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全部、春のせい

スーパーに並んだホタルイカを見て、春が来たのを知った。

今年はそういえば花粉がひどい。毎年誰よりも先に病院に行っていたのに、今年はなぜか行ってない。こういうの、自分のことを大事にしてないと思う。早く病院で薬をもらおう。

ホタルイカは、山盛り入って1パック120円だった。格安だと思った。でも買おうと思わなかった。ホタルイカのレシピを一つしか知らない。そのレシピにすごく思い出がある。美味しかったし、幸せだった記憶がある。

だから、今そんなもの食べたら死にたくなりそうな気がして、辞めよう、と思った時にはもう泣いていた。駅前のスーパーの海鮮売り場でポロッポロ涙が落ちてきて、寂しくなって、ただただ泣いた。

人の記憶って、案外消えてくれない。こんなに悲しくなるなら、昔の記憶なんて全部消えてくれればいいのに。なんでこんなことで泣いてるんだろう。バカみたいだなと思った。一気に疲れてしまって、お酒だけ買って帰った。


新しいことをやるのは楽しいし、忖度なく私は今の仕事が好きだ。最近、旅行のことばかり考えていて、新しい情報が毎日あって、趣味の時間がちゃんと楽しい。
それでも時々、昔の出来事をふと思い出して、強烈に悲しくなったり、虚しくなったりする。

好きな人のためにいっぱい料理を覚えて、
少しでも喜んでもらえたらいいなと思って、楽しくスーパーで買い物していた頃の自分をふと思い出して、
すごく純粋な意味で、人のことを想って暮らしていた日々のことを思い出したら、今の自分とは全く別人で、天使みたいにいいヤツで、まっすぐで、疑うことを知らなくて、今となっては、あれは人生で一回しか使えない魔法だったんだなと思えてきて、悲しくなってしまった。

誰かのためを思って料理を作るって、私は楽しかったし、一緒にご飯を食べるのも大好きだった。新しいことを覚えられるのも、やってみようと思えたのも、相手がいたからであって。1人じゃホタルイカを美味しく食べようなんて多分思わなかった。

「そんなもの、お前が勝手に作ったんだろ」「恩着せがましい」と言われてしまえば、所詮なにも言い返せないけれど、
自分としては、好きで、大好きで、ただそれだけの動機で全てのエネルギーが回転していて、
好きだよー!一緒にご飯食べよー!、好きだよー!洗濯しといたからねー!みたいな、
何かが欲しいとか、下心無しに、純粋に「好きだから」という気持ちですべてを賄えていた頃を思い出したら、
なんでそんな純度100パーセントの「好き」が、バカみたいに踏み躙られてんだろ、なんか今更どうこう言うのはダサいとは思いつつ、全然許せないし、ひどい話だよなぁと思って、とにかく悲しかった。

もうあんなに純粋な気持ちで人を好きになることは、二度と出来ないことだけはわかる。

人生で一度だけ使える魔法を、易々とドブに捨てられたことを受け止めるのは、なかなか時間がかかるな。


こんなに気弱になるのが久しぶりだったので、数日前に書いたツイートやnoteを今読み返したら、え?!なに?二重人格?!?、と思うほど、ホタルイカをトリガーに人が変わってしまって、ボロボロ泣いてしまって、もうどうしようもないなと思った。

元気な時はいいよ、いくらだって乗り越えていくぜ!と思って、強くいられる。でも、弱ってる時はダメだ。どうしていいかわからない。

好きな人と一緒になにかをした記憶って、思った以上に残ってしまう。
私のような人間には、あの楽しかった数年がまるで時限爆弾みたいに、後から効いてくる。

あの人は、
私がしてあげた何かも、贈った何かも、弱ってる時にかけた言葉も、
きっと何にも響かないし、何一つ残らないような男だから、私のことなんか一生思い出さないんだろうな。

ひとって、何かしてもらったことより、してあげたことばかり記憶に残るらしいし。
だとしたら、あの人と私の記憶を一回全部消し去りたい。都合よくそんな事が出来たらいいのに。

このお金で一緒に焼肉行こ〜