見出し画像

ITを活用した事業継承の新たな形

「事業承継。」

企業支援をしている立場からすると、
経営者の間でも日常の話題になったと実感している。
特に、中小企業の世界では、ある程度社歴がある経営者にとって最重要な経営課題の一つと言っても過言ではない。

現に、事業承継を支援する、いわゆるM&A業界は、有望産業として活況を呈している。背景には、戦後の高度経済成長を根底から支えてきた、数多の中小企業が、時代の経過とともに、経営者交代の時期に差し掛かっているという実情がある。特に、創業者からどう次の経営者にバトンをつなぐかは、企業の重要な転換期であり、生き残り戦略を実践する上で最大の試金石でもある。

業種業態にもよるが、総じて、創業系の企業を継承するのはとても困難が付きまとう。もちろん、ファイナンス面で言えば、経営者個人の債務保証をどうするかというハードルが日本の場合は、大きな課題ではある。

今回は、企業が本来継承していくべき企業価値、技術、ノウハウ、顧顧客資産などの側面に焦点を当てて考えてみる。中小企業の特徴と言えば、アナログである。今、世の中はIT活用、つまりデジタル化の話題が沸騰している。特に国も政府もDX推進に躍起だ。もちろん、産業界や社会では、デジタル化の様々な取り組みが進展していて成果も出ているものもある。

こういう流れの中、事業承継にIT活用がどう貢献できるかを考えてみる。その一歩として、事業承継の成功に必要なポイントは幾つかあるが、IT活用と関連が深い3つをとり上げることとする。

それは、属人化の排除、経営の見える化、知的資産の活用である。

まずは属人化の排除を考えてみる。継続力、持続力に富んだ強い会社のイメージや特徴は、極端に言うと、社長やキーパーソンがいなくても、会社が円滑に運営できることである。言い換えれば、突出した個人に依存しない状態。この依存がとても重要なことを意味していて、突出した個人に依存して会社が活動しているということは、仮に、管理部門、技術や営業の現場でITを使っていても、総じていえば、結局はアナログ的な会社なのである。

反対に、パワフルな個人に依存しない状態とは、ITによる仕組みがあって、それを社員が上手に活用して、企業経営全般に関する日常業務が機能していることである。こういう風に読み替えると、ITのメリットが良く理解できる。

ただ、これだけでは不十分でもある。管理部門の仕事や技術的な現場などだけが、IT化できているということになりがちだ。これからの時代、部分最適でとどまらず全体最適(全社最適)を目指したい。

事業承継で大事なことは、創業者や社長が交代しても、企業経営が継続的に円滑に行われることである。こう考えた時に、重要なのは、経営者の特別な判断基準の共有である。これは経営判断を事例に考えてみると分かりやすい。この責任者による重要な判断も、中小企業の場合、経験と勘と度胸と言われることが多々あるが、今はやりようによっては、データを活用して客観的に論理的に判断できる可能性がある分野である。専門用語でいうとデータドリブン型の経営ということになる。

もう一つ、事業承継の要素として、見える化という視点で考えることも重要だ。そもそも、見えないことを人から人へ継承することは困難である。

SECI(セキ)モデル※はご存じだろうか?
形式知、暗黙知ではどうだろうか?暗黙知は見えない。
中小企業は暗黙知の塊と言われる。アナログ的と言われる所以だ。
一方、大企業には形式知がたっぷりあるイメージだ。SECIモデルというのは、形式知も暗黙知も両方重要でこれを継続的に連鎖して循環させることだと私は解釈している。つまり、形式知の活用、暗黙知の活用にもITを上手に活用する。
その原点はすべてデータとして記録することにある。社長の訓示を記録する。職人の技を記録する。営業トークを記録する。考えたらいくらでもある。当然業務マニュアルが整備された企業もあるだろう。研究開発のドキュメントも沢山ある会社もある。これは形式知の範疇だ。
仮にデジタル化されていても、今度はそれを有効活用できる仕組みがあるかが次のテーマになる。従来の業務管理や営業活動のためのIT活用とは全く視点が違う。会社の価値の源泉。これは、経済産業省が提唱している知的資本に該当する。こういう資本の蓄積のための記録を日々実行して経営に十二分に活用する。今どきの記録とはデジタル化が基本だ。事業継承のあり方が劇的に変わると私は考えている。未来志向の中小企業の現場で注目したい変化である。

※「SECI(セキ)モデル
 個人が持つ知識や経験などの暗黙知を、形式知に変換した上で組織内で共有・管理し、新たな知識や活用方法を生み出すフレームワークのこと。


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!