見出し画像

【リポート】ストレンジシード静岡2024

すべての人に開かれたフェスティバル

劇場を飛び出し屋外でパフォーマンスをするシアターストリート。毎年GWに開催される「ストレンジシード静岡」は、日本を代表するストリートシアターの祭典である。9回目の開催となる今回は、新緑あふれる駿府城公園周辺(PARKエリア)と、静岡市役所・葵区役所および青葉シンボルロード(CLTYエリア)の2会場で実施。

 フェスティバルがプロデュースした作品を含むハイクオリティなコアプログラム2組。フェスティバルとタッグを組んだアーティストによるオフィシャルプログラム4組。シアターストリートの可能性に挑戦する作品を公募したオープンコールプログラム6組の計12演目(演劇に限らず、ダンスや現代サーカスなど多彩なジャンル)を上演。すべてを鑑賞することは出来なかったが、その一部を紹介する。
 

CITYエリアでは、青葉シンボルロードの内の5つの区画(おまち1~5と名前が付けられている)と、静岡市役所が舞台となる。区画にはそれぞれ屋台や、特設の客席などが設置されている。
 

CITYエリア「おまち1」の様子


宮城拠点のMICHInoX(ミチノークス)は、茶番劇『オチャー・ウォーズ エピソード4/新たなる茶坊』(作・演出:本田椋)を上演。反乱軍に加入したカテキン・ウマイウォーチャーは、帝国軍の暗黒卿ジュース・サイダーを倒すために、修行を重ね立ち向かう。スターウォーズをお茶でもじったひたすらにバカバカしい台本。区画を生かしたシーン展開や、区画にある水が流れる黒く細長いモニュメントを茶柱に見立てる等のその場を活かした演出。なによりハチャメチャで勢いのある俳優の演技が観客の笑いを誘った。


『オチャー・ウォーズ エピソード4/新たなる茶坊』


バーティカルダンス(ロープとハーネスを使い空中で演技するダンス)を披露した京都を拠点のCo.SCOoPPの『まちなかサバイバル!』(演出:安本亜沙美)。町中に現れた白いもこもこの不思議な生き物たちは、ふるふると身を震わせながら、おまち区画周辺を回遊する。やがて器具が設置された市役所の広場にたどり着き、ロープを装着しバーティカルダンスを展開する。振り子運動や回転といったバーティカルダンスらしい技を披露していく。途中、疲れたのか器具のてっぺんで休むなどお茶目な演出も忘れない。バーティカルダンスの魅力と、かわいらしいキャラクターの魅力が融合したパフォーマンスだ。

『まちなかサバイバル!』


QRコードを活かし演劇に新たな可能性を拓いたのは、第二次谷杉≒ミミトメの『すべての主人公はこの通りで』。観客は「観客さん」という名の俳優になって、おまち区画全域を徘徊するQRコードを身に付けた総勢16名の主人公さん(俳優)を探す。QRコードを読み取ると音声が流れ、彼らの物語が浮かび上がってくる。また、その音声を聞いて主人公さんに質問することもできる。たとえば、きょろきょろと辺りを見渡している女性がいる。音声によると、顔も知らない待ち人を3日も探し続けているらしい。話を聞いてみると、ゴトウさんという人を探しているらしい。彼女と別れすこし進むと、ボロボロのメモを頼りに人探しをしている女性がーそう。彼女こそゴトウさんであるー。こうして断片的だった物語が合わさり、大きなドラマを町に立ち上げる。
 
一方、PARKエリアも面白い。駿府城跡地を公園に改修した駿府城公園の芝生エリアや、二の丸広場、児童公園などで開催。

ダンサー・振付家の鈴木ユキオ『風景と共に』は、公募で選ばれた約30人のダンサーによる、ガーデンから二の丸広場までの移動型パフォーマンス。シンプルな動きの連続だが、全員は呼吸を合わせ動きを同期させながら踊る。出発地のガーデンでは全員が風を感じるように腕を広げ、やがて移動を開始し細長い道では摺り足で一歩一歩道を進み、広場に出ると空に向かって手を伸ばし、木漏れ日に満ちた道では思い思いのポーズを決めながら移動していく。そして終着地の二の丸広場で、生命力溢れる群舞を織り成す。風景を移動する全員の身体は同調し、一体感を生み出す。見る者の感覚に訴えかける温かな作品だ。
 

『風景と共に』


女性演劇ユニット・のあんじー(栗栖のあ、アンジー)は『待てない!』を上演。駅でひたすら誰かを待つ女を描いた太宰治の短編小説『待つ』を下敷きにしたピクニック演劇。始まりは芝生エリア。誰かを待つ女の心情を語るアンジーは、しばらくすると観客エリアを飛び出していく。次にゴミ箱を被った栗栖が現代社会の情勢を語る。かと思えば、エリアの外に飛び出していったアンジーも台詞を発し続けている。2人の声が聞き取れないほど離れた場所で、台詞は同時進行していく。やがて2人は集散をくり返しながら移動し、物語は展開していく。いつどこでなにが起こるかわからない予測不能な展開に筆者は目を離すことができなかった。

『待てない!』
栗栖のあ、アンジー、2人ともまだ23歳とのこと。期待の星である。


舞台衣装作家・南野詩恵主催の劇団お寿司は「逃げ出す」をテーマの演劇『にぎにぎしく逃逃』を上演。児童公園の水飲み場の前に、家を模したブルーシートと机が設置されている。主人公のぼくは、同居人と思わしきピンクの衣装を着た謎の生物と暮らしている。集金や家事、同居人の世話に縛られ霹靂としている。すると、たこじゃんと名乗るものがやってくる。ブルーシートの横にピクニックシートを広げて、机や同居人を引き受ける。逃げ出してよいか戸惑っているぼくを、たこじゃんはコミカルな歌で鼓舞する。意を決してぼくはブルーシートを折りたたんで飛行機にし、周りにいた大人や子ども達の力を借り、公園内へと飛び立っていく。一方、残ったたこじゃん達も寿司を頼み団欒の時を過ごす。一時の旅を経て荷が降りたぼく。役目を終えたたこじゃんはその場を去る。逃げたいときに逃げていいというメッセージ、そして助けてくれる人の存在。やさしい眼差しに溢れた作品だ。 


『にぎにぎしく逃逃』
色彩豊かな衣装は南野によるもの。
ぼくを歌で鼓舞するたこじゃん(竹ち代鞠也)の存在が光る。


韓国のクリエイティブ・サーカス・グループのBONG n JOULE(ボン・エン・ジュール)の『The Rord to Heaven』は、屈強な肉体を持った半裸の男(アン・ジェヒョン)が棒を携えて韓国の伝統的な歌を歌いながら町を練り歩きながら、二の丸広場へと移動。白いシャツを身につけた男は、韓国の太鼓、笛、歌と共に五メートルほど高い棒の頂点へ登ると落下し、地面の寸前で止まる、を繰り返す。白いシャツは摩擦によって擦り切れボロボロになっていく。楽園を求めて落下の恐怖に耐え、登り続ける男の物語を紡いだ。
 

『The Rord to Heaven』
命綱なしのスリリングな演技は、思わず目を逸らしたくなるほど。


今年のフェスティバルのテーマは「なんだ!なんだ!なんだ!」。その場に居合わせたすべての人を驚かせる「なんだ!」という工夫で溢れている。ストリートシアターという形態は舞台芸術初心者や、たまたま訪れた人への鑑賞の機会を提供する。舞台芸術初心者の入口に経つような作品から、舞台芸術ファンを唸らせるようなハイクオリティな作品や実験的な作品まで。すべての人に開かれたフェスティバルである。来年度の開催が待ち遠しい。

DETA
開催時期:2024/5/4(土)~5/6(月・振休)
場所:駿府城公園周辺、青葉シンボルロード【静岡】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?