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希望はクレームになった

クレームを受けたことがある。

「お前のところ職員が俺に生意気な口を叩きやがった。」

そう、施設にお怒りの電話が本人から入った。
その職員はぼくだ。

敷地の外に勝手に出て行ってしまったり事務所に入ってきて従業員に絡んだり、他の利用者さんの悪態をつくなど問題行動が目立つ方だった。
認知症があるわけではない。むしろ頭の切れる聡明な方。記憶力も判断力もコミュニケーション能力も高い。聞けば昔は大手企業に勤めていたらしく部下を何十人も従え教育係を兼任していたとのことだった。ゆえに人の半歩先を読む頭の良さがあった。
けれど、半身マヒがあり車椅子での生活。働きすぎた影響で脳梗塞になったと本人は語る。

問題行動といっても別に怪我や事故に遭わなければ、言い方は悪いがその人の好きなように放っておけばいい。逆に構うから余計に事が大きくなるだけ。相手にせず遠くから見守っておけば、本人は退屈になって大人しくなる。ぼく自身はそう考えているが、しかしほとんどの職員はその人の対応に追われマンツーマンの見守りをしていた。

「〇〇!帽子とってくれ!」「〇〇トイレ!」「〇〇はトロ臭いなぁ」

その人は「〇〇!」と職員を呼び捨てにして命令する。それもまた人を選んで呼び捨てにする。ぼくはその言葉遣いと二面性がどうしても嫌だった。

「□□さん、申し訳ないですけど職員を呼び捨てにして命令するのやめて頂けませんか。
□□さんの部下でもないのに呼び捨てにされて命令されたら、誰だっていい気分にはならないです。そうして職員に対しての敬意がない接し方をしていると、そのうち□□さんのこと誰も相手にしなくなりますよ。必要最低限のことでしか関わりを持ちたくないと、みな□□さんのことを遠ざけていきますよ。それで困るのは□□さんご自身ですよね。□□さん頭のいい方だし、わかってくれると思ってぼくは言っています。人と人ととして気持ちのいい会話をしましょう。
もし、ぼくの注意が不愉快に感じたのなら、ぼくの名前を出して苦情をいれてください。」

「そうか、わかった。すまんかったな。気をつける。」

□□さんは自分で車椅子をこぎ、席に戻って行った。

して、翌日。

クレームくんのかーーーーい!

ぼくはそっこー上司に呼び出されるんかーーーーーい!

□□さんから無視されるんかーーーーーい!

希望は虚しく、クレームとなって帰ってきた。

時間が解決してそのうち□□さんとの関係は修復したが、言い方を工夫すれば良かったと思った。

でも、介護保険サービスと言うサービス業かもしれないが、ぼくは決して「お客様は神様だ」とは思わない。選ばれるお客さんであることも大切なことだと思っている。

介護は大変。介護職はキツイ。そんなネガティブなイメージを覆したいと思っています。介護職は人間的成長ができるクリエイティブで素晴らしい仕事です。家族介護者の方も支援していけるように、この活動を応援してください!よろしくお願いいたします。