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嫌われてなかった…?

3年生の2学期が終わる少し前、アケミとクリスマスは何するの?という話になった。

母の宗教のせいで、誕生日はおろかクリスマスも全て禁止になり、ちっとも楽しくない。


祖父母の家は昔から地元の和菓子屋さんにお正月のお餅を頼んでいた。大きな鏡餅からあんこ餅、丸い白餅まで大小50個くらい、12/30につきたてのお餅を和菓子屋さんが木箱を二段ギッシリに入れて祖父母宅まで持ってきてくれる。
いつもその和菓子屋さんを利用していたので、クリスマスケーキは毎年和菓子屋さんが特別にサービスで祖父母宅に持ってきてくれていた。なのでクリスマスケーキだけはいつの年も祖父母宅に行けば食べる事ができた。

だけれども母の宗教はクリスマスもお正月もお祝い事は全て禁止、私のプレゼントも突然なくなった。楽しみがない。


そこで、アケミと思いついたのが、お互いの好きな人にクリスマスプレゼントを渡そう作戦!だ。バレンタインデーは受験前なので、もしかしたら渡す事ができないかもしれないからだ。

だけれど私はミッちゃんに嫌われている…避けられている、ずっとそう思っていた。

アケミは、ミッちゃん&岩田くんと中3で同じクラスになり、すぐに仲良くなって事あるごとに私に情報をくれた。
ミッちゃんは、元々私が受験しようと思っていた進学校への受験を決めていること、そしてアケミは私との事をそれとなく彼らに話していたらしい。例えば『こないだレナちゃんがウチに来た時にね〜』みたいな感じで、それとなく、レナちゃんは別に悪い子じゃないよ…的な意味合いだと思うが、私の肩をいつも持っていてくれた。なんて心強い友だ。


ミッちゃんといつもつるんでいた岩田くんは、背が高くて少しおっかない雰囲気で私はとてもじゃないが話しかける勇気がなかった。ミッちゃんも女子とほとんど口をきかないタイプだったので、岩田くん&ミッちゃんの2人組に正面きってフツーに話しかけるメンタルがあったのは、学年の女子の中でもおそらくアケミだけだったと思う。
アケミはクラスが離れてから一匹狼で、私以外誰とも深入りして仲良くしていなかったが、アケミからしたら私の中学にいる男子なんて怖くも何ともなかったんだろう。

『レナちゃん、ミッちゃんに渡せるように私が何とかするから次の日曜にプレゼント買いに行こ!』

『迷惑じゃないかな…』と不安がる私に、アケミは『大丈夫だって、私がうまく話しておくから。それに嫌われてなんかないよ!』と笑った。アケミは高校生の彼氏とは別れたらしく、ミッちゃんとつるんでいた岩田くんの事が気になっている様子だった。背が高くてちょっと大人びた雰囲気の岩田くんね…ヤンキーではないが、アケミの好きそうなタイプだ。
なるほど!アケミも私と一緒に渡せば、“ついでにアンタにもあげる″的な口実ができるんだろう。賢いな、でも感謝だ。よし、買いに行こう!

日曜、アケミと色んな店を回ったが、私は何をプレゼントしたらいいか分からなかった。もうバスケ部は引退してるし、NBAのグッズはどこに売ってるか知らないし、ミッちゃんの私服も知らない。ただアケミから、実はミッちゃんは最近スケボーをしているというような事を聞いて思いついた。ニット帽だ!冬だしそれにしよう!
なるべくオシャレっぽいのを探し回り、グレーのボンボンがついたメンズのニット帽を2500円も出して買った。クリスマスのラッピングもしてもらった。中学生にしては少し背伸びしたが、自分のお小遣いの範囲内だ。
アケミは岩田くんに手袋を買っていた。

終業式はちょうど12/24。午前中で終わって通知表もらってサッサと下校だ。


学校でクリスマスプレゼントを渡すという試みは初めてだった。通知表の中身は懇談で見ていたので、どうでもよかった。

それよりいつ渡すの?どこで?ソワソワして落ち着かないまま終業式が終わった。 


帰りの会の前、アケミが私のクラスまで来て、『ミッちゃんに、レナちゃんがクリスマスプレゼント渡したいって言ってるよって、さっき言ったよ!帰りの会終わったら、ウチのクラスまでコッソリきてね、1番後ろの席のカーテン辺りにいるから!』と耳元でささやかれ、私はビックリしたと同時に不安になった。

『ミッちゃん嫌がってなかった?』と恐る恐る聞くと、『ミッちゃんね、オレ、プレゼントとか何にも用意してないけど、いいの?って言ってたよ!レナちゃん大丈夫だってば!』とアケミが笑顔で肩をどついてきた。

き、嫌われてなかったんだ…(泣)

まだ何もしてないのに、涙が出そうになった。それに『オレ、プレゼント用意してないけどいいの?』って…そんな事言える人になってたんだ。知らなかった。ミッちゃん、受け取ってくれるんだ、嬉しい、もう泣きそう!

もう帰りの会がどうだったか、受験生なので冬休みの過ごし方がどうとか、担任の先生が話している言葉が頭に全く入らない。

トリプルゆうちゃん友達にも黙っていた。私とアケミしか知らない。
行動する時はいつも1人だ。もうきちんと自分で渡そう。2年のバレンタインは散々だったけれど、ミッちゃんに自分できちんと渡すのだ。

帰りの会が終わり、クラスをそっと抜け、皆が帰る廊下を逆方向に歩いて、アケミとミッちゃんたちが待つクラスまでひっそりと歩いて行った。教室を覗くと、ほとんどの生徒が帰って数名しか教室内にいない、敵はいないかメンツを確認した。大丈夫だ。
寒いのに後ろの席の窓が開いていてカーテンが膨らんでいる。アケミがコッチコッチと私を手招きする。

どうやら1番後ろのカーテンの中にミッちゃんを隠しているようだ。カーテンのすぐ側に岩田くんが腕を組んで立っている。やっぱり怖い。

アケミがニヤニヤ笑いながら岩田くんの側に立ち
『レナちゃん早く!ホラ!』と言って、ミッちゃんがいる膨らんだカーテンの中に私を放り込んだ。学校で、初めて2人きりになった。窓が全開で風が冷たいが、そのおかげでカーテンが膨らんでミッちゃんと2人きりになった。

久しぶりにミッちゃんの顔を正面からまじまじと見た。1年ぶりくらいだった。こんな穏やかな顔だったっけ?また無言になってしまった。

私はぶっきらぼうに包みを差し出して『あの、コレ…』しか言えなかった。ミッちゃんは少し照れくさそうに笑って、ぶっきらぼうに『ありがとう』と言って受け取ってくれた。


何も喋れない…普段あんなに誰とでも図々しく喋れるスピーカー女子の自分が、本当に好きな人を前にすると何も話せなくなるとは…1年生の時と何も変わっていなかった。
ミッちゃんは渡したプレゼントの包みをサッと自分の通学カバンに入れた。と同時に私は恥ずかしくてカーテンから1人飛び出した。

するとアケミと岩田くんがニヤニヤ2人で笑っていた。私は岩田くんにもひと言『ありがとう』と言った。岩田くんは腕組みしていた右手を挙げて首を振った。
まるで“わかってるよ、ノープロブレム“と言ってるように見えた。
岩田くんは想像以上に大人だった。

口から心臓が飛び出そうで、アケミを引っ張って教室を出て、2人で遠回りして色々話しながら帰った。途中の自販機でコーラを買って一気飲みした。

アレ?そう言えばアケミは岩田くんに、いつの間にプレゼント渡したのだろう…自分の事で頭がいっぱいで気がまわらなかった。すると
『実はねー、黙ってたんだけど、最近近所の公園で夕方1時間くらい会ってるんだー、今日も会う約束してるからその時渡す!』

さ、さすがだ…アケミの行動力は常に私の5段階くらい上をいく。全く気づかなかった。

アケミと岩田くんは正式には付き合っていないようだったが、夕方近所の公園で1時間くらい会っていたとは……やるなぁ!そこで私の事も話したりしてたんだろう、2人でタバコでも吸いながら…その光景を見なくても容易に想像できた。

2年になってからミッちゃんに明らかに避けられていた事には気づいていた。
でもアケミが転校してきて、3年でクラスは離れたが、アケミがきっと岩田くん&ミッちゃんのような少し近づきがたい男子ともすぐ仲良くなり、何となくだがアケミの普段の話しぶりから、レナっていうのは、そんなに思ってるほど“変なおしゃべりスピーカー女じゃない″事が伝わったのかもしれないと思った。
だって、あんなに避けられてたのに、今日のミッちゃんはキチンと私に向き合ってくれた。しかもほんのわずかではあるが、膨らんだカーテンの中で2人きりになってくれた。
岩田くんもそれを見守るように側に立っていてくれたじゃないか。涙が出てきた。全部アケミのおかげだ。彼女なしでは、私は嫌われたまま卒業式を迎えることになっていたはずだ。

私は気づかないうちに、アケミや岩田くんに助けられていたんだ。

クリスマスは終わり、年が変わっていよいよ3学期、1月の末から私立高校の受験が先に始まる。アケミのおかげで、3学期がとても楽しみになった。


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