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【エッセイ・初稿】友よ

地面が揺れているのか、
足の裏が突然柔らかくなってしまったのか。
立っていられない。

その箱が車に吸い込まれてしまったら、
もう二度とお前の顔を見ることはなくなってしまう。

同級生の写真なんて残っていてもせいぜい学生時代の集合写真くらいなもので。今のお前にはあの頃の少年の眼差しや初々しい肌艶なんかはない。
冷たく固まった体に無表情のまま目を閉じた顔面。童顔だから40歳にしては若く見える。だけどお前の内臓は誰よりも老けていたのかもな。
普通、酒の飲み過ぎで死ぬかぁ。明け方まで酒を飲んでいて床に倒れてそのまま逝くって。カリスマにも程があるだろう。

「馬鹿だなぁ。でもなんかお前らしいなぁ」って思いながら。涙を堪える口実として頭の中でそんな言葉を再生していたんだけど。

葬式場の玄関。両側に並ぶ黒い服をアーチにして、お前が入れられた木箱が目の前を通り過ぎていく。間違いなく親不孝だ。父ちゃん母ちゃんに何を持たせているんだ。お前は。

俺の前を通り過ぎていく瞬間、頭の中の言葉は全て消し飛んだ。お前の名前が堰を切ったように流れ込んできて。頭にはお前の名前しか無くなった。あれはお前の仕業だろ。

涙が止まらなかった。
涙で自分の感情に気がついた。
嗚咽し膝から崩れた。

出棺のクラクション。
見送る参列者の後ろ姿を、ぼくは少し見上げて。
またうつむき地面をしばらく見つめるしかなかった。

お前に宛てた手紙

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