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3. Naoki Part 3|読む人の運命を加速させる恋愛小説

最初のお話👇

前回のお話👇



私以上に私のことを真剣に考えてくれる大切な友だち———

それは、どういう意味なんだろう。

とにかく沙織さんは、友利花さんのことを大切に思っているに違いない。とても真剣に、友利花さんの幸せを考えている。

ボクは斜め向かいの席で後輩たちと話す沙織さんを改めて視界の中に捉える。

この人はどこからどう見ても「看護師をしている女性は気が強い」に当てはまる。友利花さんとは雰囲気が違う。強さのようなものが感じられる。必要であれば全く動じずに名上の人ですら叱り飛ばせそうな、そんな雰囲気・・・

沙織さんは会話に夢中になっているようで、どことなくボクと友利花さんの様子を窺っているようにも思えた。

きっとボクが、友利花さんにふさわしい男かどうかを判断しようとしているはずだ。それは自分の彼氏選び以上にとても真剣に。

ボクは沙織さんに、合格をもらえるのだろうか?

「直樹さん?」友利花さんの声がした。
「え?ああ、ごめんごめん。ちょっとボーッとしちゃってた・・・」
「はは、大丈夫です」また優しい笑顔。友利花さんは何でも許してくれそうな雰囲気がある。この子が怒ることなんてあるのだろうか。

「あなたは本当にマイペースだから・・・」ボクはこう言う母の声をすぐさま思い出せる。頭にこびりつくほど何度も言われた。

「直樹、聞いてる!?」ボクを呼ぶ姉の声もよく覚えている。

でもボクのマイペースは直らなかった。
直らなかった、らしい。
らしいと言うのは、ボクは自分が自分でマイペースかどうかわからないからだ。
それがマイペースってことなのかな・・・

テキパキした母と姉に囲まれてボクは育った。至って平凡なサラリーマン家庭の末っ子として。父はたくさん話すようなタイプではなかったけどとても穏やかな人で、両親が喧嘩のようなことをしているのをボクは見たことがない。

ボクはそんな家族が大好きだった。今もたまに実家には顔を出す。居心地がいいからつい帰りたくなってしまう。

「いつお嫁さんを紹介してくれるの?」帰るたびに母はボクにそう聞く。
ボクは「そのうちかな」と答える。
それを聞いた母はまた「あなたは本当にマイペースなんだから・・・」と言う。でもそれは、息子が小さい頃から変わらないことを少しだけ喜んでいるようにも見えた。

何度も聞かれるから適当な返事しかしないけど、そうした母の気遣いも別に嫌な気持ちはしない。母も別にボクを焦らせるようなことは言わない。(焦らせても仕方ないと思っているのかもしれない)本当の意味でボクの幸せを願ってくれている。それが自然と感じられる。そんな母だ。
そしてそれは、父も同じ。

ボクも将来、自分の家族のような暖かい家庭を作れたらいいなと思っている。

「友利花さん、良かったらLINE交換しない?」飲み会の終わりが近づく雰囲気を感じ取って、ボクは聞いた。
「もちろんいいですよ」友利花さんはまた、何もかも許してくれそうな笑顔でそう答えた。

友利花さんとLINEを交換できるのは素直に嬉しい。
友利花さんが画面に表示させたQRコードを読み込みながら、ボクは友利花さんの香りに包まれていた。

友利花さんとこうして近づくと、少し、ドキドキしてしまう・・・

ボクは恋愛経験が豊富とは言えないかもしれない。でもそれなりには経験してきたつもりだ。過去付き合った女性は二桁はいないにしても5人か6人・・・。それなりに長い付き合いも何度かあった。

でもボクは、友利花さんに近づくだけで、こんなにもドキドキしてしまう・・・

大人の男性としての魅力・・・

ボクはまた、後輩の言葉を思い出す。

こうして友利花さんとLINEでやりとりが始まれば、少なくともスタートラインには立てたのかもしれない。これからは時間をかけて、お互いのことを知っていけたらいい。焦る必要はない。お互い納得いくまで、時間をかければいい。

「これ、富士山ですか?」ボクのLINEアイコンを見て友利花さんが聞く。
「そうだよ!この前の夏に登ったんだ。とっても良かったよ」ボクは少しばかり興奮しながら言った。それぐらい富士山は素晴らしかった。
「そうなんですね」そんなボクの様子を興味深げに見つめながら、また優しい声で友利花さんは言った。
「友利花さんも今度一緒に登る?」勢い任せにボクは聞いた。
「あ、それは大丈夫です」
「・・・、ハハハハハッ」ボクは爆笑してしまった。優しい雰囲気から一転、申し出をキッパリと断る友利花さんが何だか可笑しくて。
「えー、なんでそんなに笑うんですか?」友利花さんは本当に不思議そうに聞く。この感じを自然とやっちゃう人なんだ。なおさら可笑しい。
「ごめん、ごめん」ボクは笑いながら返す。「なんだか友利花さん、すごい面白いから」
「そうですか?」友利花さんは少し笑い、美しい姿勢を崩さずにまたゆっくりとお酒を口に運んだ。友利花さんはもうこのピーチウーロンで今日の飲み会は終えるつもりなんだろう。
席を一つ開けたその隣で、沙織さんと後輩は最後の一杯をタブレットで注文していた。

友利花さん。
この人が隣で、ボクの話を優しく聞いてくれる。そしてこんな風に笑い合える。
そんな未来が待っているなら、ボクは幸せかもしれない。

「たまにLINEしても、いいよね?」ボクは聞いた。もちろんここで断られることはないだろう。でも一応聞いておきたかった。
「もちろんです!いつでもしてください。仕事で返せない時もあるかもしれないけど・・・」
「もちろん返せる時に返してくれたらいいから。ありがとう」
「はい」

2時間程度の飲み会は無事お開きになった。
ボクは友利花さんと色んな話をした。お互い笑顔も多く、LINEも交換できた。

よかった。
後輩が言う「大人の男性としての魅力」をアピールできたのかはわからないけど、とりあえずよかった。


友利花さんと沙織さんとは店の前で別れた。
友利花さんは最後ボクに向かって手を振ってくれた。あの優しい表情で。

2人は仲良さげに話しながら帰っていった。ボクはそんな友利花さんの後ろ姿と横顔をしばらく見つめていた。

「どうでした?」その様子を見て、ニヤニヤしながら後輩が聞く。
ボクは平静を装って「楽しかったよ。企画ありがとね」と言った。

ボクと後輩、そして後輩の彼女はしばらく3人で歩き、2人は地下鉄に乗ると言って違う方面へと向かった。
「じゃ先輩、また明日職場で。お疲れ様でーす」ボクは無言で手を上げ、それに応えた。
そして2人は今まで我慢していたかのようにサッと手を繋ぎ、去っていった。

ボクは来年もう35歳・・・。40歳まであと5年しかない・・・

焦ってはない。タイミングが来たら、きっといい人と出会えるだろう。

そしてそれは今日、現実になったのかもしれない。

ボクは1人、JRの駅まで歩きながらスマホを取り出す。
LINEは来ていない。

きっと今、友利花さんは沙織さんと今日の反省会をしているに違いない。それはボクという年上男性の魅力を評価する場なのだろう。
そう思うと、飲み会の間ずっと忘れていた緊張が、今になって少しばかりよみがえってきた。

「今日はありがとう。友利花さんとこうして出会えてよかったよ!これからよろしくね」
ボクはそう友利花さんにLINEをして、スマホをポケットにしまった。

東京の夜。顔を上げると、多くのカップルが手を繋ぎ歩いている。

頬に当たる少し冷えた風が、冬の訪れを予告している。ボクはその訪れが、どこか楽しみだった。



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