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吹田市立小学校でのいじめ事件で第三者委員会の報告書にない2つのこと

 吹田市の小学校で2015年から約1年半にわたり、児童がいじめを受けていたことが報道されました。

小学校が「いじめ傍観」 1年半放置、女児が視力障害に:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASM6D3QJWM6DPPTB004.html
 大阪府吹田市の小学校に通う女児が、2015年秋から17年春、同級生からいじめを受け、骨折したりストレスから目が見えにくくなったりしたと12日、市の調査委員会が発表した。女児は校内アンケートにいじめられていると訴えたが、学校は約1年半にわたって放置。保護者が被害を訴えた後も、市教委は第三者による調査を検討しなかった。市教委は同日、責任を認め、謝罪した。
 調査委によると、女児は現在5年生。1年生の秋から3年生になる前の春にかけ、同級生の男児5人からボールを再三ぶつけられたり、階段の踊り場で押されたりした。一部の男児は女児の家に押し入って2階まで追いかけたり、トイレに閉じ込めたりした。
 女児は16年3月に左足を骨折し、17年3月には目が見えにくくなり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断された。調査委はいずれも「いじめによるもの」と認定した。
 16年、女児は学校生活を尋ねるアンケートに男児1人の名前を挙げて「けられた。なぐられた。おされた」と記したが、担任教員は深刻ないじめと思わず、女児への聞き取りや男児への指導をせず、管理職にも報告しなかった。
 保護者は17年3月、学校側に被害を訴えたが、担任から「いじめは知らなかった」と説明された。第三者委員会の設置も求めたが、学校が主体となって調べることが全容解明につながるとして、市教委は約4カ月にわたって放置。7月に教育委員に報告したところ、設置を促されたという。
 いじめ防止対策推進法は、児童の生命、心身に重大な被害が生じたケースを「重大事態」と定め、学校の設置者による調査を義務づけている。調査委は「市教委は調査組織を立ち上げる義務を負っていたのに、検討を怠った」と結論づけた。
 調査委員長の上将倫(かみまさのり)弁護士は「学校が組織的に対応していれば、いじめはエスカレートしなかった」と指摘。市教委について「女児の心身の苦痛に寄り添う姿勢がなく、苦しみを真に理解できていたか甚だ疑問」と強く非難した。市教委の原田勝教育長は記者会見し、当時の対応について「間違っていた」と責任を認め、近く関係者を処分する方針を示した。
 保護者は大阪府警に被害届を提出したといい、「学校が放置し、傍観者となったことでいじめがエスカレートしていった。いじめは絶対に起こってほしくないと強く願います」とのコメントを発表。代理人弁護士によると、損害賠償を求める訴訟も視野に検討するという。(室矢英樹)

 記事を読んで、「被害児童と保護者がここまで動かないと対応されなかったなんてありえない!」と声に出してしまいました。

 1年半にわたり誰にも相談できず、いじめに耐え続けるしかなかった被害生徒のつらさは察するに余りありますし、被害児童の保護者の方の「なぜもっと早く気付いてあげられなかったのか」との悔しさを思うとつらくなります。
 そして、もっと早く対応できていれば、5人の生徒をここまで深刻ないじめの加害者にすることもなかったと思えます。

 吹田市いじめに係る重大事態調査委員会(第三者委員会)の報告書(以下「報告書」)は、学校の組織的対応の不備を指摘し、「いじめやその後の対応が、被害児童及びその保護者にとってどれほどの苦しみであったか、市教育委員会において真に理解できていたのか甚だ疑問である」と厳しく批判していますが、そのとおりです。

 事件の検証や再発防止の提案は、「報告書」に掲載されていますので省きますが、ここでは「報告書」に書かれていない二つの点を述べたいと思います。

①第三者委員会設置に「教育委員」が果たした役割

 教育委員会には、職員として働く事務局と首長から任命される5人の教育委員がいます。前者は常勤ですが、後者は教育長を除いて非常勤の民間人で、教育行政に関わる議案を合議制で議論・決定できます。

 「報告書」によると、保護者から要望があった2017年7月27日に「市教育委員会指導室は、教育委員との協議において調査の進捗状況を報告したところ、教育委員から第三者委員会の設置を検討する必要があるとの助言があった。同年8月24日、教育委員との協議で、第三者委員会を設置する方針が決まり、同月29日、市長にそれが報告された」とあります。

 事務局から教育委員への報告そのものが遅きに失していますが、委員さんたちの意見によって検討が開始され、第三者委員会の設置へとすすんだことがわかります。

 戦後すぐの教育委員は、教育は政治から独立したものであるという考え方から議員と同じように選挙で選ばれる公選制で、予算案や条例案の提案権もありました。それが首長による任命制となり、2013年に教育委員会制度が改定されてからは首長など政治家の考えを教育行政に反映させることが強まっています。
 「教育委員は事務局の提案を承認しているだけ」「形骸化している」と言われることもありますが、それでもこの事例を見ると教育委員が独立した立場を持っていることで大事な役割を果たしていることがうかがえます。

②子どものSOSを学校がつかむために大阪府・吹田市は教育条件整備を

 いじめへの対応を学校でまず行うのは先生です。ここで正しく対応できるかどうかが、重大事態を回避することにつながります。「報告書」は、「教職員らが『いじめ認知センサー』を身につけることがポイント」として「教職員研修は…各学校で実施されるべき」と提案しています。
 研修の必要性は否定しませんが、ただでさえ学校の先生は日常業務に加え、各種の研修だらけで多忙化と長時間労働が社会問題になっています。毎日新聞のヒアリング調査によると、現役教師の7割がいじめへの対応に「時間が足りない」と感じている実態があります(2012年11月21日記事)。

 国が教育条件整備をすすめない中で、多くの都道府県が先生の負担を減らし、一人ひとりの子どもに目がゆきとどくように独自の少人数学級を実施していますが、大阪府は独自実施をしていません(独自実施をしていないのは、2019年時点で全国で大阪、神奈川、広島、福岡、熊本だけ)。
 国政や大阪府政の問題が大きいのですが、このような中でも近隣の高槻市は、市独自に小3~小6まで35人以下学級を実施。寝屋川市が2019年4月からこれまでの小3に加えて、新たに市独自で小4の35人以下学級を実現しています。

 少人数学級にすれば何もかもが解決するわけではないと考えますが、少なくとも多忙すぎる業務の見直しとともに、子どものSOSを掴みやすくするために吹田市として独自の少人数学級など教育条件整備にとりくんでほしいと願います。

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