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国語の教科書にあった昔好きだった文章を発掘した話

高校の国語の教科書に、当時とても心惹かれた文章があった。
その後、折に触れてその文章に心惹かれたことを思い出すのだが、詳しい内容を覚えてはおらず、ぼんやりとした記憶でしかなかった。

五重塔で奏でられた音楽はどこへ消えてしまうのか、という内容の幻想的な文章だった。

先日、奈良に旅行に行ったので、その時に撮った写真をインスタグラムに投稿しているのだが、noteでムービーを投稿した日の夜に、どの写真を投稿しようかと撮った写真を眺めていた時に、ふと目に止まったのが、長谷寺の五重塔の上部を撮ったものだった。

ムービーで私がかつて弾いた大好きなブラームスの間奏曲を懐かしく聴き、目に見えず形に残らない音楽というものに感傷的になっていた私は、この写真を見た瞬間、またあの文章のことを思い出した。

あれは本当はどんな文章だったのだろう。これまで何度も考えては消えていった思いが、今回はおそらくnoteを始めたということもあり、とても強くなった。

今、私たちはインターネットで検索すると様々な情報が手に入るようになったが、私の記憶「教科書に載っていた五重塔と消えた音楽にまつわる文章」から、その文章を探し出すことができるのだろうか。

手始めに、五重塔の屋根の上の輪の連なりについて調べると、あれは相輪と言うということがわかった。そして、その中の水煙という部分にいる天女が音楽を奏でていたということを思い出した。

次に、五重塔を調べていくと、薬師寺の東塔が三重塔であるが相輪上部の水煙に笛を吹く天人が描かれていることを見つけ、これは薬師寺の東塔で間違いないと思った。

そして、「薬師寺」「東塔」「水煙」などを検索していくと、同じようにこの文章をもう一度読みたくなった方のブログがヒットしたが、ここでは和辻哲郎「古都巡礼」かもしれないが、それ以上のことはわからないとあった。Amazonで調べてみると無料でダウンロードできたので、読んでみたがこのような文章はなく空振り。

しかしそこで、「飛天」というキーワードが出てきたので、それを加えて検索を続けると、別の方のブログがヒットした。そこから、その教科書の文章が福永武彦の「飛天」という文章だということがわかった。

やっとここまできた。「飛天」が収載されている本はどれだろう。「福永武彦」「飛天」ですぐにわかるかと思ったが、福永武彦という人はものすごい量の文章を書いた人のようで、そこからまた検索、検索、最後は福永武彦生誕100年記念企画電子全集というものの収録作品一覧から「飛天」を探し出すという荒技で、随筆集「別れの歌」の中に収められているのを見つけ出した。

さっそくAmazonで電子書籍を購入。「薬師寺東塔の美しさは今さら言うまでもない。」これだ。「即ち私がその時考えたものは、そして今も考えるのは、雲間に奏されていた笛の音は何処へ消えたかということである。」とうとう再会した。ありがとう、インターネット。

この文章を最後まで読み進めると、最後に書かれた時期が記されていたのだが、それが「昭和四十一年二月」であったことに少なからぬ縁を見つけた。この文章は、私がこの世に誕生した時に書かれたものだったのだ。


ここまで読んで下さって、ありがとうございました。


写真は長谷寺の五重塔の相輪