Hiroyuki KONNO

「元気で行こう。絶望するな。では、失敬。」

Hiroyuki KONNO

「元気で行こう。絶望するな。では、失敬。」

最近の記事

『存在のすべてを』塩田武士

1991年冬、厚木市で男子少年が誘拐された翌日に、横浜市で男児が誘拐された、異例の二児同時誘拐事件。前者の少年は間もなく発見されたものの、後者は身代金の受け渡しに失敗し、しかし約3年後にその男児はふらりと戻って来ました。それから30年を経た今、あの被害男児は今や、気鋭の写実画家となっていたのです。当時事件を取材していた新聞記者は、謎だらけのこの事件を再検証すべく、関係者を訪ね歩くに従い、予想外の事実が明るみに出て来ます。 非常に面白いストーリーでした。登場人物が多くやや消化

    • 『チューリップ・ブック』國重正昭、他

      チューリップの栽培の歴史や文化への影響を網羅的に盛り込んだ、意欲的な一冊です。5つの論考による多様な切り口から、人々を魅了し翻弄してきたチューリップの知られざる全貌を教えてくれます。 「チューリップの品種の歴史」(國重正昭)では、とかくオランダのイメージがあるチューリップが、原種は中央アジアで自生していたもので、トルコで少しずつ品種改良がなされ、それが16世紀に欧州に持ち込まれてからオランダで劇的に品種改良が行われて今に続いている、と言う歴史が紐解かれます。驚くべきは、昔の

      • 『続きと始まり』柴崎友香

        2020年3月から2022年2月まで、すなわち新型コロナウイルスが最大に蔓延していた時期。衣料品や雑貨の卸業者で働く女性、居酒屋の料理人として働く男性、フリーランスの写真家として働く女性、この互いに無関係な3人の主人公の視点から、あの特異な歳月の模様を浮かび上がらせます。コロナ禍の影響は、当然ながら主人公たちにも直接降り掛かり、彼ら彼女らはそれぞれの容易でない人生の選択を迫られます。そこに、未だに終わったとは言えない東日本大震災の記憶が、重なってなって見えて来るのです。 こ

        • 『夜明けのはざま』町田そのこ

          個人経営の小さな葬儀場で働く社員や関わりのある人々の姿を通じて、我々の思い込みや固定観念の根深さを実感させてくれる物語です。 自殺した親友の葬儀を執り仕切ることになった女性、あまりにも頼りにできない夫を苛み続けた結果夫に去られた女性、中学時代に苛烈に虐められた相手と葬儀場で再び対峙する羽目になった男性、ボランティア的な仕事に勤しむ彼を見限って無難な男と結婚した筈の女性、そして葬儀社を営んでいながら死なるものへの恐怖から逃れられない男性、等々。登場人物たちはそれぞれ根深い負の

        『存在のすべてを』塩田武士

          バッハ・コレギウム・ジャパン 第161回定期演奏会≪コラール・カンタータ300年①≫

          #BCJ の定演、今回からJ.S.バッハの所謂コラール・カンタータ年巻のシリーズが始まります。 開演15分前に音楽監督の #鈴木雅明 によるプレトークがありました。欧州ツアー中に痛めた左腕は快復なさったようで、一安心。#コラールカンタータ は、バッハが1724年に作曲・演奏に着手してから今年で丁度300年で、その1724年は1524年にルターが讃美歌集を出してから200年の記念の年に当たり、バッハは明らかにそれを意識して連作の制作に踏み切っています。ルターの意図は、コラール

          バッハ・コレギウム・ジャパン 第161回定期演奏会≪コラール・カンタータ300年①≫

          『め生える』高瀬隼子

          男女問わず大人の髪がごっそり抜けてはげてしまう奇病が定着してしまった社会。そこは、皆に髪があった時代には想像できなかった世の中になっており、それが故の奇妙な事態が数々起こっています。そんな中、例に漏れず髪が抜けていた主人公の女性は、ある日ふと気付けば、自毛が復活しているではないですか。しかし彼女は、周囲の目を恐れて、そのことをひた隠しにせざるを得ないのでした。 まず著者の奇抜な発想には驚かされます。この奇想天外な状況設定も勿論ですが、それが当たり前になった世の中で人々がどの

          『め生える』高瀬隼子

          『詩と散策』ハン・ジョンウォン/橋本智保訳

          数ページ程度のエッセイ25篇から構成された一冊です。著者のごく身近な風景や出来事の合間に、古今東西の様々な詩の断片が織り込まれ、独自の物静かな情感を醸し出しています。 著者ご本人については、猫や散策などが好きなことや、具体的には不明ながら様々な苦労や苦悩を経てきた女性であることが垣間見えること以外には、明らかにされません。時々どこか達観の境地に近い印象もありますが、かと言ってお高く止まったような所は皆無で、むしろ敬愛感を抱かせます。何れにせよ、著者の経験と思索が、この味わい

          『詩と散策』ハン・ジョンウォン/橋本智保訳

          春日部大凧あげ祭り

          「春日部大凧あげ祭り」に出掛けて来ました。毎年5月3日と5日に江戸川河川敷で開催され、大きさ100畳・重さ800kgにもなる日本一の大凧2機と、小凧(と言ってもそれなりに大きいもの)をいくつも揚げるイベントです。 初日の5月3日には行かなかったのですが、もしかしたらと自宅ベランダからそれらしき方向を双眼鏡で探したら、しっかり揚がっている凧が見えるではないですか! (写真6。Google Pixel 7 Proのデジタル30倍ズームで撮影。) そこで今日は現地を訪れることに

          春日部大凧あげ祭り

          東京ジャーミイ

          東京ジャーミイ の見学に行ってきました。都内にあるイスラム教のモスクです。 建物の外観も見事ですが、館内、特に2階の礼拝堂の中の入り組んだドーム天井と随所に散りばめられた装飾は非常に美しく、かつ異国情緒がありました。 休日に開催されているガイド付きツアーにも参加しました。あまりにも大人数が集まっていて、部分的に説明が聞こえなかったのは残念でしたが、礼拝所の中に座して午後の礼拝の様子を見せて頂けたのは、実に貴重な体験となりました。礼拝指導者のよく通る美声による独特の旋律の

          東京ジャーミイ

          『うるさいこの音の全部』高瀬隼子

          表題作「うるさいこの音の全部」と、その後日談となる「明日、ここは静か」の2篇で構成されています。 ゲームセンターに正社員として勤務しつつ、密かに小説を書き続けている主人公。ついに作品が文芸誌に掲載され新人賞を獲り単行本が発売されたことにより、主人公と会社を含む周囲との人間関係が歪み始めます。更に、2冊目の本が芥川賞を受賞し、社会的反響が拡大する中で、主人公にとっての現実と虚構の境界線が次第におかしくなり、自身を見失って行くのです。 小説家の仕事の内情を描いていますが、実体

          『うるさいこの音の全部』高瀬隼子

          『東京都同情塔』九段理江

          ザハ・ハディド設計による新国立劇場競技場の側に構想される、近未来的な超高層建築「シンパシータワートーキョー」。この奇妙な名前の施設は、新発想に基づく刑務所であり、今や犯罪者や受刑者ではなく「同情されるべき人々」と定義された人々が、極めて厚遇されて居住することになります。この設計を依頼された高名な設計士である主人公の女性は、この異様なコンセプトに違和感を拭えず、仕事を引き受けるかどうか逡巡しています。しかし、15歳歳下の恋人のような友人が何気なく言った「東京都同情塔」なる呼び名

          『東京都同情塔』九段理江

          『世界はラテン語でできている』ラテン語さん

          古代言語と思われがちなラテン語が、現代の世界のあちこちで潜在的に生き続けていることを、大量の実例を挙げて説明する本です。 世界史、政治、宗教、科学、そして現代および日本と章分けした分野毎に、ラテン語を源流とする言葉の数々が次々と例示されて行きます。ラテン語の影響が専門分野から日常生活までのあちこちに取り込まれている実態は、思っていた以上でした。 ただ本書は、あくまでもラテン語に由来する用語の例を連ねるに留まっています。ラテン語が英語など各種の欧州言語に組み込まれていること

          『世界はラテン語でできている』ラテン語さん

          「オッペンハイマー」(2023年 アメリカ映画)

          マンハッタン計画すなわち原子爆弾開発プロジェクトを主導したJ.ロバート・オッペンハイマー(1904-1967)の後半生を描いています。圧巻でした。 物語の主眼は、原爆開発のプロセスそのものよりも、米国原子力委員会の長官であったL.ストローズとの対立に象徴される、戦後のオッペンハイマーの政治的な処遇に置かれています。ストローズは、かつてオッペンハイマーを大抜擢したものの、後に私怨からオッペンハイマーの社会的地位を貶めようと策を弄します。オッペンハイマーが窮地に立たされた公聴会

          「オッペンハイマー」(2023年 アメリカ映画)

          『猿の戴冠式』小砂川チト

          主人公である元アスリートの女性は、動物園で出会ったボノボに、異様なまでの親近感を抱き、連日通い詰めます。一方でボノボの側でも、頻繁に訪れるこの女性に対し、やはり特別な何かを感じ取ります。これは、両者の幼少期にあった特殊な体験に起因するものでした。やがて発生したボノボの脱走事件を契機に、彼女は再起を図るのです。 著者の前作『家庭用安全坑夫』もかなり突拍子もない話でしたが、今回はそれをも上回る奇抜な話でした。(たまたま数日前に見たシュルレアリスム展の実験的作品を、ふと想起させら

          『猿の戴冠式』小砂川チト

          バッハ・コレギウム・ジャパン 第160回定期演奏会 ≪マタイ受難曲≫

          #BCJ の受難節公演、今年もJ.S.バッハの #マタイ受難曲 #BWV244 です。 もう数十年来、聖金曜日に受難曲を聴く生活を送ってきましたが、金曜日に休みを取って長い演奏を聴いて深夜に帰宅するのが体力的にきついので、初めて聖土曜日の公演を選びました。 今回の演奏は、熱血的と言う位に激しいものでした。指揮する #鈴木優人 は、父君である鈴木雅明に比べると、どちらか言えば穏当な演奏ぶりをする印象だったのですが、今回はかなり違いました。その一因には、指揮者自身の思い入れの

          バッハ・コレギウム・ジャパン 第160回定期演奏会 ≪マタイ受難曲≫

          桜並木@春日部市

          #春日部 より、#古利根川 沿いの #桜並木 がようやく咲き始めました。まだまだ見頃ではないものの、写真の撮りようでなかなか良い感じに見える程度には咲いています。次の週末まで持ちこたえて欲しいものです。 [2024/03/31 #風景 #春日部市 #かすかべプラスワン #桜咲くかすかべ ]

          桜並木@春日部市