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『私の生活改善運動』安達茉莉子

書店へ行き、ぱっと目について手に取る本は独立系出版社のものが多い。タイトルが流行りのフレーズではなく、決してベストセラーにはならなさそうだけど、一部の読者には確実に響くもの。そう、大手出版社が忘れてしまったかのような本たち。
ZINEとしてシリーズ累計5000部を記録したエッセイをまとめたこの本もそのひとつ。

Amazonの紹介リンクを貼ったけど、表紙はもう少しベージュがかっていて、黄朽葉色(https://www.colordic.org/colorsample/2174#)の帯には

「これでいいや」で選ばないこと。
「実は好きじゃない」を放置しないこと。

とある。少しざらついた表紙の紙質が手馴染みもよく、心身不調から起き上がるきっかけになってくれそう…と読み始めた。

著者の安達茉莉子さんはコロナの影響で突如勤め先がなくなり、妹さんご夫婦宅の居候を経て、2021年から新しい土地で新しい生活をはじめることになった。そのとき絶対に譲りたくないと思ったのは「そこが幸福が生まれる場所となるかどうか」ということだった。

安達さんは自分が心地よいと思うほうに生活を改善し始める。部屋探し、本棚選び、食事、服……インスタで見るグレージュおしゃれ系でもなく、断捨離してスッキリしたわけでもない(というか、この本には1枚も写真はない)。読み進めていくと、とても不器用で生真面目、自分を大切にするより他を優先してきた人なんだなと思う。

仕事に忙殺されて、食事を「タンパク質」「炭水化物」「カロリー」と言い表すこと、適当なありあわせの服で過ごすことは「魂の肌荒れ」だというところは、赤べこ並みにうなずいてしまった。たしかにカロリーだけ摂っておけばいいだろうとゼリー飲料一択だった時期がある。服も、組み合わせを考えるのがメンドウだから、ワンピースにジャケットをひっかけるスタイルだったし。

改善運動の結果、安達さんは幸せな場所と生活を手に入れるのだけれど、あたらしいステージを予感させる終わり方になっている。ZINEでは続きがあるのだろうか。


引用されていた言葉に惹かれて、参考文献に挙げられていた3冊を読んでみたい。

  • 食べたくなる本(三浦哲哉)

  • てつがきを着て、まちを歩こう――ファッション考現学(鷲田清一)

  • 庭仕事の神髄――老い・病・トラウマ・孤独を癒す庭(スー・スチュワート・スミス)

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