見出し画像

ラストバレンタインと入試

バレンタインデー、よくもまぁ毎年毎年懲りもせずあげ続けるもんだと自分でも感心した。

フラれようが捨てられようが、お返しがあろうがなかろうが、そんなもの関係ない。

1年に1度だけ、〝女子から好きな男子に気持ちを伝える事が自然な流れでできる特別な日″、と小学校1年生の頃からずっと思っていた。

毎年1月の中旬になると、今年は誰にどんな形であげようかワクワクする。

私立の入試の合格発表が終わった翌週、すぐにバレンタインデーはやってきた。
今年は誰にも相談していない。もう迷わない、3年間ずっと好きだったミッちゃんにしかあげない。
夕方16時頃、自転車で片道約20分かけてミッちゃん家の辺りに着いた。近所に自転車を止めて玄関に向かう。1年生の時に居たはずのニワトリが居ない。ニワトリは去年野犬に襲われたと弘田くんから聞いていた。

庭も玄関も静まりかえってる。ピンポンをならすと、やはりミッちゃん本人が出てきた。受験の年でも私のようにチョコを渡しに来る子が他にもいるのだろう。
(ライバルの綾は受験生だけれど手づくりすると情報源から聞いていた)

クリスマスの膨れたカーテン事件の時に顔を合わせて以来だ、正面からまじまじと顔を見るのは。
『受験頑張ってね』と言って渡した。ミッちゃんは『ありがとう』と言って受け取ってくれた。3年目にしてやっとマトモに正面から話せた。それだけで良かった。もうこれで最後なんだ、と思うと泣きそうになったが泣くのはまだ早い。やり残した事がある。

他の女子とかぶらないようにそっと家を出て、また20分かけて家に帰った。何故か気分がスッキリした。これで私の役目は終わった。(頼まれてないけど)

数日後、アケミが久しぶりに登校してきたので、ミッちゃんにチョコを渡した事を話した。
そして、とある計画の話もした。アケミは満面の笑みでオッケーしてくれた。よし、ここまでは計画通りだ。

3月に入り、いよいよ本命の高校受験の日がやってきた。私の学校からは14名しか受ける者がいなかった。やっぱ山奥だし、制服ダサいし人気ないんだな。バスケ部の陽子も居たが、そんな時に限って心細いのか、やたら話しかけてくる。
周りを見渡しても、知らない人だらけだ。制服も皆違い、どうやら隣の学区以外にも遠くから受験しに来ている人が多い事もわかった。

試験がスタートした。
とにかく解けるものから順不同に問題を解いていく。数学は最後の大問2つを捨てた。
公立高校の入試は、どこも同じ日程で同じ問題だ。時計を見ながら見直しをしていく。

昼休憩は皆自分の席でお弁当を食べる。知らない人だらけなので話す相手もいない。受験の日だけは母がきちんとお弁当を作ってくれていた。志望校なのに初めて来た高校、新設校だけあって何もかも綺麗だった。でも山のてっぺんなので寒い。ホッカイロを持っていて良かった。

午後の2教科が終わり、真っ直ぐ祖父母宅に帰宅して、すぐにテレビをつけた。入試の解答速報をやっていたのでひと通り見た。
やっと終わった!すぐ近くのショッピングモールに自転車で出かけた。これでやっと解放だ。まだ合格しているかも分からないのに、気分は晴れ晴れとしていた。
最近見てなかった洋服屋さん、小物屋さん、なんかわかんないけれど嬉しくてフワフワのポーチやら小物をいくつか衝動買いした。

翌日登校すると、自己採点したら何点だったとか余裕だった、ダメかもしれない、みんな色々言っていたが、私はもう入試が終わった事が嬉しくて自己採点は大まかにしかしてなかった。
いくら悩んでも悔やんでも、合格発表がある日まで何もわからないじゃない!

3月に入ってから卒業式までの間は全員出席するよう言われていたので、皆の顔を久しぶりに見た。少し見ない間に大人っぽくなっていた子も居たが、素行が悪いと合格取り消しになってしまうと先生から聞いていたからか、髪を染めている者も居なかった。

学校では卒業式の練習ばかりだ。私も伴奏をするので暗譜するくらい弾いていた。あと数日で卒業か…色々あったけれど中学楽しかったな…。もう会えなくなる人もいるんだろうな…なんて考えながら。

そして卒業式の日はやってきた。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?