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67歳の男性。酪酎状態のため心配した家族に付き添われて来院した。若い頃から晩酌が習慣であった。1年前の定年退職後から飲酒量が多くなり、最近、食事を食べずに朝から夜まで飲酒している。家族によると、酔っているとき手や指の振えが止まるという。また、飲酒を控えるように言っても、隠れて酒を買いに行って飲んでしまうという。身長173cm、体重51kg。体温36.8℃。脈拍72/分、整。血圧108/78mmHg。呼吸数18/分。SpO298%(roomair)。アルコール臭があるが、会話は可能である。眼瞼結膜は軽度貧血様である。眼球結膜に黄染を認めるが、眼球運動は正常である。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。断酒と検査目的で入院することとなった。
入院後に投与すべき薬剤はどれか。
a. 抗酒薬
b. レボドパ〈L-dopa〉
c. ベンゾジアゼピン系薬剤
d. アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
e. 選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉

第118回医師国家試験

正解:c

解説

a. 抗酒薬(ジスルフィラム)は、アルコールに対する忌避反応を引き起こすことでアルコール依存症の治療に用いられるが、本症例のように断酒直後の急性期には投与すべきではない。
b. レボドパはパーキンソン病の治療薬であり、本症例での適応はない。
c. 本症例は67歳男性のアルコール依存症の症例である。長年の多量飲酒歴があり、断酒と検査目的で入院となった。アルコール依存症患者では、断酒後にせん妄、振戦、痙攣などのアルコール離脱症状を呈することがある。これらの症状に対しては、ベンゾジアゼピン系薬剤が第一選択となる。ベンゾジアゼピン系薬剤は抗不安作用や抗痙攣作用を有し、アルコール離脱症状の予防と治療に有効である。本症例で入院後に投与すべき薬剤として最も適切である。
d. アセチルコリンエステラーゼ阻害薬はアルツハイマー型認知症の治療薬であり、本症例での適応はない。
e. SSRIはうつ病や不安障害の治療薬であり、本症例での適応はない。ただし、アルコール依存症患者ではうつ病の合併が多く、断酒後の回復期にはSSRIが用いられることがある。

考察

アルコール依存症は、アルコールの過剰摂取により身体的・精神的・社会的な問題を生じているにもかかわらず、アルコールを止められない状態である。遺伝的素因や環境的要因が関与すると考えられている。
アルコール依存症患者では、断酒後にアルコール離脱症状を呈することがある。軽症では不眠、振戦、発汗などを呈し、重症ではせん妄、痙攣、幻覚などを呈する。これらの症状は、アルコールの中枢神経抑制作用に対する反跳現象として生じる。
アルコール離脱症状の治療には、ベンゾジアゼピン系薬剤が第一選択となる。ジアゼパムやロラゼパムなどが用いられ、症状に応じて適宜増減する。また、ビタミンB1欠乏によるウェルニッケ脳症の予防として、ビタミンB1の補充も重要である。
長期的なアルコール依存症の治療には、断酒の継続が不可欠である。断酒後の再飲酒防止には、抗酒薬(ジスルフィラム)や抗酒剤(アカンプロサート)が用いられる。また、認知行動療法や自助グループ(AAなど)への参加も有効である。
アルコール依存症は、身体的・精神的・社会的な問題を引き起こす重大な疾患である。早期発見・早期介入により、合併症の予防と社会復帰を図ることが重要である。アルコール離脱症状の適切なコントロールと、長期的な断酒の支援が必要不可欠である。精神科、内科、社会福祉士などの多職種連携が肝要と考えられる。

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