【読書感想文】空ばかり見ていた
彼女の冬の読書
①読書の風景
吉田篤弘さんの短編集「空ばかり見ていた」にある一遍、「彼女の冬の読書」。
手帳屋に勤めるエリアシと、その幼馴染のアヤトリの、ある冬の夜の物語。
アヤトリのように生きていくことに憧れている。
彼女の季節の乗りこなし方、読書への向き合い方が素晴らしい。
秋の終わりに好きなだけ本を買い込んで、冬眠状態にもぐりこむ。
この一節に強く心をつかまれた。
それが幸せだと感じたし、それだけでいいのだと思えた。
好きなだけ、好きなものを買い込んで、安心できる自分の部屋にもぐりこむ。
ああ、すてきだなぁ、それができたらしあわせだなぁ、としみじみ感じる。
②食事の風景
吉田篤弘さんの小説で心つかまれるシーンのもう一つは、「食事」や「食べ物が描写された」シーンだ。
夜のトースト…
大好きなブルーベリージャムを塗って食べたい。
結局、エリアシはアヤトリの部屋のジャムの瓶のフタを開けられず、二人は真夜中に馴染みのステーキハウス「ライオン」へ繰り出した。
そこでもまた、美味しそうな食べ物の描写が続く。
アヤトリとエリアシはだけでなく、わたしも、きっと多くの人も、夜のフタが開いたら何が見えるのだろう、と思っている。
ジャムのフタが開かないように、夜もフタが閉まったように明けない。
どうしたんだろう。
どうなるんだろう。
自分も、みんなも。
日常は続いていく
吉田篤弘さんの小説は、大袈裟なことも有り得ないような魔法も起こらない。
今まで続いてきた日常は、物語が終わってからも繋がっていく。
特別なことが起こらなくても、
大問題など発生しなくても、
その解決策など模索されなくても、
日常がそのまま続いていくのだ。
でも、今までとは少し違うあたたかい何かを胸に抱く。
今まで通りに日々は続くけれど、今までとは少し違う何かを見つけられる。
小説の中の登場人物たちの人生も、わたしの人生も、
少しずつ形を変えながら続いていく。
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