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嗅ぎ分けることには自信がある。
席を立ち上がった瞬間、立ちのぼる匂いですぐにわかる。

尿か便か。半か丁か。高齢になると鈍感になるのか。それとも匂っていても匂わないそぶりをして気遣っているのか。
お尻の膨らみを見てどうこうというよりも、無意識に鼻が動いているような気がする。トイレに行きズボンを下ろしてリハパンどん長が開いた時、素敵な舞台が幕を開ける。お尻の裏側まで広がっている荒野。場面を展開するべく破り捨て舞台袖へと退場してもらう。

入浴介助。服を脱いでもらったときに立ち込める匂い。同じ服を何日も着ているだろう匂い。部屋が散らかっていて掃除していない匂い。服が汚れているとかよりも、匂いで危機を感じることがある。汗とホコリの入り混じったあの胃を下から押し上げられるような独特の異臭。まさに非日常的な異臭。
鼻を摘んで肩が外れるくらい全力で窓から放り投げたい衝動に駆られるが、人様の服をそんなしては悪魔の所業。服は丁寧に折りたたんで脱衣かごに重ねておく。その人はまた、その服を身に纏うわけだ。着替えを持ってきていないから仕方ない。

素足で履き潰した靴。中敷は真っ黒でかかとは押し花。すり減った靴底は地球の裏側とつながりそうだ。「ブラジルの人聞こえますかー!」。当然、独特な香りを放ち、靴下を一瞬で無力化する。

これらを模して最強なのが可燃ごみ。全てを飲み込むブラックホール。

ぼくは、介護職をしてから嗅覚が敏感になった気がする。
ただ、人が抱く好意や空気を読むといった嗅覚は鈍感になっている気がする。なんとなくそう思う。


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