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チェンジザ・ワールド

その時、眼鏡の奥の部長の目が鋭く光った。

「バカヤロウ!だから必ず最終チェックをしろといつも言ってるだろ!あん?チェックしただと?チェックしたのに金額が一桁違うことを見落とすヤツがいるか!お前の目は腐ってるのか!」

部長の怒号が社内に響き渡りフロア中の視線が一斉に俺に向けられる。俺は苦虫を噛み潰したような顔で俯いていた。
ニヤニヤしてこっちを見ている同期の山下の眼鏡面をブン殴ってやりたい気分だった。

お客さんに提出した見積金額をどうやら一桁間違えていたようだった。部長に報告すると烈火の如く怒られた。
謝ってるんだからそんなに怒らなくてもいいのに。
それに俺の視力は両目とも2.0だ。腐るどころか眼鏡もいらないくらいだ。

でも確か先月も同じミスで怒られたような気がする。先々月もだったかな。
まぁでも人はミスする生き物だ。くよくよしたって仕方ない。
次から気をつければ大丈夫さ。

そんな事を夕飯の鍋を食べながら彼女に話した。
彼女は煙で眼鏡を曇らせながらモグモグと口を動かしていた。

「だから部長はちょっと俺に対して厳しすぎると思わない?」

「全然思わない」

「だよね!これはもうパワハラだよね!…え?思わない?」

「うん。部長さんが怒るのも無理はないと思う。だって何度も同じミスしてるんでしょ?部長さんにしたらいい加減にして欲しいと思うんじゃないかな」

彼女に優しく慰めもらおう思っていた俺の目論みは脆くも崩れ去った。
彼女のド正論に何も言えない。

「そんなことよりさ。君は二人の将来についてどう考えてるの?」

「ど、どうって…?」

「だから結婚とか全く考えてないわけ?付き合ってもう5年だよ」

彼女は眼鏡をキラリと光らせて俺を見つめる。俺は目を泳がせながらしどろもどろに答える。

「そそそれはもちろん考えてるさ!いいいつかは結婚したいって思ってるよ!ほほ本当だよ!」

「いつかって具体的にいつ?うちの両親にも挨拶してくれるの?結婚資金は貯めてあるの?」

「いや、それはこれからおいおいと…」

彼女は深いため息をついてクイと眼鏡を上げると呆れた顔で話を続けた。

「君は本当に自分のことだけ。私のことなんて全く見てないし見ようともしていない。仕事だってそう。自分のミスを棚に上げて部長さんの悪口ばっかり。部長さんや同僚さんたちのことを見向きもしない。もっと周りを見た方が良いと思うよ。それとも視力が悪くて見えないのかな?眼鏡でもかけたら?」

彼女はそう言うと箸を置いてさっさと部屋を出て行った。俺はしめじを箸で掴んだまま呆然としていた。


昨日のことを思うと会社には行きたくなかったがそういう訳にも行かず俺は通勤電車に揺られていた。
駅に着いて改札を出ると目の前でお婆さんがキョロキョロと辺りを見回していた。
道にでも迷っているんだろうか。手元にあるメモと周りの景色を見比べている。

手元に視線を落とした拍子にかけていた眼鏡がスルリと下に落ちる。
お婆さんはすぐにしゃがみ込み慌てて眼鏡を探している。
眼鏡はお婆さんのすぐ右斜め前にあるのだが全く気付いてない様子だった。

仕方ないな、拾ってやるかそう思った時だった。
1人のサラリーマンが颯爽と俺の横を通り過ぎるとサッと眼鏡を拾ってお婆さんに声をかけた。

「大丈夫ですか?どこかお探しでしたか?」

サラリーマンはお婆さんに眼鏡を手渡して、キビキビと道案内をしている。
お婆さんはサラリーマンに何度も頭を下げて駅とは逆方向へ歩いて行った。
サラリーマンはしばらくお婆さんを見送るとクルリとこちらを振り向いた。

「あなたは目の前で困っている人がいるのに助けないんですか?それとも見えてないんですか?眼鏡をされた方が良いですよ」

かけている黒縁眼鏡を指差して俺にそう言うと駅に向かって歩いていった。


どいつもこいつも眼鏡、眼鏡うるさいな。
だから俺は視力2.0だっつーの!眼鏡が無くてもハッキリと見えてるんだよ!
ハッキリと見えている?本当にそうだろうか。
部長のこと、彼女のこと、そしてさっきのお婆さん。
俺は本当に見ていたのかな、いや全然見ようとしていなかった。
自分のことばかりで周りのことなんて見えてなかった。

いつも部長は俺をフォローをしてくれた。彼女の優しさに甘えてばっかりだったな。お婆さんとても慌ててたな。リーマンの眼鏡カッコよかったな。


会社へ向かう途中にある雑貨屋がシャッターを開けるところだった。
店先に伊達メガネが1,000円で売られていた。
俺は眼鏡を一つ手に取り「これ買えますか?」と店員さんに声をかけた。


「おはようございます!」

俺はいつもの倍以上に大きな声で挨拶をする。
山下は俺を見て「なんだイメチェンか?」と声をかけてくる。
まあな、と適当に答えてすぐに部長の席へ向かった。

「部長、昨日は…いやこれまで本当にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!今後このようなことがないように一生懸命頑張ります!」

部長は一瞬驚いた表情を見せたがすぐにいつもの表情に戻る

「なんだエイプリルフールか何かか?どういう風の吹き回しか分からんがイメチェンしただけでは信用できないぞ」

「承知しております!」

俺は真っ直ぐに部長を見つめた。
部長はニヤリと笑って席を立った。

「よし。着いてこい。忙しくなるぞ」

そう言って歩き出した。
俺は右手で眼鏡を直して部長の後に続いた。


◆◆◆◆◆◆◆


というわけで、皆さん眼鏡してますか?

こんにちは、最近曇らない眼鏡を新調したコッシーです。


さて、冒頭から何の話やねんと混乱されている方も多いと思います。
一体どういうことかと申しますと、今年もあの伝説の企画がやってくるのです。
その企画とはこちら。

4月1日にnoteのアイコンを眼鏡オジサンに変えるというだけの企画です。
え?それに何の意味があるの?と思った方に声を大にして言いたい。

意味なんてないんだよ!!

そう、意味なんて全くありません。
でも僕はあえて企画への参加を呼びかけたい。
アイコンを眼鏡オジサンに変えることで変わる世界がきっとある。
いつも怒ってばかりの部長が、呆れられてしまった彼女が、そして何より自分自身が…!
眼鏡にはそれだけの力があると思うのです!

何を言っているのか訳が分からないと思いますが、大丈夫です。僕も訳がわかっておりません!
とにかくです!4月1日、みんなでアイコンを変えようじゃありませんか。
きっと楽しい時間が待っています。

詳しくはリンク先のくまさんの記事を読んでください。

4月1日。
あなたも眼鏡オジサンになって世界を変えてみませんか。


それではまた。

コッシー


※アヤチンコフが可愛すぎた


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