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『解体屋ゲン』 #8 最後の運転

話作りにも、現実との線引にも、アンケート結果にも、なにもかも自信が持てず疑心暗鬼に陥ったこの時期、一つの大きな転機が訪れます。それがこの回です。


私は群馬県出身ですが、この話を思いついた時に既に頭の中にモデルがありました。それは廃線になってしまった赤城山ロープウェイです。
https://www.8beat.com/ropeway/akagi.htm
(「失われたロープウェイ」より転載させていただきました)

子どもの頃、このロープウェイを使ってスキーをしたことが何度かありました。ここはちょっと変わっていて、まずは麓からリフトに乗り(普段はリフトだけ使いゲレンデを滑る)、そこでスキーを脱いでロープウェイに乗り継ぐと、ちょっと長い林間コースを滑れるのです。ロープウェイはリフトとは別料金だし、いちいちスキーを脱ぐのが面倒なのですが、ゲレンデとは違う林の中を縦横に滑れる眺めの良いコースでした。

廃線になったロープウェイ…物悲しくて、色々な想像が膨らみます。現地調査に行き写真を撮り、不要になった鉄塔を爆破解体すると言う骨格を作りました。しかもラッキーなことに、中学の同級生の父親がロープウェイに勤務していたというではありませんか。早速話を聞きにゆきました。

四季折々のロープウェイからの景色、眼下に広がるきれいな湖、老若男女が楽しむ姿を見れるのが一番の楽しみ……とてもいい話が聞けて大満足だったのですが、途中から何かがおかしいことに気づきました。「下から眺めると富士山そっくりだが…」「駐車場からすぐに乗れて山頂まであっという間に到着する」あれ?私の知ってる赤城山と違う……。富士山に似た稜線なんてないし、駐車場どころか1本リフトに乗ってからしか乗り継げない筈…富士山に稜線が似てるのは確か……。

そう、この方が勤務していたのは、赤城山ロープウェイではなく、同じ群馬の榛名山ロープウェイだったのです(榛名山は榛名富士と呼ばれるくらい、富士山と稜線が似ています)。同級生は私がロープウェイの取材をしている、というところだけを拾ってくれ、あとは伝言ゲームでこんなことに。その場は大笑いして終わったのですが(知り合いじゃなかったら大ごとです)、その時にちょっとした天啓を受けました。

それは技術的なことや題材も大事だけれど、それよりも人の心を書くことに重心を置く、ということです。話を聞かせてくれた親父さんのエピソードはどれも心温まる話で嘘はない、場所が違っていてもフィクションに取り込むことに何の問題もない筈です。それが冒頭のセリフ「コストや手間が掛かっても人の気持を優先したいんでしょ?」に繋がって行きます。

ここから先、色んな場所・色んな仕事を取材することになりますが、フィクションとして取り込むことに躊躇しない、大切なのは人の心、という方針を貫くことになります。ちょっと停滞していた気分が晴れてきました。


そして、次の話でもう一つ、大きな決断をすることになります。  <続く>



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