見出し画像

小説同人に誤字を無くすことが難しい理由を編集者が考えてみた


「同人誌に誤字脱字、誤表現があるのはいかがなものか」

 同人界隈にいると定期的に目にする話題です。
 こうした内容のマシュマロが書き手の方に届き、それを火種として「指摘してくれるのはありがたい」「いやいや個人の趣味なのだから」と議論が紛糾していくわけですが。
 今回は、指摘することの是非や、同人における頒布者と買い手の関係についてではなく、もっと単純に、根本的に、「誤字脱字無くすの相当難しいのでは!?」という話を編集者になって身に染みた実感と共に、対処法まで考えてみたいと思います。

1.何度、何人が関わるか

  まずは、仕事として取り扱うコンテンツと同人誌の決定的な違い――「関わる人数と回数」について考えていきましょう。
 私が普段仕事で取り扱うのはwebと雑誌の記事(1記事辺り3000~6000字)です。これを媒体の特集にあわせて10数本、文字数にすると約7万字前後を1セットとして複数人で確認していきます。媒体や、その書籍の中身(一般書やビジネス書なのか小説なのか)によって工程は異なるかと思いますが、今回は私の知る前提で見ていきたいと思います。

■1記事が完成するまでの一例(※一部簡略・省略)

画像1

 関わる人数は約5名(※ものによって前後します。執筆者=編集だったり、校正者を入れなかったり、編集者と編集長だけで決定したり)。工程が下流に行くに従って、校正は減っていくものの、約7回は誤字脱字を発見できる機会があるということです。

 一方、同人活動(私の場合)。

画像2

 基本すべて自分。かつ左列の工程はあくまで切り分けるとした場合で、大抵はすべてを同時並行で行うことになります。書く自分と推敲する自分と誤字脱字確認をする自分、切り分けた方がいいと思いつつ、締切と「これ面白いのか」病に追われている状況ではそうもいかないんですよね……(私の場合は)。友達が協力してくれる段階で初めて気付くことや見つかる誤字もしばしば。(本当に感謝……)

▼推敲と校正と校閲の違い
「推敲」文章をより良くするために直すこと
「校正」誤字脱字、誤表現の確認
 という意味で一応使い分けています。使う人や場所によって多少意味はブレるそうです。

ちなみに
「校閲」内容に誤りがないか、事実確認
 →校閲は私の場合、生原稿の段階で行うことが多いです。

2.それでも、どこからか湧いて出る誤字

 以上のことから、小説同人に誤字脱字を無くすことが難しい理由は「その難易度に対して掛けられるコストが極端に少ない」ことにあります。だったらもっとそちらに時間を割けばいいじゃんと思うかもしれないけど、小説を書くことだけでも相当なエネルギーと時間を要するので、どうしたって限界がある。そのバランスをどう取るかは個人の同人観によるので、自由でいいと思います。これは趣味の活動なんだし。

 ただ本当に恐ろしいのは、これだけ複数人が関わる仕事の現場においても、続けていく限り完全に駆逐することは難しいということです。
 流石に滅多に起きませんが(起きていたら大変)、過去にこんなことがあったという誤字脱字失敗談は、先輩編集部員から必ず出てきます。下流の工程で「本文と図のなかで表記している漢字が違う」とか「段落空けが抜けていた」とか細かい部分を発見することもしばしば。
 これ、一人でやってる同人誌で完璧を目指すのは相当難しいって……!

3.結局、何ができるか

 小説同人で誤字脱字を無くそうと思った場合。
 複数人で行う確認作業を一人で行うには「切り分ける」しかありません。ただ先述のとおり、同時並行的に行っていると切り分けは難しいため、物理的に確認環境を変えるしかないでしょう。

①出力して紙で確認
 有名ですが、これは確実です。モニターで見ていると読めてしまっていた文字も、紙に起こすと途端に違和感が浮き出て見えてくる場合があります。
②時間を開ける
 朝書いた文章は夜に校正する、など時間を置くことは有効です。少し距離を置くことで脳内補完をすることを防ぐ効果がある気がします。その日に書いた文章ではなく、少し前のパートを読み返すなど、更に時間を開けると更にいいかもしれません。
③作業を分ける
 「執筆者=編集者=自分」だとどうしても校正と推敲を同時に行いたくなりますが、読み返す際に「今日は校正/推敲をする」と決めて徹します。また、校正も「見る校正」「読む校正」と分けると見落としが減ります
「見る校正」=意味は追わず、文字として見ていく。漢字表現にブレがある場合や、文字の順番が入れ替わってましっいてる箇所を発見するのに有効
「読む校正」=意味を追いながら読み返す。接続語や語順など意味が正しく伝わらない部分を中心に直す(推敲に近いけれど、小説の推敲はそこからシーンの流れの修正に……と書き換えになってしまう場合が多いので、一旦切り分けて作業をする)
④直した部分ほど読み返す
 以上のように、校正と推敲が切り分けられていないと、シーンに大きく修正を入れた結果そこに誤字が発生し……ということが起きがち(私の誤字は大抵これ)。なので、この辺は手こずってよく直したな……という部分は校正も念入りにするといいかも。
⑤もし頼めるならやっぱり協力者を募る!
 やはり先入観のない他人の目ほど信頼できるものはありません。文字書き同士、確認しあえる仲間がいると一番心強い。大抵皆同じ時期に原稿していたりするから頼みづらいんだけどね……


 以上も、全部採用する時間がない!という限界同人マンが多いと思います。これを全部やった方がいいという意味ではありません。私も全然出来ていないし。でも同時に、渾身の同人誌に誤字脱字が出てくるのも、ものすごい悔しいよね……それもわかる……

 結局は己の同人観だと思います。この記事を見て「こりゃあ仕方がない!自分は誤字脱字の確認は最低限に、とにかく生み出すことに専念するぜ!」でも「直せるなら直したい、校正にかける工程に工夫を入れよう」でもいいので、割り切るなり工夫するなり、自分にとってストレスのない文字書きライフの一助になればいいなと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?