毎回入れ替え、舞台もセットも新しく考え、その上1話の中できちんと話を完結しなくてはなりません。起承転結を考え伏線を張り、何か建築業界の薀蓄や新しい情報を織り込んで、読者にスカッと溜飲を下げてもらう。それを1週間につき1本ずつ作る…無理無理無理考えただけで卒倒しそうです。半年間の準備期間はあっという間に過ぎ、ここから毎週〆切に追われることになります。

ずいぶん後で聞いた話ですが、作画の石井氏も週刊連載ははじめてだったらしく、そんなこと微塵も感じさせない安定の絵柄はさすがです(ものすごいベテランさんだと思ってました)。ただ原作としては、毎回読み切り形式にすると背景の使いまわしが難しく、新しいキャラも毎回登場するので、漫画家さんへの負担も重いことが分かっていたので、それも申し訳なく思っていました。

さて曳き家のロクさんです。連載にあたって、毎回爆破解体するのはいくらなんても無理、ということで扱える職種を増やすと同時に、レギュラーメンバーの布陣を敷くことに決めていました。ゲンは主人公とはいえひねくれ者の孫請け解体業者、慶子はゼネコン社員でいつも居る訳ではない、こうなるとやはりご意見番が欲しいところです。頑固で、偏屈で、ブレずに真正面から正論を説いてくれる職人です。でも大上段に上から見下ろすような偉そうなキャラじゃなくて……という訳で、一度は引退して老人ホームに入っている職人がもう一度現役に復帰する、というロクさんの背景を作りました。

ゲンはロクを挑発し、職人魂に火を付けます。結局のところ、現役を引退する・しないというのは心の持ちようなのです。きっかけを作ったのはゲンですが、見事な古民家を前にして奮起したのはロク自身であり、ミチという伴侶を得て、もう1度人生を取り戻すことになります。                 <続く>

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