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中堅・中小企業はIT保守に相応のコストを負担せよ

 <要約>顧客とITサービス会社は、お互いに協力しあってWin-Winの関係(双方が利益を得られる関係)を目指すべきである。それには、一定のコストを負担してIT関連業務のアウトソーシング先と継続的な関係を培うことが重要なポイントとなる。相手に誠意を求めるなら、相応の“交際費”を払わねばならない…このことを肝に銘じたいものである。


 最近の傾向として、IT関連業務のアウトソーシングが盛んである。従来から、電算室に何人ものスタッフを抱えているような中堅規模以上の企業では、ITサービス会社からエンジニア(システムエンジニアやプログラマー)を派遣形式で迎え入れていたが、最近では単にエンジニアの受け入れでは止まらず、その会社の電算室機能そのものを一括してITサービス会社にアウトソーシングしてしまう例が出てきている。中小企業でもIT関連の問題が発生した時やシステムの改良を行いたい時は、ITサービス会社に依頼して業務を委託することが普通に行われるようになった。

 このようにIT関連業務のアウトソーシングは、その規模や内容が高度化すると同時に、アウトソーシングを受け入れる企業の裾野が広がっていく傾向は疑う余地も無い。この理由は明白だ。これだけめまぐるしく変化する(今後も変化し続けるであろう)ITにまつわる知識、必要なスキルなどを考えると、経営資源に限りがある中堅・中小企業が自社スタッフだけでフォロ-していくのは限界があるからだ。ならば餅は餅屋と言う訳で、ITサービス会社を使った方が技術的にもコスト的にも有利になる。

●ネットワーク保守が中堅・中小企業の課題に

 ところで、現在ではネットワーク社会の進展に伴い、中小企業でもなにがしかのネットワーク環境を構築しているところが多い。実際、総務省の調査によると、平成14年末時点で、LANを構築している企業が90%を越しているとのことである。会社にパソコンが1台しか無いところを除けば、今ではほとんど全ての企業がLAN構築を行っているということになる。

 ただし、LANの構築はできていても、本格的に業務に活用している企業はそれほど多くは無い。さらには、経営に欠かせないほどの位置づけにネットワーク環境を含めたコンピューター利用が出来ている企業数は、中小企業ではまだまだ少数であるというのが私の現場から得た実感である。

 ネットワーク利用のレベルは企業によって様々だが、現実問題として、日本ではネットワーク保守がほとんどの企業で必要とされている状況にある。そしてネットワーク保守業務をアウトソーシングで賄おうとする企業が増えてきたのも事実である。

 概ね、ネットワーク保守をアウトソーシングする理由としては次の5点だろう。

  ・トラブルの対応策がわからない。(ネットワーク保守ができる人材が社内にいない)
  ・現在の担当者が退職する予定。あるいは、辞めてしまった。
  ・ネットワーク保守に人手を割くと、他の業務に支障を来す。
  ・プロに任せて安心したい。
  ・プロに任せた方がコスト的に有利。

 この他にも、その会社独特の理由は多々あるだろうが、いずれにしてもネットワーク保守はその会社の本来業務ではないため、ここにあまり力を注ぎたくないのが本音だろう。しかし、一旦トラブルが起こると、肝心の本来業務に支障を来たすことになる。仕方が無いのでアウトソーシングで対応できるようにしておこうというところだ。

 しかし、まだまだお客様もアウトソーシングに慣れていないのが現実だ。特に中小企業では、ネットワーク保守に関して無償のアフターサービスと有償のアウトソーシングの区分けを理解していただけない例も多いし、「他の用事のついでにチョコチョコっとやっておいて」という感覚で、ITサービス会社から見れば理不尽な要求を平然とされる場合も多い。

 以前もこういう事があった。従業員が20名程度の専門商社であるF社と、中堅のITサービス会社C社の間に起きた事例である。C社は、F社に対してパッケージの販売管理システムと、それを動かすハード類を納入した。もちろん、コンピューターシステムを構成するパソコンなどの機器は、LANで結んでネットワークを構成してある。

 システムの構築はトラブルなく進み、無事に引渡しも終えた。しかし、その時点でF社とC社の間にはネットワーク保守契約は結ばれなかった。F社にはパソコン好きの社員が数人居るので、彼らにやらせるというのがF社社長の目論見だった。

 そして、数ヶ月が過ぎようとしていたある日のこと。F社社長からC社に電話があり、ネットワークの調子が悪いのでちょっと見てくれとのこと。F社のシステム構築を担当したシステムエンジニアがF社を訪問して話を聞くと、ネットワークにつないであるプリンターが印刷できなくなったとのこと。

 F社とC社はネットワーク保守契約を交わしていない。C社のシステムエンジニアが「今回の作業は有償になる」と説明したところ、F社の総務部長は「今回は“営業”だと思って特別に無償でお願いしますよ」と譲らない。そのうえ、F社の社員に今後同じようなことが起きた時のために、復旧の仕方を教えておいてほしいとのこと。

 C社のシステムエンジニアは困り果てたが、いつまでも交渉に時間をかけていることもできないので、プリンターとネットワークの調査を行い、問題を解決してから、復旧の仕方をメモに残して帰社した。

 それで終われば問題は小さかったが、F社からC社にはその後も時々ネットワークの保守に関する質問の電話や呼出しが続いている。ネットワーク保守契約の話を持ち出す度に「これで最後だから」とか、「電話で聞くぐらい構わないでしょう」といった反応が返ってくるばかり。一向に改善の兆しは見られない。

●重要なパートナーには“交際費”を使え

 これに似た事例は、中小企業においては案外多いのだ。F社がネットワーク保守などという“雑事”にお金を払いたくないと考えていることは理解できないでもない。しかし、ITサービス会社に一方的にその費用負担を求めるのは、おかしいと言わざるを得ない。いくらシステムを納入した会社であっても、今回のC社のように、その後のメンテナンスを無償で行っていては、会社の経営は成立たない。

 本コラムの連載第2回に、顧客とITサービス会社は持ちつ持たれつの関係が必要だと書いた。つまり、サービスには適正な対価を払うという習慣を顧客が身に付けなければ、結局は片腕となってくれるアウトソーシング先は見つからない。

 ネットワーク保守のようなサービスは、問題が出たときだけの対応を請けるITサービス業者は、たとえ有償であっても少なくなってきている。コスト的に割が合わないという理由のほか、問題解決にシステム全体への知識が必要になる場合も多く、単発的なトラブル対応を行い難いという事情もある。

 それゆえ、現在主流なのはネットワーク保守契約を結び、継続的にサービスを提供するスタイルだ。つまりネットワーク保守業務のアウトソーシングである。中堅・中小企業の経営者は、経費節減が行き過ぎるあまり、サービスは無料だという意識を持つ方がまだ多い。だが、IT活用が当たり前の時代においては、そのような考え方をしていると、ネットワークがダウンして業務推進に支障を来たすなど、結果的に高いコストを負担せざるを得なくなる可能性が高い。

 顧客とITサービス会社は、お互いに協力しあってWin-Winの関係(双方が利益を得られる関係)を目指すべきである。それには、一定のコストを負担してIT関連関連業務のアウトソーシング先と継続的な関係を培うことが重要なポイントとなる。相手に誠意を求めるなら、相応の“交際費”を払わねばならない…このことを肝に銘じたいものである。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第70回 中堅・中小企業はIT保守に相応のコストを負担せよ」として、2004年3月17日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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