4月1日、私はバイト先から逃げ出した。
4月1日、私はバイト先から逃げ出した。バイト初日の出来事である。
詳しい職種は伏せるが、いわゆるお菓子の製造バイトだった。
正直お菓子作りなんてするような人種でもないのに、ただなんとなく受けただけのバイトである。バイト先の求人文面、それからきれいな公式ホームページに釣られてとりあえず受けて試用期間2日を貰った。
前の職場が陰湿なモラハラブラック職場だったのもあったので、藁にも縋る思いでもあったのだ。
だがしかし、待っていたのはもっと壮絶な現場だった。
働いている人のミスを大きな声で怒鳴り散らかす光景を見たのだ。何度も何度も。「仕事ができないなら帰れ」だのなんだのと。叱咤された女性は泣いていた。もはやパワハラといっても差し支えないだろう。
確かにミスは良くない。工場だし、時間との戦いだ。焦るのもわかる。だけど、そこまで怒鳴る必要があるか?というほどの執拗な叱咤に私はハッキリ言ってドン引きしてしまった。
工場って皆こうなのか?とショックを受けたし、なにより、人間の理不尽な残忍さにショックを覚えた。
昼になって工場の職員で集まって食事をした時、適当に買ってきた菓子パンはほとんど喉を通らなかった。
すでに頭の中には「逃げよう」という気持ちしかなかった。
逃亡しよう。こんな、こんなありきたりに理不尽な言葉の暴力を受け続けるような場所にいてはいけない。身体が、他者を拒絶していた。
それからトイレに行くと言って席を外し、トイレで吐いたふりをしてから仮病を決め込んで「帰ります」と報告すると、とっとと工場のある場所から走り去った。
怒鳴った人にはまず挨拶をしなかった。顔を見たくなかったのだ。言葉であれ、暴力を振るう人のことは嫌いだ。
私は絶望してしまった。こんなに酷い世界があることに。もちろん、パワハラやモラハラが横行する世の中を知らないわけではない。私はディズニープリンセスじゃないから。
だけど、だ。されとて、私は信じていた。何を……と言われると、人間の根本的な部分の寛容さを。
でもそんなことなかった。言葉が通じないとか何だとかで、人は勝手に人を見下す。そういうのがありありとわかってしまって、ああやっぱり人間なんて生きていちゃいけないんだなと感じた。
私、昔からずっと人類なんか滅亡してほしいと思ってた。生きててもしょうがないから。どうせ全員悪い人なんだから。
今回裸足で逃げ出して、寝込んで、更にその思いが強まった。やっぱり、人間なんて嫌いだと。もう二度と、あんな光景は見たくないと。全員等しく滅んでいくべきだなと。
ああどうか、皆消えていなくなりますように。救済なんてされませんように。滅んでしまいますように。
願いながら、暗闇に満ちた部屋で夜を過ごす。
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