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賢いカラスに完敗した話(997文字)

「洗剤がない。炊事場に袋に入れたまま置いておいたのに。知らない?」
「まだ洗い物も出ていないのに。洗剤は使ってないし、触ってもいない。」

キャンプ場は独占だったから他には誰もいないし、翌日の朝までは気楽に炊事場も使えるわけで、洗剤なんかも洗い場に置きっぱなしにしていた。誰もいないのになくなるわけがない。置いたはずの食器用洗剤がないなんて…オバケのしわざ?まさかね。そんな意味のない心霊現象なんてないでしょ。

「もしかしたら!さっき、カラスがあの辺で白い袋を咥えて飛んで行ったよ。」

子どもからの有力情報を基に探しに行ってみると、炊事場から数メートル離れたところに白い袋が落ちていた。そして中には探していた洗剤が横たわっていた。美味しい食事をゲットしたと勘違いして持って行ったはいいけれど、中を覗いてカラスはさぞかしがっかりしたことと思う。残念!カラスに糠喜びさせてしまったね。

そんなことがあった翌朝、キャンプ場の前の川で、水に流されないように固定して飲み物などを冷やしておいて出かけた。前夜に食べきれなかった厚切りベーコンも一緒に。2㎝×2㎝×5㎝くらいの棒状のベーコン5本。とてもジューシーで美味しそうに見える。夜は、そのベーコンを串に刺して直火で炙って食べようと思っていた。パウチで真空になっていたけれど、念のためビニール袋に入れて川の水で冷やしておけばいたむこともなかろうという算段だった。カラスは食いしん坊で賢くて器用だということをすっかり忘れていた。

夕方、キャンプ場に戻って川へ行ってみると、ベーコンの入った袋はきゅっと固く結ばれていたままなのに、中のパウチは引き裂かれていた。そして肝心のベーコンは2本しかない。一瞬、何が起こったか分からなかったが、そのすぐ近くにテントを張っていたグループの女性が種明かしをしてくれた。

ふと見ると、カラスが川から何か大きなウインナーのように見えるものを口バシに咥えて飛んで行った…と。彼女が残されたベーコンをパウチごと袋に入れ直し、袋のくちを結んで再び川の水につけておいてくれたのだと言う。

万事休す。残った2本だって、突かれているだろうから食べることは出来ない。今晩の大事な食材が台無しになった。楽しみにしていたのに。何故、前日の洗剤事件に学ばなかったのか、と悔やまれた。

次回のキャンプがいつになるかはわからないけれど、次こそはカラスに負けまいと誓った。

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