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私立高校の入試と計画…

1月中旬になると、私立専願の人たちの入試が始まった。
そういえば幼稚園、小中ずっと一緒で私の事をイジメていた恵子ちゃんは看護科のある私立を受けると言ってたな…中学に入ってからクラスもかぶらず、部活もグループも別になり関わる機会が減っていた。看護科のある学校に行くんだ…それより恵子ちゃん、最近やたら笑顔だ、不思議なもんだと思っていた。

まず私立専願の人たちの合格発表があり、皆喜んでいた。いいなぁ…早く楽になりたい。 

塾で隣の席の仲村くんと母が居ない間、部屋の子機で長電話をする仲になった。同じ市内なのでそんなに通話料はかからない。

というより母自体がものすごい〝電話魔″で、宗教の集会がない夜は大抵誰かと長電話をしていた。主に学生の頃に東京で過ごした友だちや遠方の人だ。家の固定電話だけなのに通話料が月2万くらいかかっていた。母は明細なんか興味がない。
私が同じ市内の仲村くんと1時間、2時間長電話をしたところでたかが知れている、それくらいではバレはしない。
仲村くんは塾で私とカップルのように行動していたが、学校では例の裕木奈江似の子が好きだった。私もまた仲村くんの存在が学年第2位くらいまでに浮上していた。ミッちゃんが1番好きなのだが、振り向いてもらえない事はもう分かっていたので、2番目に好きな仲村くんと塾で仲良くした。きっとお互い様だったんだろう。

2月に入り、私立高校の一般入試が始まった。
まずは音楽科がある例の女子校を受験しに遠くまで行った。
筆記テストは簡単で、ピアノの実技試験でベートーヴェンのソナタ〝悲愴″の3楽章を弾いた。提示部、展開部、再現部…に入ったところでチーンとベルが鳴る。コンクールも試験もだいたいココまで、という辺りでチーンとベルが鳴って終わる。コンクールの本選では最後まで弾くのがお決まりだ。

実技試験は滞りなく終わった。もう少し緊張するかな?と思っていたが、コンクール慣れしていたのと、前の人が普通のレベルの演奏だったので特に緊張もしなかった。最後に面接だ。
夏のオープンキャンパスで会った女性校長と、2人先生が居た。女性校長は私の事を覚えており、いくつか口頭質問があった後、
『それでは、入学式でお待ちしていますね』とニッコリ笑って無事終了した。なんだ、入学式で会おうとは、合格ってコトか…。
翌週、合格通知が届いた。まず一つ目の入試突破だ。K先生も喜んでくれた。

隣の市にある私立高校は、公立高校の進学校を受験する者の滑り止めとして受ける者が多かった。トリプルゆうちゃん友だちも居る。アケミは第一志望校として一緒に受験した。各学校から何十人も受けるので、その高校のグラウンドには数百人、いや1000人近い受験生で溢れ返していた。その7割近くの者は公立高校が合格すると、入学を辞退する。

この日ばかりはヘアカラーで茶髪にしていた生徒も〝ごく自然な黒髪″に染め直して素行を良くしていた。
すると、屋上からその高校の教員がオペラグラスのような物で、グラウンドに集まっている生徒たちを観察している事に気づいた。あぁなるほど、こうやって観察して、変な制服の着方をしている人や態度が悪そうな人、髪を染めている生徒を〝あぶり出して″いるんだなとすぐに分かった。
筆記試験と集団面接が終わり、翌週には合格通知が届いた。
残るは本命の制服がダサいと我が中学から不人気の公立高校の入試だけになった。公立高校の入試は3月の上旬だ。まだ3週間近くもある。

学校内では推薦で入試を終えた者や私立を第一志望校にして合格した者は、学校に来ても来なくても良いとされていた。クラスには半分近くの人間しかいない。誰がどこを受験するのかおおよそ分かってくる。
進学校と言われていた3校、高専、地元の工業高校や商業高校、近隣の市町の普通科や工業高校まで多岐にわたり幅広い。
同じクラスで私と同じ高校を受験する者は2人しか居なかった。

この時期になると、あとは体調管理だけで、今更慌てふためいたところで何かが大きく変わる事なんてない。過去問と単語帳、数学の証明問題やら歴史の年表やら見直してただひたすら解いていくだけだ。暇だ…。アケミは私立高校に合格していたので学校には来ていない。

バレンタインどうしよっかな…ミッちゃんは元々私が受けようとしていた進学校を受験する。チョコ渡しに行ったら気が散るかな…。でもどうせ高校で別々の道になるんだ、最後だしやっぱり渡しに行こう!
私も勉強があるので手づくりはやめ、市販のチョコレートを買った。もう渡すだけだ。手紙も気が散るだろうから書かない。
公立高校の受験日は3/6、合格発表はその1週間後。その間に卒業式がある。

昔から、公立高校の受験日と合格発表日の間に卒業式がある。これは今でも大抵そうだ。
合格発表で不合格になった者がショックで卒業式に出ない事が多いと予想し、わざと合格発表の前に卒業式をするのだ。
ホワイトデーは合格発表も卒業式も終わっている。ハナからお返しなんか期待していないが、もう二度と会えないかもしれない。バレンタインのチョコとは別に、私はとある事を思いついていた。これだけは絶対譲れないある事を…。

私の頭の中は、バレンタインデーにチョコを渡す→公立高校の受験→卒業式→合格発表→進路決定、この流れを崩さないように慎重に物事を進めなくては…。

単語帳と数学の公式を見直しながら念入りにそれらを〝計算″した…誰にもバレないように…。
公立高校の入試は、まぁ何とかなるだろう、もし滑ったらあの音楽科がある高校に行けばいい、何とかなる、が口癖になっていた。

3学期に入ってから、母も受験を気にしていたのか、家事労働をあまり言わなくなったのと、殴られたり罵声を浴びせる事がなくなった。普段からこれくらいなら良かったのに…。ただ毎晩21時と22時には、必ずなみなみにつがれたコーヒーが運ばれてきた。

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